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魔導学院と殺人鬼 ⑦

「エーテルが濃すぎる。この時代の人間どもは全員が魔術師なのか?」


 メアが先導し、校内を練り歩く。

 どうも理事長室へ向かっているらしいが、あまりにも足取りがフラフラとして不安だ。

 吸血鬼──ソフィアもよくこれを見咎めないものだ。


 エーテルという言葉にも引っかかったが、まずは独り言にも聞こえる質問に答える。


「魔術師が集められてる場所なんですよ。魔術師自体は確か……人口の10000分の1とか、その程度だったはずです」


「ふむ。私の時代と大差無いな。魔術師至上の選民思想は生まれなかったらしい」


 そういえば……アルミナの家は魔術の名家とか言っていたか。

 魔術師としての素質には血が大きく影響するのだろう。


「黒髪の娘。お前は何だ?」


「はぁ……何だ、とおっしゃいますと」


 何を聞かれているのかわからない。

 魔力が無いとかいう話だろうか。無いものは無い。


「お前の存在は……おかしい。すれ違った他の者や、先導する白い小娘とは明らかに違う。存在が、ヒトのそれではない」


「ああ……」


 ソフィアはレティツィアの異常性に気付いているらしかった。

 なんとなくでも現象を見るより早く理解できたのはこいつが初めてか。

 自分の胸を指さしながら説明してやる。


「改造されてるらしいですよ。色々混ざってるみたいです」


「……改造か。私の知らない技術によるものか……」


 ソフィアが怪訝そうにこちらを窺う。

 どこまで把握されているのかわからないが、レティツィアの中の因子が下手にこいつを刺激しないことを祈る。


「あ、あの……着きました。り、理事長室、です」


「ご苦労」


 言うが早いか、ソフィアは触れずして扉を奥に吹き飛ばした。

 もう少し穏やかにはできないのだろうか。

 無理やりに蘇生されて余程苛立っているのか、こいつの生来の性質か。


 轟音。


 ソフィアが足を踏み入れると、それと同時に無数の光線がソフィアの肉体を貫いていた。


「効いて……ねえみてえだな」


 状況から察するに、理事がソフィアに対して魔術を行使したようだった。

 理事……こいつの名前は何だったか。聞いていない気がする。


「ふむ。準備が良いな」


「あんたみたいなのが歩いてると目立つんでね……頼んだ」


 理事がそう言うと、左右からソフィアに対してさらに攻撃が飛んだ。


 電撃が走る。斬撃がソフィアを上下に断つ。光の柱がソフィアを焼く。


 それぞれが致命傷になる────はずだった。


「……強力だ。魔術の進歩、か? これだけの破壊力を持つ術を瞬時に行使できる人間は……いなかった」


「術はともかく、加護はインフレしていきますからね。経済のようなものなのです。しかし……」


 答えたのはルフェルだった。光の柱はルフェルによるものだろう。

 お互いが、『敵』と談笑するように言葉を交わしている。何が彼らをそう動かすのか。私の価値基準では戦闘中に敵と談笑など全く現実味の無い冗談だが、この世界では異なるのか。


「不死身、ですかね」


 アルミナの声。

 アルミナは物干し竿のような長さの刀を携えていた。

 斬撃はアルミナによるものだったのだろう。


 その銀髪が戦闘の余波で美しく靡く。


「ふむ。美しい……まるで同族のような容姿だ。6000年が経ち、ヒトの容姿は間違いなく進化しているようだな」


 この世界の人間は昔から美男美女揃いではなかったようだ。

 他人に好まれる容姿の人間の方が繁殖に有利で、増えていくのは当然だが……6000年で有意に変化している、というのは興味深い。


「おい、ルフェル。どうするんだ、こいつ? お前の光柱が頼りだったんだが」


 奥から電撃を飛ばしていたのはフォロだった。

 学園内の異常に際して、三人共呼び付けられたのだろう。


「手応えはありました。<浄化光(ピュリファイ)>は確かにこの吸血鬼を焼き切っています。私としては……再生能力が切れるまで焼き続けるしかないかと」


「結構脳筋なところあるよな……だが、今回は賛成だ」


 そう言うとフォロは指を鳴らし、電撃を放った。

 光が、稲妻が、斬撃が、絶えずソフィアを襲った。


「鬱陶しい」


 ソフィアが腕を払うと、周囲の光が掻き消えた。


「無効化……」


「おい、理事、精神掌握は?」


「無理だ。ずっと抵抗(レジスト)されてる」


 理事の魔術は随分物騒な名を冠していた。それをルフェルにかけようとしていたのか……。


「いくら発達しようと……私に届く代物では無い。攻撃を止めろ、穏便に済ませてやっているうちにな」


「あのー、みなさーん、攻撃を止めてくださーい。ほんとに大変なことになりますから、多分」


 何故だか知らないがソフィアは反撃する気が無いらしく、私としてもこいつが本気を出すとジュースにされそうなことは知っているため協力を促す。


「なんだその……覇気の無い声は……。まあ、だが、事実だ。私は一瞬でお前ら全員を擦り潰せる」


 ソフィアの言葉には重さがあった。

 私の応援の甲斐あってか、ルフェル達は攻撃を止める。


「……目的は?」


 ルフェルが尋ねる。


「今再び、世界を支配する。そのために、地位の高い人間のところへ案内させた。一番偉いのは誰だ? 能力で言えば、そこの鎧の男か、同族のような女……」


 ルフェルかアルミナか。

 フォロはまだそこに一歩及ばないらしい。

 いや、ルフェルは分かる。聖騎士団の第二位だとか言っていたから、武闘派であってもおかしくない。

 だが、アルミナは何なのだろう……魔導の家系というだけでは説明が付かない強さな気がする。


「この場は……俺か。この施設の事実上の管理者だ」


 声を上げたのは理事だ。

 男前な風貌に恐怖が浮かんでいる。


「ふむ。まあ人間の為政者に実力が伴わないのは今に始まった話ではない……いいだろう。おい、この街を私の拠点とする。世界を支配するぞ。まずはこの国に戦争を仕掛ける」


 ルフェル達の顔が引き攣っている。

 本気かよ、といった表情をしている。恐らく。


 ひとつ私の方から間違いを訂正する。


「街じゃなくて、学園です」


「ふむ……? まあ、これだけエーテルが濃ければ十分な戦力にはなるだろう。問題ではない」


「さっきから、エーテルってなんなんですか?」


「ふむ、この時代の人間には馴染みが無いか……? まあ、簡単に言ってしまえば『全ての元』だな。エーテルが濃ければ大抵の事は出来る。魔力や質量、果ては魂までもがエーテルに依存し、エーテルを生成している。そういうものだ」


「へー」


「……レティツィア、あなた適応力が高過ぎませんか? 始祖吸血鬼(アンセスター)相手にそんな適当な相槌を打てるとは思いもしませんでした」


「大抵の事は受け入れられるようになってきました。というか、アンセスターだってわかるんですね?」


「その特徴は様々な形で過去より伝えられています。吸血鬼は……人類の『天敵』ですから」


「まあ、そうだろうな」


 ソフィアが鷹揚に頷く。

 どこか満足げな雰囲気が見える。ここまで高位の存在であっても語り継がれる程度のことで嬉しくなるのだろうか。


「まあいい。手始めにこの国だ。首根っこを押さえに行く……王を制御する。おい、鎧のお前、代わりに案内しろ。この小さい女はあまり使い物になる気がせん」


「くそ、何だってこんなことに……」


 理事が苛立ちを溢す。気に触れたら殺されかねないはずだが、全体的にあまり緊張感が無い。

 尚、最も緊張感を持っていそうなメアは肩を振るわせ泣きそうになっている。

 まあ実際ソフィアの言葉通り頼りになりそうにはないが、踏んだり蹴ったりだ。


「というか、思ったより消極的ですね。ラボを出てから誰も殺してないのでは?」


「ラボ? まあ、最初の男は……良くない感じがしたのでな。私は本来平和主義だ……血も最低限でいいし……逆らった人間しか殺さない」


 うーん、寛大だ。

 逆らった人間も殺さないでおいてくれると嬉しい。


「……わかりました、王の元へと案内します。その前に少しレティツィアと話をさせてください」


「……まあいい。すぐに済ませろよ。おい、同族の眼の女。こちらへ来い」


「……私、でしょうか? では……」


 アルミナが刀をキューブにして体内に収納し、ソフィアの方へと歩く。

 何をされるのだろう。殺されない事を祈るばかりだ。

 まあ、ソフィアは想定より随分大人しい。余程の粗相をしなければすぐに殺されることもないだろう。

 ……アルミナはアルミナで読めないところがあるので不安だ。


 入れ替わりでルフェルがこちらへ歩いてくる。

 何の話をしたくて反感を買いかねないのも無視し時間を取ったのか、私は見当がついていない。


「なんですか、わざわざ?」


 私の疑問に直ぐには答えず、そのまま耳元まで顔を寄せてきた。

 少し離れた位置にいるフォロが眉根を寄せているのが見える。

 それは嫉妬に見えた。そんなこと気にする状況じゃねえだろと考えたが、案外皆こんなことには慣れていて、異常な状況だと思っているのは私だけなのかもしれない。


 まあ私自身態度はルフェルに指摘された通り適当だが……どうせ死にはしないと高を括っている部分があり、フォロのそれとは前提が異なる。

 その場で再生するのか時を戻るのか、現時点でわからないが……。


 顔を寄せたルフェルが、囁き声で私に耳打ちする。


「この混乱に乗じて、レオ……理事を殺します。協力してください」


「なんて?」

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