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探偵と助手のミステリ日記  作者: 天津風乙女
3/6

【宝石】との出会い

白上からの返事はない。静かで暗い森の奥まで走り続ける。人がいないような、奥のもっと奥まで。

「ちょ、白上!こんなところ…で…」

 白上が見上げているのは高い木の上。そこにいた人物に俺は目を見開く。黒いローブに仮面。口元につけられているマイクに縦長の…剣。彼女は俺らに背を向けて優雅に空を眺めている。間違いない。身長的にさっき拾ってくれた女性だ

「…アレキサンドライト…。俺を裏切ったな」

「なんのことかしら?」

 彼の質問に彼女…アレキサンドライトは変声期を使いながらそう短く答える。なんのことだ…、裏切る?頭が追いつかないッ!俺はピリピリしている圧に何も言えずこの場でただ、突っ立っている。

「宝石、変えただろ!裏切られたら…そんな…っ」

 白上はその場でうずくまる。俺は彼に駆け寄り慰める…そうしたいのに。足が、足が動かない!手が震えてきている。ここにいてはいけない、そう体が拒絶しているのに動けない。まるでなにかに襲われているように。

「少年、君が目を白黒しているから教えてあげるよ」

「……」

 彼女は俺のことを見下すようにほほえみながらそう言う。さっきの優しい女性とこのアレキサンドライトが同じなんて考えるだけで頭が痛くなる。

「私の名前は《アレキサンドライト》。元々こいつは私の下僕だったんだ。でもこいつは大切なネックレスをなくした。宝石をなくした。主を裏切った。だから私も裏切る。ね、間違ってないでしょ?」

 彼女は微笑みながらそう言う。怖い。逃げたい。56される。彼女の微笑みで全てが伝わる。でも裏切るって何を―

「罪をなすりつけるの」

「っ!?」

彼女は俺の心を読み取ったように微笑む。罪をなすりつけるってどうやって―

「大丈夫大丈夫!ちゃんと証拠は届けているから!」

 またもやオレの心を読み取りそう答える。笑顔で、満面の笑みで。俺は少し足を引きずりながらも逃げれると思った。だが、足元にはうずくまって口をあんぐりと開けながら震えている白上がいる。流石においていくことはできない。生まれてきて初めてできた友達を裏切るなんてできやしない。俺は振り出しに戻ったような気持ちで地面を見つめる。

「お〜、アレキサンドライトじゃん!やっほ~」

 すると後ろから、とても愉快で陽気な声が聞こえてきた。誰だ?アレキサンドライトの名前を知っているということは彼女の仲間かその取り巻きか?俺は恐る恐る後ろを振り向く。

「だ、誰だ…」

「待って、俺の名前知らないの!?うわ〜悲しすぎるよ〜」

 森の奥は暗い。だが振り向くとスキップしながらこっちに向かってくる男の男が来るのはわかった。この空気を押し返すような雰囲気で笑っている。やばい、こっちに来―


キーンッッ!!


「は、え?」

 俺は思わず奇声をあげる。さっきの謎の男は一秒もたたないうちにアレキサンドライトの所へと対面し、彼の槍と彼女の長剣がぶつかり長鳴りするような音を奏でていた。え、槍?

「久しぶりだなアレキサンドライト。」

「久しぶりだな赤峰少年」

 アレキサンドライトは彼―赤峰に剣を向けながらそういう。また赤峰もアレキサンドライトに槍を向けている。俺は、いや俺と白上は呆然とその光景を眺めていた。

「赤峰少年。その槍を捨てない限り私は言い続けるよ?そこをどけ、武器を捨てろ、戦うな。と。」

「それは無理かな〜」

 彼女はさっきの余裕そうな顔ではなく真剣な顔で赤峰を見つめていた。その反面赤峰は余裕そうに微笑む。

「ごめんね、赤峰少年。悪いけど、こっちも準備してあるから。」

 彼女がそう言うと、赤峰に向かってコウモリが襲いかかる。それも牙をむき出しにした強烈で邪悪なコウモリが。

「くっ…」

 赤峰は引きつった笑顔を保ちつつ避けているが、量が多すぎるのか、額には汗が浮かび上がっている。危ない、後ろから近づいてくるアレキサンドライトに目が行っていない!このままだと赤峰は後ろから確実に刺される。

「危ないっっ!!」

 俺はアレキサンドに向かって走り思いっきり体当たりをする。怖いという思いの方が強いが、今は何故か助けたいという思いのほうが強くなった。意外と赤峰が来てから空気が和らいだからなのか知らないが、なんか今なら助けられるかもしれないと思ったのだ。

「っ、ガチありがと!」

 赤峰はコウモリを押さえつけながら俺に言う。くっ…さすがに武器なしじゃ、きついぞ。こうなったら最終手段だ。俺は近くにあった木の棒を手にする。

「おや?少年は赤峰少年の仲間かな?なら容赦はしないけど…」

「あぁ、容赦しなくていい。本気でかかってこいよ。」

 俺は手にした棒の先をアレキサンドライトに向け微笑む。大丈夫、本気を出せば俺だって勝てるし。そう嘘の思いを思い込み、俺は一歩下がり一度息を整えてから彼女に向かって走る。


スカッッ!


「っ…へぇ…、少年にしてはやるねぇ…」

 俺は彼女が一瞬気が緩んだ隙を狙い腹部を狙った。が、間一髪の所で避けられ腹には当たらなかった。けれど…腹部の服が切れたのだ。木の棒なんかで切れることにビビったのであろう。彼女はいろんな木に飛び移り、俺から逃げるようにして隠れようとしている。俺はそんな彼女を遠回りをして追いかけ―

「ぎゃぁぁ!?」

 赤峰さんの声だ。俺はとっさに後ろを振り向く。さっきよりもコウモリの数が増えている。どうすればいい…、あっちもこっちも、どちらに行くべきか…。っ、もしかしてあいつの狙いは…!

「残念だよ少年。気づくのが遅すぎる。」

 気づいた頃にはアレキサンドライトは遠い遠い木の上に立っていた。ここから追いかけるのは無理だ。

「じゃあね、赤峰少年と、えーと、颯太少年」

 は?なぜ俺の名前を知っている?そんな疑問を抱く時間なんてなかった。いつの間にか彼女は遠くの木のてっぺんで月夜に照らされながら手を振る。

「おいっ!ちょっと待て!」

 俺がそういったときには既に遅く、彼女の姿はなかった。そういえば赤峰さんと白上はどこにいるんだ?さっきから声も聞こえないし…。もしかしてコウモリに襲われてるとか?少し離れた木の影に白上の髪の毛が見える。あんなところにいたのか。

「白上」

「んでさ〜、アレキサンドライトって意外と胸デケェんだよ〜」

 もしかしてだけど赤峰さんですよね??俺がいない間に君、何してるんです??

「えっ、マジすか!?俺全然気づかなかった…」

「あいつ強がりだから隠して―」

「おい!!てめぇら!!!なにやってるんだ!!!!!」

「「ひいっ!!」」

 俺がそう注意すると…いや母親気取りで叱ると彼らは肩を飛び跳ねさせた。



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