風間颯太は不健康にも夜更かし君です
はぁ、昨日も色々とあったが.......
今日は完全なる寝不足だ。
昨晩、俺は好きな深夜ラジオをいつものように2時まで堪能。
そして、まさかの自分の投稿が読まれると言う大快挙を達成。
ほんと興奮からラジオが終わっても眠るに眠れなかった。あれは本当に興奮したし嬉しかった。
まぁその代償が今まさに身体に来ているわけだが........
とりあえず、1限目の睡魔を何とか乗り切った俺は、これでもかと虚ろになった目と共にカフェインを求めてお目当てのブツがある中庭の自販機へと足を進める。
「くっ......」
校舎から出た途端に襲ってくる朝の陽ざしが、控えめに言っても今の俺にはうっとうしい。
どうしても、そう感じてしまう。
それに、やっぱりくそ眠たいな.......。
夜更かしが原因とわかってはいるがそれを差し置いても眠たいのだ。
まぁ、朝1で古典というのもでかかったよな。
って、先客か........?
ようやく俺の目の前にお目当ての自動販売機が現れたかと思えば、その前にはスタイルの良い一人の女性の後ろ姿。
背中の真ん中あたりまで伸びる綺麗な黒髪が、朝の陽ざしを反射し、またもや重い瞼の奥にある瞳を刺激する。
一見するとすごく絵になる景色かもしれないが、まぁ今の俺にはちょっと.......。
そして、そんな俺の耳には今度は小銭が地面を転がる音。
現に500円であろう金貨が俺に向かって転がってくる。
コロコロと......。
「ん、よいしょっと」
さすがに俺も、こう目の前に転がってこられると拾わないと言う選択肢はない。
俺は重い腰を折り曲げ自販機の前に立つ女性の隣へ。
「はい。落ちましたよ」
って、あ.......
するとそこには見知った女性の姿。
「何だ.......。紗弥加だったのか。なら、これだよな。てか、久しぶりだな」
俺はその見知った女性の財布から転がってきた小銭が実際に500円であることを確認し、目の前の自動販売機へと投入。
そして慣れた手つきでボタンを押して、またもや重い腰を折り曲げ商品の取り出し口へ手を入れる。
取り出した手にはいつも彼女が好んでいた紅茶のペットボトル。
「ふっ、『紅茶華伝』 もちろんHOTだ。はい、どうぞっと」
そう。隣にいるのは西園寺紗弥加。
彼女は隣のクラスの女の子。
紗弥加と俺は同じ図書委員だったこともあって見知った仲だ。
ふっ、意外にも初めは結構というか、かなり嫌われている感じがあったからやりにくかったんだけど、実は好きな本の趣味がお互いに合ったりとそれなりに仲良くなれたんだよな
『へぇ、あなた作之助が好きなんだ。すごく意外ね。でも私もよく読むわ。いいセンスしてるじゃない』
『ねぇ、あなたの勧めてくれた本を読んだわ。すごく面白かった。やっぱりセンスいいわね。お礼に私のお勧めも特別に教えてあげる』
こんな感じの会話をよくしたことを覚えている。
まぁ、ただ色々とそのせいで危なかったんだよな。
何とか誤魔化せたけども軽率だった。なんせ藤堂は本なんて読むキャラじゃないから.......。普通に考えたらわかるけれど、当時はちょっとな。
自分では色々と入れ替わりがバレないようにと配慮するんだが、どうしても心は俺だからやっぱり偶にな.......
『あなたって本当に何か雰囲気変わったわね。ふふっ、本当に藤堂くん? 私、あなたのこと色々と勘違いしてたのかもしれないわ』
なんて言われた日には真剣に焦った。まぁ何度も言うが入れ替わりなんて本来絶対にありえないことだし、普通に誤魔化せたのは誤魔化せたんだけどな。
まぁ、今となっては良い思い出か。
『もし、あの時のあなたが今みたいなあなたなら......って、可愛い彼女がいるあなたに今さらこんなこと言うのも野暮だわね。ふふ、ごめんなさい。忘れてくれて結構よ』
まぁ、他にも彼女とは色々あったし、こんな感じでよくわからないことを言われたりされたりもしたけれど、とにかくバレずに最後まで俺は藤堂をやり遂げた。
とりあえず、彼女とはそんな感じで図書館などで色々あって
俺は紗弥加がこの『紅茶華伝』の超ヘビーユーザーであることを知っているのだ。
見た目通りに噂ではかなり良いところのお嬢さんみたいだが、いつも決まって飲んでいるのはこの400mlぐらいの小さな『紅茶華伝』というところが親近感が湧いて何とも微笑ましい。
ま、俺は『紅茶華伝』よりもこっちの.......
「そう言えば、あっちの方は順調か?」
見る限りでは何となくだが元気がない様な気がする。この前にすれ違った時も表情に影があったと言うか何というか。
と言うことはやはり順調ではないのだろうか?
って、あれ?
お、俺。な、何かを忘れている様な。
と、とてつもなく大事な何かを.......
「は? え!?」
そして隣を見ると、何とも言えない顔でそう言って俺のことを凝視する紗弥加。
お、俺はみるみるうちに眠気が冷めていく。
さっきまでの眠気がまるで嘘の様に.......
さ、最近の俺は心からバカすぎる。
本当に......
どうした。
気をつけているとは言え、元に戻れて気が緩みに緩んでしまっているのだろうか。
今だっていくら寝ぼけていたとしてもあまりにも......
どうする。
とりあえず、咄嗟に俺の口から出た言葉は一言........
「わ、悪い。人を.....間違えた。」
そして俺は全速力でその場を立ち去った.......
「くっ......」
い、一見すると俺は本当にバカ、いや、実際にバカなのかもしれないけど違う。
いや、入れ替わっていたなんて非日常な状況、頭が色々と混乱しちまうんだよ。
実際に入れ替わって見ないとこればっかりはわからないだろうけど、本当に難しいんだよ。
それにしてもこれはまた......
ちょっとこれは......
ま、まぁさすがにバレることはないとは思うけど、絶対に気持ち悪い奴だと思われたな......。俺。
だってこの身体の俺は紗弥加と関わりがないからな.....