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7歳の誕生日に領地に到着した悪役令嬢フィーアこと私は、ウノお兄様のアドバイスに従ってわがまま娘という設定のもとに矢継ぎ早に要求を出しました。まずは領主の館を『極北修道院』と改名し、拡張工事を始めました。将来幽閉されるわけですから住み心地を良くしなければいけませんからね。領地の要所には修道院の出張所を、海岸には保養施設を作るつもりです。もちろん、本来の極北修道院は潰しておきました。
内政関係はドスが責任者になりました。彼が最初に作った法律は、領民全員がサカサマタタビを主食とするノルテ族の暮らしに従わねばならないというものです。ひと月以内に生活習慣を改めない者は全員追放とのおふれを出しますと、これを不満とした者が反乱を起こしましたが、1日数時間も寝なきゃならない彼らに何が出来るというのでしょうか。警察と軍事を担当するトレスがノルテ族の兵を集め、24時間体制でしつこく攻めたら2週間で反乱軍をせん滅できました。男女比が5:1なので兵隊には事欠きませんし、夜間も起きている彼らは夜目がきくのです。
起きている時間が1日に23時間と59分もあるので改革は効率良く進みます。領地の管理と領民の教育を徹底するために戸籍と学校も作りました。ノルテ族のほとんどは農民か漁師でいくら夜目がきくといっても働くのは日の出ている間だけです。夜の間、文盲の彼らはおしゃべりしたり歌を歌ったりせっせとセックスしたり単にぼんやりして過ごしていたのですが、その時間を勉強に当てさせました。半年もしない内に大人の識字率は100%となり、高等教育を受ける人々が増えました。
クワトロには科学技術関係を任せました。乙女ゲームのテンプレ通り、この世界の技術レベルは中世に毛のはえたようなもので、蒸気機関などはありません。ウノお兄様と話し合った結果、化石燃料を使うのは製鉄などどうしても必要な場合を除いてはなるべく避けることにしました。クワトロは道路の整備、上下水道の建設などに加えて水力発電と効率の良いバッテリーの開発研究で大忙しです。
領地の改革は着々と進んでおりますが、乙女ゲームのシナリオに沿って生きるという体裁を保つことも忘れてはいけません。義母からのいじめに関しては領地に送られることでクリアしましたし、義妹を甘やかすことに関してはお祖父様に任せておけばよろしいでしょう。でもまだ『体罰を伴う淑女教育』というのがあります。ところでノルテ族の間では女の子は出産年齢になるまでにちゃんと体を鍛えておくのが非常に大切だとされております。若いうちからコルセットで体を締め付けて厚化粧し、運動といえば重いドレスを着てダンスするだけといういびつな生活を送らされている王国の貴族女性とは大違いですね。私は数人の女教師を雇ってノルテ族の『淑女教育』を受けることにしました。その中には合気道によく似た格闘技も含まれています。いくら受け身をとっても投げ飛ばされれば痛いですから十分体罰と言えるでしょう。