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王立学園分校の普通科の男子生徒の多くは王国の貧乏貴族の三男以下です。入学試験は本校の貴族科や官吏科よりもずっと難しくしましたが、授業料も寮費も安い上に奨学金制度を充実させましたから良い学生がたくさん集まりました。出来の良い彼らには将来王国の文官として出世してもらいたいと思っています。わがノルテ国が近代国家として発展するためには最大の隣国である王国が無能者だらけだとやりにくいですから。
女子生徒のほとんどは子爵か男爵令嬢ですが、王国では一部の高位貴族を除いて女子教育が大変おろそかにされております。男子と同じ条件ではほとんど合格者が出ませんから入学試験がずっと簡単な『侍女科』を作りまして、1年目は初等教育と体力作りを中心にしました。2年目からは中等教育に加えて、武術や馬術、それに王国風の淑女教育を行います。護衛のできる侍女というのは王国の高位貴族の間では引っ張りだこなのです。3年生は実習ということで本校で侍女として働かせるのですが、特に優秀な者には給料を払ってスパイ活動をやらせます。もうじき2つ年下の義妹のヒュンフェが本校に入学しますからね。
ヒュンフェが本校に入学した頃、分校の侍女科に小動物系のピンク髪の少女が入学して来ました。はて、こんな娘ゲームに出てきましたかしら?
「あなた、そんなぞろぞろした服を着て何を考えてらっしゃるの?」
私の取り巻きが彼女のドレスをナイフで切り裂きます。やたらフリルのついたドレスの残骸が地面に散らばりました。侍女科の制服は動きやすいノルテ族の民族衣装 (丈の短いユカタみたいな感じです)なんですよね。シュミーズ姿になったピンク髪はウルウルと目に涙を溜めて『酷いです!』と叫んで走り去りましたが、その後も毎週水曜日に暑苦しいドレスを着て登場してはシュミーズ姿で退場するという茶番を繰り返しました。
ウノお兄様の調査によると彼女はアンヌという名前で、王国の宰相がひそかに経営している娼館(宰相の息子ルートで私が売られるのと同じチェーン店です)に買われたのですが、身体を売る代わりに分校に潜入して、私の『悪行』を宰相の息子ツヴァイに報告するという契約を交わしたそうです。本校に通う義妹のヒュンフェと私の間に全く接点が無いためにいじめの対象が必要だったのでしょう。
それにしてもこの平均気温29度の熱帯でコルセット付きのドレスを毎週着なければならないのには同情を禁じえません。汗まみれのドレスを切り裂かれるたびにアンヌは一瞬ほっとした顔をしてから泣きまねを始めます。私の取り巻きの間でもラメ入りの布を切るとナイフの切れ味が悪くなると悪評ふんぷんでしたので、何箇所かにファスナーが付いていてひっぺがしやすい薄地のドレスを数枚、匿名でプレゼントしました。
余談ですが、アンヌはツヴァイから送られてくるドレスを使わずに済むようになったので、それらを売ったお金を元手にサカサマタタビの先物取引で大もうけし、卒業後に例の娼館チェーンを買取ってライバルの娼館を次々に潰します。貴族のお得意さんたちの弱みを握ったアンヌは根気強くロビー活動を続けて娼館での未成年の年季奉公を禁ずる王国法を成立させた結果、娼婦は成年女性が自主的に選ぶ職業となるのです(ちなみにノルテ国に娼婦はいません)。何も考えていない電波ヒロインに見えて実は大した女性だったのですね。




