実際に中身が入れ替わっていました
「おっしゃ、お前ら! 今日の放課後もナンパだ!ナンパ! 一狩り行こうぜぇ!!!」
それにしても、もうすっかり元通りだ......。
教室のこの席から見る、陽キャ達のこの光景も、何もかも。
「いいねぇ蓮也ァ! 一時は人が変わっちまったみたいに華怜に一途になったりしてビビったけどよぉ。調子取り戻してきたなおい!やっぱお前はそうじゃねぇとな!」
にしてもゲスい........。
改めてゲスい。
「さすがに恋人があの華怜様でも飽きちまうもんは仕方がないってかぁ?ハッハッハ!」
今はちょうど.....
こんな感じで陽キャ達のゲスな会話が蔓延る、体育の後の女子のいない教室での着替えの時間。
女子がいないとは言え本当に言いたい放題だと思う、こいつ等。
そして、その女子達がもう間もなく、ここにいつ帰ってきたっておかしくはない状況だと言うのに、周りが見えていないのだろうか、こいつらには危機感もない。
まぁ、もし修羅場になったとしても俺には関係ないし。もうどうでもいいのだが。
「はぁ? 全然飽きねぇよ。あんな上玉飽きるわけないだろうが。へっ、ただこれは浮気じゃねぇよ。ヤラせてくれねぇ華怜が悪いんだから。しゃあねぇじゃん、まだそういうのは嫌とか言いやがるんだからよ。一瞬イケそうだったんだけどなー、何か急にやっぱり拒否られちまってよぉ」
「マジかよ。あんなギャルっぽい見た目で純情キャラ?意味わかんねぇし、もったいねぇ。生殺しかよ」
「ほんとそれな。もう無理やりでも襲っちまおうかな。ったく」
不謹慎な言葉も多々聞こえて来るが.....
ヤらせてくれねぇ.......か。
その件でも色々と大変だった記憶がある。
色々と。
でも何でだろうか? 確かあの時は向こうの方から......
「あー、もうムラムラしてきた。見ろよこれ!」
「ちょ、お前、何見せてんだよ。元気すぎんだろおい!!!」
そして、今も着替えを終えて自席に静かに座る俺の視線の先には、ずっとはしゃぎにはしゃぎまくっている
つい数週間前までの俺がいる。
まぁ、何を言っているのかと思われるのかもしれないが。間違いではない。
そこにいるのは、つい最近までの俺であり、このクラスのトップカーストに属する男
藤堂蓮也だ。
それにしても、元気なアレには俺も本当に苦労をさせられた。
何とか理性を保てたから間違いは犯さなかったが、女性のああいう姿を間近で見たのは生まれて初めてだった......。
そしてそんなことを色々と考えていると、俺達と同様に着替えを終えたのだろう。女子達が戻ってくる声がいつのまにか聞こえてくる。
まぁ、間一髪。ギリギリで藤堂もその元気なモノを何とかズボンの中に収めた様だ。
現にシーブリーズだろうか。デオドランド系の良い香りと共に女子達がぞろぞろと教室へと入ってくる。
すると、今度は俺の隣からも桃の甘い香り......。
「ねぇ、颯ちゃん。大丈夫? もうそろそろ慣れてきた? とにかく何か困ったことがあったらすぐに私に言ってね。ふふっ、でも本当に颯ちゃんが学校に来てくれる様になって良かった。出席日数的に留年になるところだったもんね。絶対に一緒に卒業するんだからね」
「あぁ、悪い悪い。そうだな」
「うん! 明日も迎えに行くからね!」
「ふっ、わかった。ありがとな」
そして、この隣の席から俺に満面の笑顔を向けてくるふわふわとした美少女。
名は春風環奈で、一応俺の幼馴染だ。
何故こんなに俺によくしてくれるのかはわからないけれど、色々と昔から環奈には世話になっている。
今回も色々と心配をかけてしまって悪いとは思っているが、ただ今回ばかりは俺のせいではない。
今回は俺の視線の先にいる、あのうるさい男で先週までの俺
そう。藤堂蓮也のせいだ。
あいつが不登校になったせいで俺は本当に留年の危機に.......
夏休みを挟んでいなかったら本当にやばかった。
まぁ、もうそういうことだ。
そう。俺達はそれなりに長い時間
入れ替わっていた。
絶対に普通では信じられないことだが、確かに入れ替わっていた。
あれは今から6カ月ほど前。
普段通りに下校していた俺に、ふざけていた藤堂が後ろからふいにぶつかってきて
前から走って来たトラックにあいつもろとも......
幸い奇跡的に二人とも命に別状はなかったのだが、その時に俺達は。
そこからはもう本当に大変だった。
あいつは俺みたいな奴と入れ替わったのが死ぬ程嫌だった様で完全に引きこもりに。
俺も同じく引きこもりになろうとしたが、周りがそれを許さなかった結果、渋々毎日学校に。
でも、元の身体に戻れて本当に良かったと思う。
もう陽キャは懲り懲りだ。
何とか入れ替わっていることについては誰にもバレなかったが、疲れに疲れた。
俺には根本的に陽キャは合っていない。
常にテンションMAXとか無理だから。
そこらへんは正直できていなかっただろうけど、まぁそもそも俺と藤堂の中身が入れ替わっているなんて誰も考えもしないし、しなかったのだろう。
何とか最後までバレなかった。
ただ、特にさっきから何度か聞こえてきた名前の女性。
藤堂蓮也の彼女、大塚華怜との関係性を保つのは本当に大変だった......
勘がするどいのか? なんせ入れ替わって1週間であわや破局の危機だったからな。
一応、何としてでも俺は元の身体に戻るつもりではいたから、その時のことも考えて現状維持をする必要があった。
とにかく俺の出し切れる力を全て使って彼女、華怜との関係を繋ぎとめた。
だって入れ替わってしまったのは完全にあいつのせいだけど、俺のせいでカップルが破局するのも寝覚めが悪すぎるから。
そして藤堂、やっぱりあいつはモテるのだろう。
とにかく色んな女が寄ってきたけれど、俺はもう華怜に必死で構っている暇なんて1ミリ足りともなかったことを覚えている。
でも、本当に奇跡だ。
なんてったってあの藤堂に並ぶ、このクラス、いやこの学校の最上位トップカーストのカリスマギャル華怜を何とか繋ぎ止められたんだぞ。
中身が俺で。
まぁ藤堂の外見補正がでかすぎるのか。
普通にかなりのイケメンだもんな。あいつ
しかも女が好きなワイルド系の。
とりあえず、華怜とはもう関わり合うことはなさそうだけど、最近頻繁に視線を感じるのは気のせいだろうか。
うん。気のせいだ。
今の俺は風間颯太。
平凡なスクールカースト下層の男
颯太としては彼女と話した記憶だってほぼない。
「もう颯ちゃん。どこ見ているの。もしかして大塚さん? 好きなの? ねぇ颯ちゃん! 好きなの? 大塚さんのこと!」
「い、いやそんなわけないだろ。そもそも見てねぇから。ふっ、バカか」
それに、やっぱり近い。一応は慣れたが昔から環奈は距離感が近い。
あと何故か機嫌が悪い?
「あ!また颯ちゃん鼻で笑った。もう!いい加減にその癖直した方がいいよ颯ちゃん!」
「ふっ、悪い悪い。悪気はないんだ」
「あっ、また! 知ってる。悪気はないのは知っている。だからこそ直した方がいいんだよ。颯ちゃんのこと知らない人からすれば勘違いされちゃうよ!」
「あぁ、悪い悪い。本当に気をつける」
本当にそこは気をつけないといけないとは思っている。
思っているけど昔からの癖でどうしても面白い時とかも全部、笑い声は鼻で笑う形になってしまう。
昔から笑い方が下手って言われたりもしたっけ
ん? あれ? また華怜がこっちを?
いや、違う。俺の後ろだな。
それにしても華怜、藤堂の彼女にしては性格が良かった。
髪を明るくしたり、制服を着崩したりと校則を違反している割には普通に頭も良かったし。
気は見た目通りに強かったけど.......。
ま、それも何とかなった要因かとは思う。
もし彼女まであいつの様な性格ならばおそらく.....
いや、とりあえず何事もなく元に戻れてよかった。ただそれだけだ。
後一週間元に戻るのが遅かったら藤堂のせいで留年になっていたかと思うとゾッとするがそれも現実的には回避された。
「おう、華怜。明日一緒にまたどっか行かね? 休みだしよ」
あぁ休日か。確か俺も華怜と一緒に色んなところに行ったな
そもそも俺は、根が休日は何もない限り家に引きこもるタイプだからそこもかなり疲れたけど。
まぁ、元に戻ってからは全然気にしてなかったけどあっちもうまく行っているみたいだな。なら良かった。
「ごめん。明日は無理かな。というか......」
それにしても俺、明日はどうしようか。
あいつのせいで前のバイトはクビになったし、まぁ新しいところでも探すか。
「別れよう、蓮也」
「は?」
どこがいいかな......って
は? い、今なんて聞こえてきた?
別れる......だと?
「な、何でだよ。華怜。いきなりおかしいだろ。おい!」
「まぁ......。色々、強いて言えば他に気になる奴ができたかもしれない」
い、いや俺があんなに頑張って繋ぎ止めたのにそんなにあっけなく?
他に気になる人が出来た......だと?
ま、まぁ俺はもう関係ないからどうでもいいけれど。
俺の今までの労力.......
おい。
まぁ、元に戻れたし本当に何でもいいのだけれど
ただ、気になる奴って誰だ......?
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やる気がかなり上がりますので。
頑張ります。宜しくお願いします。