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プロローグ

お納めください。

ゲームが好きだ。


他の何にも勝る、頭を、肉体を、そして精神をも駆使する。


そんなゲームがしたい。


しかし、人生はゲームにはなり得ない。


受験、就職、恋愛、etc.....


イベントは多々あれど、その中で人々はどれだけ必死になるだろうか?

よく、死ぬ気で勉強した。とか、死ぬ気で頑張った。とか言う人はいる。

だが、それは本当に死ぬ気だったのか?

死を寸前で感じたのか?

自らの命を捨てられるほどに熱狂したのか?


恐らく、これは俺の偏見だが、そんなことは無いのではないだろうか。

受験に失敗したところで死なない。せいぜい学歴に傷がつくだけだ。

就職に失敗したところで死なない。せいぜい他人からの嘲笑にあうだけだ。

恋愛に敗北したところで死なない。せいぜい勝者に嘲笑われるだけだ。


例外はある。だが、大体の人はそうだろう。

己の自尊心を守るため、死ぬ気で頑張る。そんなのが果たして本当の死ぬ気といえるだろうか?


俺はそうは思わない。


だから、やってみたい。自分の命を賭けた、失敗のできないゲームを。







♦︎♢







昼休みが終わり、一日で一番眠たくなる午後の授業。

もはや生徒の成績を下げるために行われているのではないかという疑念と共に、俺 木下(きのした) (じん)は古典の授業を受けていた。


何がかわゆしだ。昔の言葉なんぞ学ぶ必要があるのか?大人達が使っている所なんて一度も見たことがないぞ。

まあ、社会に出るための予備知識みたいなものなんだろう。そう納得させなければ授業なんて受けていられない。


ふと窓の外を見れば、今日も変わらず太陽が俺達を照りつけている。クーラーが効いているとはいえ、窓際だとさすがに暑い。それがまた一層俺の眠気を誘うのだが、内申のためにもここで寝るわけにはいかないーー




睡魔と戦うこと約五十分。

ついに古典の授業が終わり、俺は解放された。

鞄からゲーム機を取り出し、すぐに起動させる。休み時間は十分と短いがそれでも一つくらいは戦闘を終わらせられるだろう。

昼休みにやり残したタスクをこなさなければ。


「ちょっと、何やってるの?学校にはゲーム持ち込み禁止よ?」


そう思った矢先、横から嫌に高い声が割って入った。


「少しくらい良いだろ、委員長」


このクラスの学級委員長である斑鳩(いかるが) 千夏(ちなつ)。黒髪の美人だが、少々性格がキツいので俺は苦手だ。プロポーションも良く、出る所は出て引き締まっている所は引き締まっているというモデル顔負けの体型。それが人気を呼び、今では全校生徒が知っているほどの有名人らしい。


「駄目よ。あなた昨日も同じ事してたじゃない」


規則違反なんて吐いて捨てるほどいるだろうに、なんで俺ばかり取り締まるのやら。いくらイベントがあるといっても教室でやるのは軽率だったか。


それでもゲーム機を仕舞うのを渋っていると、もう一人生徒が近づいてきた。


「おい、木下。千夏を困らせるなよ。ゲームくらいいつでもできるだろ?」


無駄にイケメンな顔、振り撒いている雰囲気すらイケメンのそれだ。クラスの中心人物 神室(かむろ) 勝利(しょうり)。確か斑鳩の幼馴染だったはず。そのため、コイツは何かにかけて斑鳩に付き纏っているのだ。

それが恋愛感情なのかそれともただの老婆心なのかは知らないが、単純に迷惑である。


にしてもゲームがいつでも出来るとか....何様だコイツは。何も知らないくせに口を出してくる、俺の一番嫌いなタイプだな。

だからといってここで神室に反論するほどの気概は俺には無い。こんな奴でも顔が良くて勉強ができるのでカースト的にら最上位に位置している二人だ。


言っていなかったが、俺は途轍もなく影が薄い。それはもう怪奇現象並に薄い。どれくらいかと言われれば、本気を出せば目の前にいても気付かれないくらいには薄いのだ。だが、それを悲観したことは一度もない。むしろ目立たないために喜んでそのスキルを活用している。


いつもは影が薄いと言われる俺でも、コイツらと一緒にいれば目立ってしまう。それを避けるため、ゲームを仕舞おうと机の横にある鞄を開いた時だった。


「ん.....?」


薄らと教室の床に線が引いてある。

いや、線というよりもこれは何かの模様?そう思い目で追っていくと、段々と線は太く、濃くなっていく。

目の前で起こる不可思議な現象に、俺はどこか嫌な予感を覚えた。

どんどんそれは明確になっていき、遂に教室中の全員が床に目を向けている。そして、俺は気付いた。気付いてしまった。


これが、魔法陣であると。


そう思った時にはもう遅かった。神室が気を付けろと叫んでいるのを最後に、俺の視界は光に呑み込まれる。

手からゲーム機が滑り落ちるのを感じながら、俺の意識は闇の中へと落ちていった。









顔を撫でる風の感触で目を覚ます。


寝ていたような感覚とともに目を開くと、まず最初に視界いっぱいに広がる青い空が映った。


は?ちょっと待て。俺、教室にいたよな?


次に顔を横に向けて見れば、生い茂る木々が確認できる。360度どこを見ても木、木、木。誰がどう見ても、ここは森だ。


問題はなぜ俺が森の中にいるのかという事。

教室にいた最後の記憶は神室の叫び声...そうだ、魔法陣!


あれに呑み込まれたんだ、俺達は。

だというのに、ここにいるのは俺だけ。他のクラスメイトは影も形も見当たらない。


誘拐を疑うも、なんでこんな森の中に放置しているのかという疑問が浮かぶ。


違う、あり得ない。そんなはずがない。


俺は基本、幽霊だとかサンタクロースだとかは信じない性質(たち)だ。だから、否定したい。そんなことがあり得るはずがないのにーー


俺は今、それ以外の可能性を見出すことができない。


教室に現れた魔法陣。見渡す限りの森。


これは、異世界召喚なのではないか?


もっと詳しく言うなら異世界転移だ。

召喚者らしき人はいない。だとすれば、召喚というよりは転移に近いのではないだろうか。

こんな推測は非常識だと分かっている。それでも、逆にそう考えて見れば辻褄が合ってしまう。


否定材料が見つからない今、俺がすべきは「なぜ」ついて悩む事じゃない。これから「どうするか」だ。見たところクラスメイトはいないし、ここには俺一人。それに森の中なら当然獣の類もいる。

頭の中はぐちゃぐちゃだ。今は正常な思考が出来る気がしない。


「取り敢えず....どこか安全な場所を探すか」



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