俺もそこまでバカではありません
それにしても何だったんだ。華怜。
あの感じは.......絶対に俺の事を疑っている。
間違いない。
でも普通、違和感は感じたとしても、入れ替わりなんて実際に疑うか?
当事者だった俺が言うのも本当におかしな話だが、あまりにも非現実的だぞ。
とりあえず、俺はそんなことを考えながら華怜が一時的にいなくなった教室をすぐに脱出。
一刻も早くここを......って
ま、まじかよ。
廊下に出た途端、前からは一人の女性がこちらに側に向かって歩いてくる光景。
何でこう.......。タイミング
とにかく、も、もう同じミスは犯さない。
もちろん彼女にも。
華怜が去ったと思えば今度は紗弥加。
まさに、これが一難去ってまた一難と言う奴か。
何で本当こう立て続けに.......
いや、まだ紗弥加が一難と決まったわけではない。
正直、あの今朝の気持ち悪い男が歩いて来たと向こうから俺を避けてくれる可能性も。
う、うん。その可能性の方がむしろ高い。
現にもう彼女はちょうど俺の後ろに
「ねぇ、あなたの友達はそんなに私に似ているのかしら」
お、俺の後ろに......。
ものすごく至近距離からそう彼女の言葉が聞こえてくる。
「は、はい?」
最悪だ.......。彼女の足が俺の真後ろで完全に止まった。
「今朝のあなた、私を誰かと間違えたわよね」
「まぁ......そうですね。すみませんでした」
背後からでもわかる。感じてしまう。
か、彼女の鋭い視線を......。
迂闊なことを一言でも言えばもう.......
「ちなみに誰と間違えたのかしら?」
誰と......。
「し、知り合い」
「そう......」
で、何だその沈黙は.......。
「あなたの名前は?」
「風間です......」
「そう。風間くん.....。ところであなた本は読むの? 今日、教室で読んでたわよね」
「ま、まぁ多少は.......」
な、何だよ。それ。
教室って......いつだ。いつ来た。
「あなたは作之助と漱石どっちが好き?」
「そ、それはまぁ強いていうならば.....漱石かな」
これは......
やっぱり紗弥加も......
「あなたは『火』と『炎』ならどちらが好き?」
「まぁ......『炎』かな」
完全に紗弥加も.....
くっ.....ただ頑なに回答を拒むのもな
「じゃあ、あなたは『0』と『1』ならどちらの数字を好む?」
「1だ」
それにしてもさっきから俺にかまをかけやがって......
彼女の口から聞こえて来るのは、おそらく全て過去に《《俺》》が答えたことのある質問
俺もさすがにそこまでバカじゃない。
ここは逆で答えさせてもらう。下手な嘘をつくつもりはないがここはさすがに逆だ。
まぁこれ以上、彼女の言う通りにしていても俺に何のメリットもない。
万が一ボロが出てしまう前に撤退させてもらう。
いつ、華怜が帰ってくるかもわからないしな。
「とりあえず、良くわからないし申し訳ないが急いでいるんだ。じゃあ」
このままもう振り返らない。
振り返らずに行かせてもらう。何があってもな。
「そう......。じゃあ」
意外に聞き分けが良い。
逆にそこが違和感に感じたりもするがここは素直になる他ない。
俺は再び足を進め始める。
それにしても本当にこれは真剣に.......
「ふふっ、あなた、私が嫌いなバカと全くもって逆の答えをするのね。すごく面白いわ」
なっ........
そして思わず後ろを振り向く俺の目には、自分と同様、再び足を進め始める綺麗な黒髪女性の後ろ姿が映り込むのであった