親友は凄腕の情報屋です?
「相変わらず羨ましいな.......。お前」
「あ? 何がだよ」
つい先ほど、環奈が急に機嫌を悪くして教室から出ていったかと思えば、今度は唐突に後ろの方から野太い男の声がする。
そして気がつけば不気味な笑みを浮かべて俺の机の上に腰を降ろす一人の男。
「お前なんて爆ぜればいいんだ......」
爆ぜる? 何でだよ。
環奈も環奈だけど、こいつもいつも意味わからんな.......
神宮寺 翔輝愛
とりあえず今、俺の前には大きな尻と共に中肉中背に眼鏡のその名の男。
言っては悪いが、俺はここまで名前と容姿のイメージが乖離した男を今までにこいつ以外に見たことがない。
神宮寺 翔輝愛
この名前で出てくるのは普通は絶対にイケメンじゃないと駄目だろう。
なんで意味もなく常に指をポキポキさせてる地味な小デブ眼鏡が出てくるんだよ.......
「そう言えばお前、知ってるか?」
「あ? 何をだよ」
まぁ、悪い奴ではない。
一応は友達と言えよう。一応は。
それなりにこいつとは長い付き合いだしな。
それに本人がおそらく一番........
「教えて欲しいか?」
「別にどっちでもいいけど。まぁ話したければどうぞ」
「ったく、しょうがねーな」
こんな感じだがそれなりに役に立つ男でもある。
俺が勝手に呼んでいるだけではあるが、一応は別名『見えない情報屋』
俺も人のことは言えないけれど、その圧倒的な存在感のなさにより彼の周りには常に数多の情報が渦巻いている。
そしてこいつはこう見えてお喋り。
俺にだけお喋りだ。
というか、今思えばこいつが俺以外の奴と喋っている光景を見たことないな......
いや、もう一人いるか。
まぁもう一人は結構休みがちだからアレだけど。
実際、俺があいつだった頃にこいつに何度か話かけた記憶があるがガン無視しやがったし。
あれは本当に綺麗なガン無視だった.......。
まぁ、そんなことも別にどうでもいいとして何だ。
どうせ話さなくてもいいと言ってもお前は勝手に話してくるんだ。
聞いてやる。
一応こいつが持ってくる話にはそれなりに面白いものも結構多いしな。
「へっ、今回も中々面白いぞ。隣のクラスのあの西園寺紗弥加の話だ」
ん?
「いや、結構です」
止めろ。ついさっきあった黒歴史を音速で蒸し返そうとするな。
ようやく記憶から消せそうだというのにその名を出すな。
「本当に止めろ.......。神宮寺」
とにかく今は結構だ。
「昨日、藤堂が大塚に振られたことはお前も当然知っているとは思うけどよ」
はい。聞いてない.......。
はい。
一度話し始めたら止まらないのがこいつ。
知ってる。痛いほど知ってる。
もう何を言っても無駄。
「あの後、実は俺、すごい現場に遭遇したんだよ。放課後」
あぁ、そう言えばそんなこともあったな。
俺の5カ月の頑張りが無になったそんな瞬間も.....。
ま、今の俺にはやっぱり関係ないから本当にどうでもいいけど。
「実はな。藤堂、まさかの大塚に振られたその足で今度は西園寺に即告白だぜ。ははっ、笑っちまうだろ。いくら何でも早すぎだろ切替え」
あいつ......。
本当に何でもありだな。
ちょっと予想以上だぞ。おい.......。
まぁ、それも別に俺に関係があるかと言われれば別にな........
「へっ、しかもあいつ、糞みたいな嘘ついてやがったぜ。本当に糞みたいな。『俺はお前と付き合う為についさっき、華怜を振ってきた。わかるよな。俺と付き合え』だってよ。ふっ、笑いが止まらねぇ。バリバリお前の方が振られたんだろうが。やばくね。ダサすぎだろ」
藤堂........。
「で、肝心の西園寺の返事はどうだったと思う?」
あいつの返事か.......
「ん......。わからん」
そもそも付き合うことになったのか.......?
それとも振られた........?
紗弥加的には......
「それがな『やっぱりあなたはそういう人だったのね。私のあの時の答えは間違っていなかったみたいで安心したわ。二度と私に話しかけないでちょうだい』だってよ。あの時の西園寺の鋭い目つき、何か俺すっげぇゾクゾクしたぜ。さすが西園寺様だ。マジギレ西園寺様.......」
こいつ、一体何言ってんだ......。
ゾクゾク? バカなのか? 知ってるけど。バカだよな、やっぱり。
あとあの時って、ん?どの時?
まぁいいか。心当たりない。
「で、さらに面白いのが藤堂、完全にフラれてるくせにまだそこからグイグイ行きやがってさ、最後はどうなったと思う?」
「どうなった......」
フラれてもグイグイ行くって......
やっぱ陽キャはすごいな。
「最後は西園寺様の強烈なビンタ。あれは最高のご褒美だったろうな。羨ましいぜ藤堂」
神宮寺......。
俺がお前をビンタしてやろうか。おい。
「あと、あの時の藤堂の悔しそうな顔、マジでメシウマだったぜ。ざまぁみろってんだ。イケメンでいくらモテたとしても全てが全て思い通りに行くと思うんじゃねぇ!」
あと、一応は知っていたけど中々性格悪いな。お前。
陽キャに対しては特に......
それにしてもそうか。
振られたのか藤堂。
ビンタ.....。一応それなりに仲良かったんだけどな。
よっぽど変なことしたか。わからんけど。
へぇ.......
華怜の時もそうだが。
一応、この前まで入っていた身体がフられるのは何かちょっと若干ではあるが思うところもある。
本当に若干ではあるが......。
まぁ、どっちにしろ俺にはもう関係ない。
朝の黒歴史と共に彼女のことは一旦忘れよう。
うん。忘れよう。
それにしても良かったな。
俺、ビンタされなくて.......。
「ざまぁ見ろ陽キャ。お前の時代はもう終わったんだよ。何だよ。大した実力もない癖に。顔が良いだけだろ。顔が。それに別に顔も全国的に見ればお前ぐらいの―――― 」
そして神宮寺......。
さっきから何を小さな声でブツブツと......。
一回黙れ。一回。
俺もだけど。
虚しくなるだけだからよ......。