表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/39

私は何者か ⑤

 別に女になって一日で貞操がどうのという思いもないのだが、しかしただひたすらに気持ちの悪い時間だった。


 そもそもとして、私は人混みなどの他人と接触しかねない場面を苦手としていた。電車を利用せざるを得ない場合には必ずマスクを着用し、手袋をして吊革を掴んでいた。そうしなければ体調を崩し、最悪その場で吐いてしまっていた。


 そういう部分である種潔癖だった私にとって、昨夜の時間というのは恐らくおおよその人間よりも更に苦痛で、拷問にも等しいものであった。胃の中身を全て吐き出さずに済んだのは、肉体のほう、レティツィアがこういった行為に慣れていたから、だろうか。


 私の精神に女としての尊厳が備わっていなかっただけマシだったとでも考えるべきか。


「おはようレティ。昨日は結局別の部屋で寝たみたいだけど、よく眠れた?」


「……まあ、それなりに……」


 無邪気に話しかけてくるフォロの様子から見るに、昨日の出来事を知られてはいないようだった。


「もう少ししたら朝食だろうから、広間にいてね。……場所はもうわかる?」


「いえ、まだ」


「じゃあ一緒に行こうか。ついてきて」


 先導するフォロの後に続く。


「おはようございます、フォロ様、……レティツィア様。朝食の用意ができております」


 多少の間はあったが、ロディブにレティツィア様などと呼ばれようとは考えもしなかった。

 昨日のうちに色々と彼の中で整理できたのだろうか。


 席に着き、昨夜のように食事を摂る。

 相変わらずグロテスクな見た目をしたものが多い。



 さて、結局昨日の私はされるがままに、あの豚領主に……陵辱されていた。


 レティツィアに力はない。自衛用の武器なども当然持っておらず、自分より余程体格のいい男を相手に暴力で抵抗できるはずもなかった。首輪どうこう以前の問題だ。


 唯一あの状況から逃れる手段があったとすれば、大声で助けを呼ぶことだろう。

 豚の命令によって他言することを禁止されてはいたが、昨日の尋問で嘘が吐けた以上、おそらくは自衛の方が優先され、助けを呼ぶことは可能だったはずだ。


 いや、本当にそうか?


 尋問の時は命が天秤にかけられていたが、今回は貞操だ。大抵の場合で命よりは優先度が低い。もしそもそも首輪が私に対して機能していないのであれば何も問題はないが……。

 まあいい。


 結局のところ、私は助けを呼ぶことを選択しなかったのだ。


 理由はシンプルで、私の味方が非常に少ないから。

 ロディブにも良く思われてはいないようだし、最悪現場を見て私に味方する村人はフォロしかいないかもしれない。

 使用人達はまず豚領主の味方をするだろう。豚領主は雇用主であり村一番の権力者、一方で私は誰からも嫌われているらしい忌み子だ。社会的弱者であるところの私にフォロ以外からの救いの手など差し伸べられるわけがなく、最悪私の方が領主様に取り入ろうとした女狐だとして謗られかねない。

 そもそもとしてこの世界に強姦はいけないことであるなんて立派な社会通念があるかどうかも非常に怪しいところである。

 また、権力者による性的搾取などというのは中世以前の世界には往々にして見られたものだ。初夜権などというものの存在さえ耳にしたことがある。


 フォロに言えば助けてはくれるだろう。

 しかし、それは私がフォロの実の父親に強姦されていたという事実をフォロに伝えてしまうことに他ならない。

 精神的にある程度円熟した私はともかくとして、フォロはまだ子供であり、父親のことをどう思っているかは定かではないが、レティツィアに想いを寄せていたことはほとんど確実である。彼の中に一生残る傷を刻みかねない。

 よく考えて行動する必要がある。フォロは私に味方する貴重な人間なのだ。


 そういうわけで、さしあたって昨日は何も抵抗しないことにした。

 何かをするにしても、考える時間が、知識を蓄える時間が必要だ。


 とりあえず昨日の行為中に豚が漏らした情報について整理しておくか。


 一、豚の名はロビンというらしい。どうでもいいな。


 二、豚の嫁、つまりフォロの母親は既に死んでいる。

 その死の理由まではわからないが、フォロによく似た美人であったらしい。

 最近フォロに面影を感じるようになってきた、と言っていた。この男、まさか息子にまで手を出さないだろうな。


 三、豚にも魔導具を行使する素養がある。

 フォロほどではないが豚も魔術的素養にそれなりに恵まれており、魔術の行使までは出来ないが多くの魔導具を扱えるらしい。中でも治癒の魔導具との相性が良く、王都でも重宝されているとか。魔導具との相性なんてものがある、という話自体初耳だった。

 また、魔導具は使えるかどうか以前に所有しているかどうかという問題があり、かなりの貴重品である治癒の魔導具の所有権を持っている豚は時によっては高位の魔術師よりも重宝される、らしい。自慢げに話していた。

 このあたりの話はあまりピンと来なかったが、領主の娘であったフォロの母に対してその兄の治療と引き換えに結婚を迫ったとも言っていたことから、その希少性の程度は把握できる。


 結婚云々は豚の下衆さが際立つエピソードではあるが、仮にこの豚が色男だったらフォロの母としても満更ではなかったのではなかろうかなどと考えてしまうのは少々捻くれているだろうか。

 まあ無意味な仮定だ。


 そのフォロの母の兄の現在の生死は定かではないが……現在豚が家を継いでいる以上、既に死んでしまっている可能性が高い。仮に生きていたとしても、フォロに味方する可能性は半々だろう。

 豚への心証が微妙なところにあるのだ。美人の妹を無理矢理娶った人間ではあるが、しかし自分の命の恩人でもある。妹の実子であるところのフォロには味方してくれなくもなさそうだが、私の存在が絡んだときにどう判断するのか。あまり期待はできない。


 特筆すべき話はこの程度だろうか。

 あとはレティツィアがかなり幼少の頃からああして犯されているだとか、教会の神父様からも同様の行為を受けているだとか────豚の名前以上にどうでもいいようなことばかりだ。

 そんな事情は役には立たないだろう。フォロを揺さぶることが目的にでもならない限りは。

 それを告発してどうにかなるなら昨夜の件だけでもどうにでもなっている。



 食事を終えるとフォロがまたついてくるように言ったので、追従する。別にフォロ相手であれば断ることもできるだろうが、断ったとしてもこの村では私一人で行動することは難しいだろう。


「今日はちょっと森の方に行ってみようか」


 私を連れ出すフォロにも明確な目的があるわけではないようだった。

 まあ屋敷に置くのも村を歩くのも具合が悪いだろうから、とりあえず外にでも連れて行こう、という考えだろうか。


「フォロには仕事とか、学校だとかの用事は無いんですか?」


 子供であるとはいえ、特別な素質のある人間なのだ。何かしらはしていそうなものだが。


「学校には通ってないよ。王都には何校かあるけど、この村にはそんなものないしね。仕事は無いことはないけど、切羽詰まったものでもないし、今日はお休み」


 フォロは笑いながらそう言って、子供らしい軽快な足取りで進んで行く。


 畦道を少し歩くと、昨日居た森が見えてきた。

 謎の植物が群生している森へと入っていく。


「この森が好きなんですか?」


「……うん、そうだね。僕はこの森が好きだよ。レティと話せる場所は、ここくらいだったから」


「……なるほど」


 レティツィアの扱いについてはまだいまいち把握しきれていないな。

 まあ1日程度では分かるはずもないか。レティツィアは二十年近くこの世界に生きているわけで、その人生の重みを1日彼女自身になった程度で理解しきれるはずもない。


「基本的にはこの森に村の人は入ってこないんだよね。結構危険な場所で、毒のある植物だとかも多いし、危険な野生動物もいる。魔物が出たって話こそ聞かないけど、それを踏まえても危険すぎる」


「魔物、ですか」


 魔術などというものの存在を聞いた時からそういう世界なのだろうとは思っていたが、やはりいるんだな、魔物。


「覚えてない?」


「覚えてませんね」


 私はそんなものを知らない。

 フォロが指を立てて説明を始める。


「人間と同じように、他の動物の中にも魔力を持って生まれてくるものがいるんだ。そいつらは人間みたいに魔術を使えるようになるわけじゃなくて、知性を持つようになったり、筋肉が異常発達したり、炎を纏うようになったり、みたいな形で直接の変化が起きる。そういうのが魔物って呼ばれるんだ。まあ魔術を使う魔物ももしかしたらいるかもしれないけど、少なくとも僕は聞いたことがない」


「じゃあ、この森でも魔物が発生する可能性はあるんですね?」


「絶対にないとは言えないね。ただ、魔物の発生しやすさっていうのは土地に依存する部分があるらしくて、だから今までに一度も魔物が確認されていないこのあたりで魔物が発生することはほぼないと思うよ。延々魔物が発生する洞窟があるみたいな話も聞くし、他のそういうところからここに流れてくる可能性はあるけど」


「……ちなみにですけど、魔王とかっていたりします?」


「うん……? 魔物のリーダーってこと? 集団発生した魔物が群れを作るっていうのは聞いたことがあるけど」


「いえ、いないならいいんですけど」


 魔物こそいるが、それは自然発生的なものでしかなくて、それらを束ねる悪の王が存在するなんて話ではないらしい。

 少なくとも今現在は。



「さっきの話の続きだけど、例外的にこの森に入ってくる人もいて、主に狩人と木こり。合わせたらそれなりに人数がいるんだけど、大体みんな僕たちを見ても何も言わないでくれている────良くも悪くも、って感じだけどね。ただ一人だけ、レティといても友好的に話してくれる人もいて、ああもちろん君と直接話しはしなかったんだけど、とにかくその人は多分今日も来ているはずだから、見かけたら教えるね」


『もちろん』なんだな。

 まあ今更そんなところに引っかかっても仕方がない。

 しかし、私達に友好的に接しようとする人物がいるのか。こんな状況の中で、あえて。

 もしかすると、そいつは────


「ああ、ほら、あの人だよ。右斜め前の、切り株の上で休んでる人。おーい」


 かなり先に見えた豆粒のように小さな人影に向かってフォロが手を振る。

 レティツィアとフォロでは視力にも大きな差があるらしい。

 向こうが手を振り返してこないことを考えると、フォロの視力が異常なのだろうか。


「反応してくれないね。向こうまで歩こうか」


 フォロは人影の方に向かって草木の中を歩いていく。ここまでの道は少数とはいえ人が利用しているためか最低限通路の体を成していたのだが、フォロの通るルートは最早道とは呼べない。子供だから抵抗がないのか知らないが、急に野生児のようなことをし始める。こんなところを通って、草で足を切らないだろうか……。


 近づくこちらを視認すると、木こりは自ら声をかけた。


「ああ、フォロ。今日もレティツィアと一緒か」


 木こりは背の高い中年だ。髪と目は明るい茶色で、長髪を後ろで束ねている。髭が濃く、職業柄か、その身に筋肉が隆起している。体格に反して、顔立ちは優男のそれだった。

 しかし、どこか影があり……生気のあまり感じられない肌をしていた。


「まあな。レティツィアが記憶を失っていることは聞いたか?」


 その言葉を聞くと、木こりは口に手を当て、くくっ、という笑いを漏らした。


「ああ聞いた。聞いたとも。災難だなあ、なあレティツィア?」


「えっ?」


 こいつ普通に話しかけてくるじゃないか。フォロの話と違うぞ。

 フォロとしても想定外であったらしく、私と木こりを見ながら目を見開いている。


「……そうですね」


「……記憶を失っても結局こいつはこんなテンションなのか? ……まあ一日程度でも色々大変だっただろうしな、無理もないか。元が元だし、急に社交的になってもおかしい。十分変化してはいるが」


 もう少し元気に答えてやったほうが良かったかもしれない。


「ヤニス、お前……」


 フォロは木こり──ヤニスを睨む。

 どういう感情を抱いているんだ?


「フォロ、別に我々の方からレティツィアに話しかけるような事は禁止されていないはずだ。そうだろう? あなたが嫌だと言うなら一村民でしかない俺は今すぐにでも口を閉じるしかないがな、クリストフォロス様」


 どうもフォロは私とヤニスが話すことを嫌がっていたらしい。

 領主の息子を相手にした木こりという立場であるはずのに、ヤニスはやたらと自信ありげに、そして何より賢そうな話し方をする。なんなら領主である豚よりも知的な……いや、あれと比較するのは間違いか。


「嫌味な言い方をするな。……別に嫌というわけじゃない。ただ、驚いただけだ。今までお前がレティツィアに話しかけたことはなかっただろう」


「あれに話しかけるのは中々勇気がいるからな。しかし、記憶を失って人柄も変わったんだろう? それなら少しくらいは仲良くしておこうかと思ってね。以前のレティツィアはどこか虚ろで、フォロ以外には心を開かず、俺が話しかける事にそもそも意味がないように思えた。だから話しかけなかったというだけなんだ。なんなら知性もろくに感じなかった。今は普通に会話も出来そうだし……前と比較すれば、その目から生きる気力を感じるよ。だから話しかけた」


 ヤニスは常に笑みを浮かべながらそう語る。


 適当な事を言うな。


 私の最終目的は完全な自死だ。死ぬために生きている人間の瞳に光など宿るはずがない。

 死の達成のためには時間遡行の原因を突き止めることが必要で、それまでは死ぬ事がかえって目的達成を遅延する行為になりかねないから生きている、というだけなのだ。


「……本当に、そう見えたから、ですか?」


 否定しろ。違うだろう。そう見えるはずがない。そうではないのだから。そんな事が理由であるはずがない。


「……君が記憶を失ったから、というのが主たる理由だ。君の精神面がどうなっているかというのは話しかけるにあたっては実際のところどうでもよかった。どうであれ話しかけるつもりだった。聡いな、レティツィア。いや、聡くなったのか。本当に、まるで別人のような知性だ」


 違う。私は聡くなどない。

 賢いはずがないんだ。賢い人間は二十何年も生き長らえた挙句に追い込まれて首を吊ったりはしない。私は違った。違ったんだ。


 ヤニスは私の顔を覗き込みながら話す。

 貼り付けたような笑いの下で、その瞳孔は大きく開いている。


 その瞳に見据えられて僅かに臆し、しかし少しだけ冷静になれた。

 どうも熱くなりすぎたようだ。

 こいつとあまり長々と話しているとまずい気がする。

 ヤニスは何もかも見透かしているような雰囲気を纏っている。

 会話していると感情を嫌に刺激されてしまう。


「いい加減にしろっ、ヤニス!」


 顔を覗き込まれた私が硬直しているところに、フォロが今までに見たことのない表情で怒鳴った。

 助かった、と感じた。奇妙な話だが、数瞬前の私がこのただ世間話をしているだけの相手に精神的に追い詰められていたのは間違いない。

 レティツィアのために声を荒げる。フォロにはこのような一面もあるのか。


「レティが喋らなかったのはリスクを知っていたからだ。仮に話しかけられた場合でもほとんど返さなかったのは、それを理由にしてより迫害が強くなる可能性を懸念していたからだ。今はただ記憶が消えてしまって、その恐怖が実感としてレティの中に無いというだけでしかなくて……レティの本質は何も変わってはいない。以前から誰より聡明だったし、誰より、優しかった」


 まくし立てるように言葉を並べるフォロ。

 その額には汗が流れている。余程ヤニスの言葉のどこかが癇に障ったのだろうか。ヤニスの言葉によって感情が不安定になっているのはフォロも同様らしい。

 実際のところを話せば、レティツィアの本質は完全にすり替わってしまっているのだが、まあそこに突っ込むわけにもいかない。


「──いや、すまなかった。少し度が過ぎたようだ。気をつけるよ」


「……そうしてくれ」


 伏し目がちに強く呟くフォロ。場の空気は死んでいる。


 そもそも友好的なんじゃなかったのか、お前ら。


「えっと……その斧、不自然に光ってますけど、それも魔導具なんですか?」


 ヤニスの持つ斧に刻まれた不思議な紋様が赤い光を放っていた。ヤニスまで魔導具を扱えるのだろうか。だとするなら希少性は全く感じられなくなってくる。会う人間が全て魔導具を扱えるような状態だ。


「レティ?」


 場を和ませるために適当な話題を振ろうかと思ったのだが、悲痛な表情のフォロに睨まれる結果になってしまった。失敗したか。

 フォロはどうしても私とヤニスに会話をさせたくないらしい。……私としても積極的に会話したくはない。


「ああ、そういう部分の記憶まで飛んでいるんだな。これは魔導具じゃない……廃棄品(ジャンク)だよ。命を吸い取って動く呪いの道具だ。俺の場合、既に体調に影響が出てきているし、長生きは望めないだろうな」


 今度は自嘲気味に笑うヤニス。


「ジャンク……」


「魔導具を作製する過程で、回路の適用に失敗した時に出来上がるのがそれみたいなジャンクなんだ。本来出来上がる予定だった魔導具に近い性能を持っていて、魔力を扱えない人間でも利用できるメリットはあるけど……副作用も知れ渡ってるから、命を削られながら使おうとする人間はそうそういない。ヤニスがどうしてそれを持っていて、そして使っているのかは知らないけど」


「俺にも事情がある。好きでこんなものを使っているわけじゃない」


「真面目に何度も斧を振るのが面倒なだけじゃないのか?」


 フォロが訝しげな目でヤニスを睨む。


「これはただのよく切れる斧じゃあない。これで切った木には付加価値が生まれる」


「……どんな?」


「秘密だ。俺も商売なんでな」


 そう言うヤニスの目は、冗談めかして喋っているというよりは、悲痛なものに見えた。

 ジャンクの使用は命を削るらしく、つまりそれはヤニスにもそれ相応の事情があるのだろう。


「そうか」


 それについてはフォロにもこれ以上追求するような様子はなかった。

 そのままフォロは森の奥へ向かって歩き出す。


「行っちまうのか? まだ話したいこともあるんだが」


 ヤニスがフォロを引き止める。

 話すべきことがあるのなら何故それを先に済ませてしまわなかったのだろうか。


「それは必要な会話か?」


「必要だ。俺たちの今後のために」


「……半刻後にお前の家を訪ねる。井戸水でも汲んで待っていろ」


「生憎クソ重い天秤棒担いで井戸まで往復するような元気は俺には残っていない。川の水をお出しするよ。上流の爺さんの小便が混じっているかもしれないが」


「絶対にやめろ」


「ジョークだよ。だが歓待には期待するな」


 どこからどこまでがどうジョークなのかいまいちわからないが、水はおそらく井戸のものを利用するのが普通なのだろう。

 水の美味しさなどあまり気にする方ではないが、排泄物混じりのものを出すのは私としてもさすがに勘弁願いたい。

 ジョークは私も好きだが、ジョークのままに留めておけよ。絶対にだ。


「ああ、そうだ、このジャンクについてはもう一つ話せることがある。持ち運びが便利だ」


 ヤニスはそう言うと、如何なる手段を用いてか、斧を手のひらで握り込めそうなサイズの直方体にして、そしてそのまま────自分の手の中に、押し込むようにしてしまい込んだ。

 外見から所有を一切確認できないような状態だ。


「……そうか」


 目の前の超常現象に対してフォロの反応は随分と素っ気ないものだった。


「え、いや、反応薄くないですか? 今の結構すごいと思うんですけど」


 私は目を見開いて見ていたと思う。


「魔導具の標準機能なんだよ。勿体ぶって『猫には肉球がある』って言ったような感じ」


 ……この世界にも猫、いるんだな。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ