ファミレスにて
「ご注文は以上でよろしいでしょうか。かしこまりました。お水はセルフとなります。では、ごゆっくりどうぞ」
ふぅ......まだ全然だけど、それなりに慣れてきたかもしれない。
広瀬さんの教え方も普通にわかりやすいし。
嫌な客がいないこともないけれど。この職場、当たりかもな......。
「ふふっ、ちょっとは慣れた? 風見くん!」
「はい。広瀬さん。それなりには慣れたかもです。ご指導ありがとうございます」
まぁ、風見じゃなくて風間だけど。
よく間違えられることだし、特に訂正の必要はないか。
「もう、同級生だから敬語じゃなくて大丈夫だって。それに風見くん。普通に呑み込み早いね。優秀だよ。優秀!」
「あ、ありがとうございます」
「ふふっ、だから敬語じゃなくて大丈夫だって!」
優秀.......。
そんなことはないと思うが言われて嫌な気持ちはしない。
でも広瀬さん。本当に面倒見がいいな......。
初めはちょっとうさんくさい感じもしたけど、普通に良い人。
「あと、ちょっとさ。風見くんにお願いがあってー」
「はい。なんですか」
「来週の土曜日のシフトのことなんだけどー。ちょっと恵梨香ね。どうしても外せない用事があってー。代わってもらえたりとかって.......。あとその次の.......」
あぁ、そういうことか.......。
まぁそれはそうだよな。あまりにも優しすぎると思った。
でもまぁ、どうせ俺は休日暇だし。お金も欲しいのは欲しい。
ここでの経験値も早く稼いでおきたいしな。
それでこれからも円滑にやっていけるのであれば今は問題ないだろう。
「はい。構いませんよ。わかりました。代わります」
「えー!本当に? 風見くんってほんと優しいー。恵梨香好きになっちゃうかもー」
「あ、そうですか。いえ、全然」
まぁ風見じゃなくて風間。やっぱり訂正しようか。
他の人にも風見認定されたら後々めんどくさいしな......。
あと、その『好きになっちゃうかもー』って言葉。あいつの身体に入っている時に耳にタコができるぐらい聞いた。
そしてその言葉に真意がないことも十分にもう理解している。
実際彼女はさっきも同じようなセリフを違う人に言っていたしな。
まぁ何でもいいけど........。
ん? 何だその顔は広瀬さん。
「ん? 僕の顔に何かついていますか?」
「い、いや、とりあえずありがとう。助かる」
「いえいえ。お世話になっていますので」
とりあえず今は愛想笑いを常に意識しておこう。
ハキハキと喋って笑う所では笑う。
これが重要なことをあいつと入れ替わっている時にひしひしと実感した。
あれ? 今、広瀬さんの声がちょっといつもと......
まぁ、とりあえず頑張ろう。
時刻もちょうど晩御飯時だし、ここからが本番っぽい。
◇◇◇◇◇◇◇
ん? 忙しかったから忘れてたけど。
もう20時30分か
それにしてもやっぱり晩御飯時はすごくしんどかった。
ちょっとなめてたかもな。
あれ? そう言えば環奈まだ来てないな。
本当に来るのか?
それにしても今日の環奈はちょっと、いや本当におかしかった。
何だあの蹴りは......
俺も何だかんだで昔は環奈と一緒に空手をしていたこともあったけど、地力がもう違いすぎる。
多分、俺は今の環奈になら1秒もかからずに負ける自信がある.....。
というか普通に俺、弱かったしな。
怪我をして辞めたけど、怪我をしていなくても毎回2回戦ぐらいで負けていた記憶しかない.......。
まぁ、本人もギリギリになるかもって言っていたからもう少ししたら来るか。
って、そういえばさっき広瀬さんがレジも教えてくれるって言ってたな。
行かなきゃ。