俺の弟の女友達は俺を見るといつも逃げてしまうので彼女の顔を俺は知りません
俺は高校生で二つ下に弟がいる。
その弟は俺が言うのもおかしいがイケメンでモテる。
いろんな女の子を家に連れてくる。
しかし、そんな弟がいつも同じ女の子を連れて来るようになった。
その女の子は俺を見ると弟の後ろに隠れたり、弟の部屋へ入ったりして俺は一度も顔を見たことがない。
髪が長く、制服はスカートだから女の子だと言うことは分かる。
弟の彼女だから俺は何も気にはしなかった。
しかし、そんな弟が彼女とは違う女の子を家に連れて来た。
二股はダメだと思った俺は弟に言った。
「何でいつもの女の子じゃないんだよ。二股はやめとけ」
「はあ? 二股なんてしてないけど」
「だって、いつもの女の子じゃないよな?」
「いつもの? 彼女は俺の友達だよ」
「友達?」
「そう。彼女と仲良くなってなんか一緒にいて気を使わないんだよ」
「友達なら二股じゃないよな?」
「違うよ」
友達だったんだな。
しかし、イケメンな弟に女の子の友達なんてできるのか?
もし、俺なら好きになると思うんだが。
もしかしたら好きだから一緒にいるとかじゃないよな?
それならあの子が可哀想だ。
弟には彼女がいるし。
俺は勝手にあの子は弟が好きだと思い込んでしまった。
次の日、あの子が家へ来た。
彼女はいつものように俺に顔を見せずに弟の部屋へ一直線だった。
しかし、今日の俺はいつもとは違う。
彼女が弟のことを好きなのかどうか聞きたいからだ。
だから俺は諦めなかった。
弟はまだリビングにいる。
俺は素早く弟の部屋へ入った。
そしてドアを締め、振り返った。
そこにいたのはさっきの彼女ではなかった。
あれ?
部屋間違えた?
辺りを見回しても弟の部屋だ。
しかし、俺の目の前にいるのは俺が見たこともないようなとても可愛い女の子がいた。
フランス人形のような可愛いらしい雰囲気だ。
俺も驚いているが彼女も驚いている。
「なっ、何で入って来るんですか?」
「あっ、君に話があって」
「何ですか?」
「弟が好きならやめた方がいいよ。あいつは彼女がいるし」
「私、彼とは友達ですよ」
「えっ、本当に友達なんだね」
「彼だけは私の気持ちを分かってくれたんです」
彼女はふわりと優しく笑った。
俺はそんな彼女の笑顔に見惚れていた。
「私は何があっても彼から離れません」
「えっと、それは友達としてだよね?」
「はい」
「君の言葉は弟を好きだって言ってるみたいに聞こえるんだけど。その笑顔も」
「そんなことはないです。彼は私の恩人なんです」
「弟が君に何をした訳?」
「彼は私を救ってくれました」
「救う?」
「私はこの見た目でいじめにあっていました。みんな見て見ぬふりをしていたのに彼はそれを見つけて私を助けてくれたんです」
「それってよくある恋するパターンの話じゃない?」
「恋なんてしません。彼はそんなの私に求めていないので」
「何それ? 君はそれでいい訳?」
「いいんです。それで彼とずっと一緒にいられるのなら」
「ねえ、何か飲む?」
弟が部屋に入って来て言った。
「あっ、兄貴? 何でいんの?」
「ちょっと彼女と話したくて」
「兄貴と話したの?」
「うん」
弟は驚いた顔で彼女に聞いていた。
「話も終わったし、俺は出ていくよ」
「あっ、兄貴」
「ん?」
「ありがとな」
「何が?」
「彼女と話してくれて」
「お礼を言われるほどじゃないけどな」
「兄貴からしたらそうかもな」
「はあ?」
「俺も彼女と話があるから早く出て行ってくれる?」
「一言多いんだよ」
そう俺は言って部屋を出た。
彼女と話した日の後でも彼女はこの家に来て、いつものように俺から隠れて顔も見せてはくれなかった。
それから何日か経ったある日。
俺が家に帰ると玄関の前であの子がおろおろしていた。
「どうしたの? 弟は?」
「あっ、あの。来て下さい」
彼女はそう言って俺の腕を引っ張った。
俺は彼女に引っ張られながら走った。
そう、彼女は急いでいるみたいだった。
「あそこなんですけど」
彼女はそう言って木の上を指差した。
「ミャー」
子猫が木から降りられなくなっていた。
「背が高い人って考えたら私の知っている人はお兄さんしかいなくて」
「そっか。待ってて。助けるから」
俺は子猫に手を伸ばすと子猫は怯えているのか俺の手を引っ掻いた。
俺はそれでも子猫を助けた。
地面に下ろすと草むらへと逃げて行った。
「薄情なやつだな」
「仕方ないですよ。ありがとうございます」
彼女は満面の笑顔で俺に言った。
俺は不覚にも彼女の笑顔にドキッとしてしまった。
「あっ、腕から血が出てます。早く消毒した方がいいですよ。どうしよう。消毒液なんて持ってないですし」
彼女は焦りながら言う。
「家に帰ればあるから大丈夫だよ」
「あっ、それなら早く帰りましょう。私が消毒します」
「そのくらい自分でできるけど」
「私のせいでケガしたので私にやらせて下さい」
彼女の真剣な眼差しに負けた。
俺は家に帰ると彼女に応急手当をされた。
「これで大丈夫です。もし、腫れたりしたら病院へ行って下さいね」
「うん。ありがとう」
「いいえ。こちらこそありがとうございます。子猫ちゃんが助かってよかったです」
「君があの子猫を見つけたから子猫は助かったんだ。だから子猫の代わりに俺が言うよ。ありがとう」
「どういたしまして」
彼女は照れながら言った。
そんな彼女も可愛い。
彼女が何をするにも可愛いく見える。
俺は彼女を妹のように見ているのか?
それとも女の子として見ているのか?
それはまだ分からないが俺は彼女が好きなのは分かっている。
「ただいま」
「おっ、弟が帰って来たぞ」
「おかえりなさい」
彼女は弟におかえりなさいと笑顔で言っていた。
その笑顔は俺には見せない笑顔だと気付いてしまった。
彼女はやっぱり弟が好きなんだと。
「何でまた兄貴と話してんの?」
「いろいろあったの」
彼女は苦笑いをしながら弟に言っている。
何か居心地が悪い。
「早く、部屋へ行け」
「何? 兄貴、機嫌悪い?」
「疲れただけだ」
「あっ私のせいですか?」
「君のせいじゃないから。今日の体育の授業のせい」
「そうなんですね。それじゃあ邪魔しないように部屋へ行きますね」
「俺も後で行くよ」
「うん」
そして彼女は弟の部屋へ入って行った。
「彼女のあんな顔、初めて見た」
弟は呟くように言った。
「あんな顔?」
「うん。兄貴と話してる彼女の顔がすごく楽しそうだった」
「そうか?」
「彼女はいじめにあってて、それで心を閉ざしたんだ」
「いじめのことは聞いてた。でも心を閉ざす?」
「そう。彼女は俺以外の人とは話さなくなったんだ」
「だから彼女はお前の友達になったのか?」
「うん。俺が彼女を助けたから、彼女は俺だけが味方って思っているんだ」
「じゃあ何で俺と話すんだ?」
「分からない。彼女が兄貴とあんな楽しそうにしてるのも分からない」
「彼女しか分からないことなのかもな」
「うん」
「彼女が待ってるから早く行け」
「ああ」
弟は彼女が待つ、自分の部屋へ入った。
彼女は弟が好きなのは分かっている。
それなのに何故、俺と仲良くなるんだ?
俺が好きな人の兄貴だからなのか?
彼女の気持ちは俺には分からない。
だって俺は彼女のことなんて何も知らないから。
そしてまた、彼女は俺から隠れるように顔を見せてはくれなくなった。
仲良くなったと思ったら突き放される。
彼女の気持ちなんて俺には一生、分からないのかもしれない。
ある日、俺は風邪をひいた。
一人、自分の部屋で寝ていた。
『コンコン』
誰かが俺の部屋のドアをノックした。
「はい、どうぞ」
俺がそう言うとドアが開いた。
そして彼女が部屋へ入って来た。
何で彼女が?
夢か?
もしかしてこれは夢なのか?
「何で君が?」
「心配になったんです」
「どうして俺の心配なんかするの?」
「心配をしたらダメですか?」
「ダメじゃないよ」
「熱はあるんですか?」
彼女はそう言って俺のおでこに手を当てる。
彼女の手は冷たかった。
冬だから外は寒いのだろう。
「君の手は冷たくて気持ちいい」
「何か子供みたいですね」
彼女は小さく笑った。
彼女の笑った顔を近くで見たくなった。
「ねえ、その笑った顔をもっと近くで見せて」
「えっ?」
「君の笑顔が見たいんだ」
「どうしたんですか?」
「どうせ夢なら俺の好きなようにしていいでしょう?」
「夢?」
「君は俺が見てる夢でしょう?」
「夢の私はあなたにとってどんな存在ですか?」
「可愛いくて、妹みたいで、だから助けてあげたくて、君の笑顔にドキッとして、もしかしたら君は俺のす……」
そこから俺の記憶はなくなった。
俺は目を覚ました。
手に違和感があったから手に視線を向けると彼女が俺の手を握って眠っていた。
俺はフル回転で記憶を思い出す。
何があった?
俺は彼女の夢を見ていたはずだよな?
何で彼女がいるんだ?
もしかして夢じゃなかったのか?
そうなると俺は変なことを口にしてたような……。
「んっ、あっ起きたんですか?」
彼女が目を覚ました。
「あっ、ああ」
「もう熱はないですか?」
そして彼女は俺のおでこに手を当てる。
冷たい手ではなく、温かい手だった。
やっぱりあれは夢だったのかも。
「熱はないですね」
彼女は笑って言った。
彼女の笑顔は可愛い。
俺ってやっぱり、彼女のことが好きなのかもしれない。
「私、お兄さんの夢を見たんです」
「俺の?」
「はい。お兄さんは私にお願いを一つ言いました」
「お願い?」
「そうです。誰でも簡単にできるお願いなのに私にはできませんでした」
「君には難しいことだったんだね」
「はい。でも、その理由が私が思っていることと違ったんです」
「理由?」
「私は人が苦手で人と話すこともできませんでした。お兄さんのお願いは人が苦手だからできないと思っていたんです。でも違いました。私はお兄さんと話すのも、近づくのもドキドキして出来ないんです」
「ドキドキ?」
「お兄さんは夢で言いました。近くで私の笑顔を見たいって」
「えっ」
「夢じゃないですよ。私はちゃんとここにいましたよ」
「じゃあ、その後の言葉も?」
「はい。ちゃんと聞きました」
「何て恥ずかしいことを」
「でも、一つだけ分からなかったことがあります」
「何?」
「もしかしたら君は俺のす……の後が分からないんです」
「えっと、それは、その」
「言いたくないならいいんですよ?」
「これはちゃんと言わせてほしい」
「えっ」
「もしかしたら君は俺の好きな人なんだと思う」
「好きな人?」
「そう。俺は君が好きなんだ」
「…………もです」
「ん?」
「私もお兄さんが大好きです」
彼女は頬を赤く染めて言った。
彼女の顔はやっぱり可愛い。
でも彼女が一番可愛いのは……。
「俺も君が大好きだよ」
俺がそう言うと彼女は嬉しそうに笑顔を見せてくれた。
やっぱり彼女の笑顔が一番可愛い。
俺が好きになった彼女は弟の女友達で顔を見せてくれない女の子でした。
今では俺だけに見せる笑顔が可愛い、恋人になりました。
ここで終わりにしたいのですがみなさんは気になりませんか?
何故、彼女は弟に俺には見せない笑顔を見せていたのか。
それでは彼女に聞いてみましょう。
「ねえ、どうして弟にも可愛い笑顔を見せるの?」
「私が?」
「うん。俺とは違う笑顔を見せてるよ」
「もしかしたら、彼には本当に感謝の気持ちで笑顔を見せてるのかもしれないです」
「よく考えたら俺の弟は恋のキューピッドだな」
「そうですね。私達が出逢うきっかけですよね」
「俺も弟に感謝の笑顔をあげようかなあ?」
「いらねぇよ」
弟が俺の部屋へ入って来て言った。
「お粥、ここに置いとくからな」
「おっ、サンキュー」
弟はお粥を置いて部屋を出ようとして最後に一言、言った。
「キスは風邪が治ってからにしろよ」
「だからお前は一言多いんだよ」
彼女を見ると顔が赤くなっている。
「キスはしないから」
「えっ、しないんですか?」
「えっ」
「今日は分かってますけど、いずれは…………」
「当たり前だろう? 恋人なんだから。本当は今すぐでもしたいよ」
「お兄さん。変態」
「はあ? 好きな人に触れたいのは当たり前だろう?」
「いいですよ。触れるくらいなら」
「君は意味を分かって言ってんの?」
「え?」
「どこなら触れてもいい?」
「えっ、どこだろう?」
「おでこを俺に近づけて」
「こうですか?」
「そう」
俺は彼女のおでこに俺のおでこを当てた。
彼女は自然と上目遣いになった。
「ねえ、聞いて」
「はい」
「俺は君がどんなに心を閉ざしても何度でも君の心を開くから。だから心配しないでいろんな人と話してみて。君なら絶対に大丈夫だから」
「はい」
「何で泣くの?」
「嬉しくて」
彼女は泣きながら俺に笑顔を見せてくれた。
彼女が心を閉ざすことはもう二度となかった。
読んで頂きありがとうございます。
主人公と弟君は優しい兄弟です。
二人とも彼女を救ったのですから。
私の書いたストーリーを気に入ってもらえたら幸いです。