幼馴染と学校帰りに寄り道です
「ふふっ、嬉しいな。颯ちゃんが一緒に寄り道に付き合ってくれるなんて。何か最近の颯ちゃん、変わったね。」
「そ、そうか? 何も変わっていないと思うけどな」
替わってはいたが、変わってはいない。
まぁ、入れ替わっていたことによってあんな陽キャ集団の中に5カ月もいたんだ。
若干は社交的になった感はあるかもしれない。本当に若干は。
「ふっ、おい環奈。何してんだ。離れような。俺は勘違いしないからいいけど。好きでもない相手にそんなことしてるといつか危険な目に合うぞ」
また、こいつは腕なんて組んできて........
「むぅ、颯ちゃんの鈍感さん」
「鈍感さん? 何言ってんだ」
それにしても学校帰りに寄り道なんて、あの頃は全くもってありえなかったことだけど今となればここら辺のほとんどの店、華怜と一緒に行った記憶があるな。
下手すりゃ環奈よりもう色々と詳しいんじゃないか? 俺
「それに颯ちゃん、やっぱり変。何か余裕な感じがする。怪しい......」
「いや、別に普通だろ。本当に何言ってんだ」
「いや、おかしい。だって不登校になる前の颯ちゃんなら、もっと目がギョロギョロと泳いでいて面白かったよ。こういう時!」
「いや.....面白かったっておい。あと顔近い」
マジか。俺、環奈相手に、それに高2にもなってそんな感じになっていたのかよ。
まぁ、腕を組むなんて毎日の様につい最近までは華怜としていたし、耐性がついたのかもしれないな。良いのか悪いのかはわからないが。
「ふふっ、近くてもいいじゃない。私たち幼馴染なんだから!」
「なんだその謎理論」
まぁ何故かいつにもなく上機嫌みたいだから、もう何も言わないけど。
「でも、藤堂君と大塚さん。びっくりしたね。別れようとか言ってたもんね、今日。颯ちゃんは知らないかもしれないけど、ついこの間まで超ラブラブだったんだよ。あの二人。超! 本当に」
「へ、へぇ......。そうなのか」
確かにアレにはかなり驚いたけど。
超ラブラブ.......
「うん、そうだよ。私、ちょっと藤堂君のこと見直しちゃってたもん。顔はかっこいいのかもしれないし、人気だけど。女の子には何かだらしない感じがしてたからさ」
「そ、そうか......」
「うん。それがあんなに大塚さんに一途になっていつの間にか美男美女の理想のカップル。本当に幸せそうだったもん。大塚さん」
「お、おう。そうか......」
幸せそう.......
必死過ぎて自分ではあんまりわからなかったけれど、一応はちゃんと彼氏をできてはいたと言うわけか。俺
そういうことだよ.....な。
「それが、またいつの間にか昔の藤堂君みたいに戻っちゃって今日のアレだもんね。びっくりしたけど、わからなくもないかな」
「へ、へぇー」
ま、まぁバレてないよな。
まぁバレようがないよな。入れ替わりなんて普通はありえない。ありえないから。
「まるで本当にここ何カ月間の藤堂君は別人みたいだったよ。何かあったのかな」
「な、な、何言っているんだ。そ、そんなことあるわけないだろ」
う、嘘だろ.......
「ん? どうしたの? 颯ちゃん?」
「いや何も......」
まぁ大丈夫。大丈夫だ。
バレようがないし、俺はうまくやっていた.....はず。
「ふふ、それにしてもどこに入ろっか。颯ちゃんはどこが良い?」
あぁ、そうだな。どこがいいかと言われると
やっぱりもう少し歩いた先にあるあそこだよな......。
俺があいつだった頃、よく華怜と行ったカフェ『Santa Monica』
ふっ、俺がカフェって笑えちまう話だけどな。
あそこは良かった。何というかものすごく落ち着く雰囲気で飲み物も食べ物も、ものすごく美味い。
意外にも華怜も気に入ってくれていたみたいだったし、いつの間にか行きつけと言っても過言でないぐらいに行っていた気がする。
一応、元に戻った後に整合性を合わせる為に藤堂には教えておいたけど大丈夫かな。
『あ? あんなボロッちい店によく行ってたの? バカかよ』
とか言ってやがったからちょっと心配だけど、まぁもう関係ないか。
ふっ、逆にあいつから俺への引継ぎは一切なかったっけ。
まぁ本当に引きこもってただけみたいだし、そもそもないか。
環奈いわく、いくら呼びかけても家から出てこなかったみたいだしな。
とりあえず死なれなくて幸いだったけど、どんだけ俺が嫌だったんだよ。
本当、生きててよかった。俺の身体。
「こことかどうだ。中は意外にお洒落だぞ」
「へぇー『Santa Monica』か。何か趣があるね。うん、良いよ。入ろ! あれ? でも何でこんなところを知っているの? 颯ちゃんいつも帰り道は一直線に駅だったよね」
あ、し、しまった。
「そ、その、あのアレだよ。ネットだよ。ネット。や、やっぱり止めとこっか。
何か古いし」
「えー、入りたい。なんか私ここ気に入る気がする。ほら、入るよ。颯ちゃん」
「お、おい」
ま、まぁ良いか。
別に何とも思ってないみたいだし。
何度も言うが、こんなことでバレようがないよな。うん。
とりあえず強引に環奈に手を掴まれて店内へと入る俺
「いらっしゃいませー。お二人様でしょうか」
そういや元に戻ってからは一回も来ていなかったから約1カ月ぶりか。
まぁ何も変わっていない。
「はい。あ、奥のテラス席開いてますか? あと、いつもの季節のベジタブルタルトに季節のベリースムージーを一つずつで」
「かしこまりました。どうぞ」
ふっ、両方ともこの店の裏メニューでめっちゃ美味いんだよな
華怜と来ていた時は絶対にまずはこれだった。
でも久しぶりだし、あっちも後で頼もうかな。
「え? そ、颯ちゃん、何でそんなにスムーズに? それにいつものって.....?」
「え?」
あ、や、やべ、しまった。何をしている俺
「い、いや、そのまぁこれもネットで。うん。これもネットでな。お、美味しいみたいだぞ。すっごく......」
「へぇー、そうなんだ」
やばい。環奈にめっちゃ見られている。
何かすっごく見られている。
「やっぱり最近の颯ちゃん。何か変な気が。何か隠してない?」
「か、隠してない。な、何を言っているんだ。な、何かお前の方がおかしいぞ。環奈」
「うーん、怪しい」
くっ......完全にしくじった。
俺としたことが
って、来た。
さすが、早い。
「ま、まぁそんなことより食ってみろ。本当に美味しいから」
「ん? 颯ちゃん、ここ初めてなんだよね。食べたことあるような言い方な気が.....」
「あ、だ、だからネット。ネットでの評判がすごかったんだよ。美味いみたい。美味いみたいだぞ」
「まぁ、本当においしそうだし。なら頂きます」
「おう」
よし、食べろ。とにかく食べて見ろ
「って、お、美味しい~! なにこれ!本当に美味しいよ颯ちゃん。すごいよ!」
「だ、だろ。ネットで評判だったんだよ。ネットで」
良し。何とか誤魔化せた。完全に環奈の意識はこのタルトに。
「女の子は絶対みんなこれ好きだよ!」
「だ、だろ! 何かそんな感じがしたんだよ。何か」
でも、今思えば俺がこんなお洒落なもんを注文ってやっぱりおかしいよな。
おかしすぎるよな。
常識的に考えてバレないとは言え、ちょっと今日の俺軽率すぎた。
俺らしくない、やっぱりこの5カ月で俺は若干変に......
「いらっしゃいませ。いつもありがとうございます」
「すみません。奥のテラス席は空いてますか......」
「はい。どうぞ」
そしてそんな俺の耳には客の声だろうか。女性の声が聞こえて来る。
心なしか元気のない声。
「ふふっ、このスムージーもすっごく美味しい。颯ちゃん。私ここすっごく気に入った。明日も来たい!」
「そ、そうか。まぁ気に入ってくれたのなら何より」
ふっ、そして完全に環奈はここの裏メニューの虜。言っては悪いがチョロいな。
助かった。完全に誤魔化せた。
もうさっきまでの環奈の俺への違和感は完全にどこかへ飛んでいった様
さすがだ。裏メニュー。
メニュー表もちゃんと俺の手元にあるし、これがメニューに載っていない裏メニューと彼女にバレることもない。
ふっ、一時はどうなることかと思ったが......
勝った。
「え?」
「ん? って、え!?」
「あ、大塚さんだ。どうもー!」
って、か、か、華怜!?
しかも.....一人?
もしかしてさっきの声って........
「そ、それ......」
そしていつの間にか俺達が食べているタルトに指を指して俺の方を《《また》》まじまじと見てくる彼女
「あ、もしかして大塚さんもこのタルトのファン? 美味しいよね!スムージーも最高!良かったら一緒にどう?」
隣には無邪気な環奈。
「ねぇ、良いよね。颯ちゃん! 皆で食べた方が美味しいし! ん? どうしたの颯ちゃん。フォークが止まってるよ。あ、もしかして私に食べさせてほしかったりして。もう、本当に颯ちゃんはしょうがないんだから。ほら、あーん。」
こ、これは色々と
やばかったり......するの......か?
やばかったり.......




