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異世界召喚

魔法陣に包まれた教室の中で、ジンのクラスメイト 神室 勝利は斑鳩 千夏の安全を最優先に考えた。

自らの幼馴染である彼女に怪我をさせまいと、手を引き抱きしめる。


そして光がやんだ頃、勝利達は見知らぬ場所にいた。


「なんだ?ここは」


流石の勝利といえど、突然自分のいた場所が変わったという事実に驚きを隠すことができない。それは他のクラスメイトも同様だった。


「大丈夫?千夏、怪我は?」

「わ、私は大丈夫。勝利は?」

「僕も大丈夫だよ。無傷だ。でも、ここは何処なんだ?」


全員が混乱の声を上げ、騒ぎが大きくなろうとした時。

この部屋にある唯一の扉がゆっくりと開かれる。

何か恐ろしい物でも飛び出して来るのかと身構えるも、その予想に反して登場したのは普通の人間だった。

身に付けている物が西洋風でなければ、だが。


一人は恰幅の良い男。頭には王冠のような物を被り、赤いマントをたなびかせながらこの部屋に入室した。

もう一人は勝利と同じくらいの年の少女だ。

薄い桃色のドレスを見に纏っており、その容貌は驚異的な美しさを醸し出している。モデル顔負けのその美貌に、クラスの男子のみならず、女子までもが彼女に視線を奪われる。

そしてその後ろからゾロゾロと入って来たのは、鎧を付けた者や、ローブのような物を着用している者達だった。


清潔感のある白いローブに、錫杖を全員が携えている。鎧をつけた者、勝利は兵士であると推測したが、彼らは腰に剣をさしていた。


そんな事態に、まず口を開いたのは勝利。

臆面もせず、入って来た人物に問いかける。


「あなた達は誰ですか!?俺達をどうやってここに...!」

「余はこの国の王、イルヴ・テレマニアである。この子は娘のレイチェル。まずはようこそ!異世界の勇者達よ!」


そう答えたのは恰幅の良い赤マントの男だ。


異世界。


勝利もこの単語自体に聞き覚えはある。

教室の隅でクラスメイトが読んでいた小説を貸してもらった事があるからだ。本人はご都合主義が肌に合わず読むのを辞めたが、物語としては面白かったという記憶があった。


しかし、理解ができない。

異世界なんて存在するはずがないというバイアスが、今の状況を否定している。

だが、呑み込まなければ話が進まないのもまた事実だった。無理矢理その単語を消化すると、更に質問を続ける。


「なんで、僕達をこんな所に?それに、勇者って?」


もしも勝利がこの世界の人間だったならば死刑に等しい言葉遣いだが、当の本人はそれを知る由もない。


「ふむ、簡潔に言うならばーー諸君らは勇者として魔王を倒すためにこの世界に召喚されたのだ」


この言葉は、クラス内に新たな騒ぎを生み出すには充分だった。

勇者がいると聞き期待に胸を膨らませる者。

魔王がいると聞いて身体を震わせる者。

なによりここが異なる世界であるという事に悲しむ者。


その中で、千夏はたった一人の人間を探すためクラスメイトを見渡していた。しかし、どれだけ探してもその相手は見つからない。

確かに一緒にいたはずなのに、ジンはここにはいなかった。今頃は森でゴブリンと戦っている。

王の話など頭に入らず、千夏はその後も必死にジンを探し続けた。


「勇者.....?僕達はただの学生ですよ!?」

「いいや、確かにこの中には勇者がいるはずだ。確認してくれ、自らのステータスを。さすれば分かるだろう」


憤る勝利を宥め、イルヴはステータスを確認するように促した。


「ステータス」


疑いながらもそれを実行した勝利に続き、他のクラスメイトも「ステータス」と呟き始める。



==========================================


名前: カムロ ショウリ

性別: 男

種族: 人間

職業: 勇者 lv.1


体力:200 攻撃力:150 防御力:100

魔力:100


ユニークスキル

【言語理解】【火種】【聖剣召喚】


スキル

【聖剣術 lv.2】【算術 lv.6】【話術 lv.3】

【先天 lv.1】【体術 lv.2】【火魔法 lv.1】

【水魔法 lv.1】【風魔法 lv.1】

【土魔法 lv.1】【光魔法lv.1】


耐性

・なし


==========================================



これが勝利のステータスだった。

目の前に突如として現れた半透明の板に戸惑いつつも、勝利はこれに目を通していく。

信じられないのは魔法の欄だ。算術、話術、体術は分かるが、魔法なんてものが存在するのはこの世界のみ。

日本ではフィクションとして捉えられて来たそれが存在していることに動揺を隠せない。


他のクラスメイトも自分のステータスを見て、友人と話し合っている。中には自分がどれだけ凄いかをアピールしている者もいた。大半はクラスのオタク勢だったが。


「して、勇者は誰だ?」


イルヴの言葉に、生徒達は静まり返る。

そして、勝利はゆっくりとその手を挙げた。


「おお!そなたが勇者か!」


そう言って破顔するイルヴに戸惑いながら、勝利は状況の説明を求める。自分達が勇者一行だということは分かっても、彼らからすればこれは誘拐にすぎない。

説明を求めるのも当然の権利ではある。


「こんな所で話もなんですし、場所を移しましょう」

姫のこの一言で召喚の間から場所は変わり、一行は食堂のような場所に移っていた。

巨大な円形のテーブルに集まり、国王から詳しい説明がなされる。


その内容としては、最初に言っていた事と大差なかった。

この世界、リカオンには七人の魔王が存在する。

普段は敵対などせず、自分達の国を運営している魔王達だが、その中にも好戦的な者が存在した。

その魔王は近隣の国々を襲い、壊滅させ、自らの領土として着々と行動範囲を広げている。


このテレマニア帝国も例外ではなく、隣国が滅ぼされたことで魔王の手がすぐそこに迫っているとのこと。

勝利達のような強い力を持っている勇者に、国を助けてもらうために召喚の儀を行ったのだった。


「そんなのおかしいだろ....!」


勝利の口から、怒りの声が漏れる。

この世界の住人の勝手な都合で召喚され、あまつさえ命を危険に晒せと言われているも同然の説明。自分だけならまだしも、他の人を巻き込んだという事が勝利には我慢ならなかった。


「俺が勇者なのは認める。だが他の皆はどうなるんだ!?」

「落ち着いて下さい、勇者様。勇者ではないとはいえ、異世界人として他の皆様も力を授かっているはずです!」


レイチェルの言う通り、クラスの大半の人間は常人ならざる力を手に入れている。

この世界の一般人のステータスは平均で20〜25。勝利は言わずもがな、他の全員も平均の二、三倍のステータスを手に入れていた。


「お願いします、勇者様!私達を助けて下さい!」


戦う分には申し分のないステータスだが、それとこれとは別問題である。力があるからといって、それを行使する義務など存在しない。


「余からもお願いしよう。我々は日夜魔王の使役する魔物と戦っている。いつ魔王が本腰を入れて攻めて来るかも分からない状況の中、夜も眠れる市民が多く存在するのだ。貴殿達は強大な力を持っている!我々よりも遙かに強い力を!身勝手な願いだとは分かっている。だが、どうか、どうか....!」


イルヴとレイチェルは揃って頭を下げる。

一国の主が頭を下げるなど、本来あってはならない事だ。しかし、彼らはそれを躊躇もせず行った。それが打算に塗れていようとも、それを勝利が知る(すべ)はない。


もしここにジンがいたなら確実に断っていただろうがーー


「皆、僕は勇者として魔王を倒そうと思う。無理強いはしない。参加するしないも個人の自由だ。でも、僕達にしか出来ないことがあるってことは忘れないでくれ。それに、困っている人がいるなら助けないわけにはいかない!」


基本、勝利は正義感の強い人間だ。

ジンのゲームを咎めるのに同調したのも第三者視点から見れば正しい行いに他ならない。そこに千夏が絡んでいようと、彼は紛れもなく善人なのだ。


「お、俺も!」

「勝利くんがやるなら私もやる!」


そして、正義とは伝播する。

自分が善い行いをしているという肯定感に酔い、彼らは自らの意思を介在させず勝利に続いて行った。

中には他の思惑もあれどーー


こうして決まった。

彼らが勇者として魔王を倒すことが。


そして誰も気付いていなかった。

今尚下を向いている王の、下卑た笑みに。


他の生徒は後で出てきます!

次はジンの視点に戻るでごわす!

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