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【完結】 アポカリュプシス  作者: 綾雅(りょうが)要らない悪役令嬢をよろしく
第5章 終焉の福音

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03.パスワード

 午前中から資料を調べ始めた。今回の殺人事件が連続殺人だとみなされた理由は、殺され方とターゲットの選出方法に同一性が見られたためだ。


 新たな上司がそろえてくれた資料を並べ、分析を始めた。


 発見された被害者は5人、おそらく倍はいる筈だ。


 共通点は黒髪、整った顔立ち、一流大学で優秀な成績を修める頭脳、あと半年で卒業見込みの最終学年であるという4つだった。大学院生や飛級した者が混じっているため、年齢は共通点にならない。


 死因は一様に出血性ショックで、大腿部や胸部の動脈損傷による大量出血が引き起こした多臓器不全。つまり大量出血による失血死に近い状態だ。


 どの時点で意識を失ったかわからないが、途中で痛みや苦しみからは解放されただろう。


 殺害場所は一様に視界がひらけた公園や広場だった。周囲を木に囲まれたベンチ周辺でなく、芝の上で殺されている。


 つまり、目撃されやすい場所を故意に選んだという矛盾が生じていた。


 プロファイリングするなら、かなり自信家で計算高く知能も教養も高い犯人だろう。


 彼らの顔に目立つ傷はなかった。代わりに、男女の性を示す部位が執拗なほどナイフで刺されている。感情のままにナイフを突きたて、切り裂き、抉ったらしい。


 刺し傷や切り傷は数十箇所に及んでいた。憎しみや恨みを糧に犯行に及ぶ事例では傷の数は多くなる傾向があり、また感情に任せて返り血などを考慮せず殺すパターンが多い。


 今回の事件では血に汚れた犯人の目撃談がなく、周囲に飛び散った血痕から、なにかを被った状態で被害者を殺したことが想定された。


 シーツや雨具などを身に纏って刺した為、上に羽織ったものを脱ぎ去れば返り血は目立たない。そして周囲にぐるりと飛び散った血痕が、被害者の左側だけ途切れていることの説明にもなった。


 下腹部と胸部を切り裂かれた女性は、手足に切り傷がない。他の4人も大差なく、抵抗した跡は見られなかった。


 誰でもそうだが、襲われれば抵抗する。相手に爪を立てたり、蹴飛ばしたり殴ったりもする。胸にナイフを振り下ろされれば、腕で胸を庇ったりナイフを奪い取ろうとするのが普通だった。


 それらを防御創(ぼうぎょそう)と呼ぶ。


 まったく防御創が見られないのは、被害者に意識がなく抵抗できない状況がひとつ。あとは顔見知りに突然攻撃された場合だった。相手が顔見知りだった際は襲われる素振りがなければ、油断していて防御が間に合わないのだ。


 どちらの可能性も否定できないが、5人の被害者は大学も専攻学科も違うため、共通の顔見知りがいる可能性は低かった。まだ判明していない情報で、趣味やボランティアなどの共通点があるかも知れないが、やはり顔見知りが犯人という説は考えにくい。


「……彼か」


 5人の中から、ロビンが選んだ青年を1人抜き出す。


 添付された生前の写真は、何かの記念日に撮られたのか。きっちりと髪を整えて、スーツ姿だった。他の4人の写真を彼の下に並べるが、何が違うのかわからない。


 死体と生前の写真という区分けでないのは確かで、どこかに違いがある筈なのだ。ロビンの『獲物になるもの』と『獲物たりえないもの』の違い…写真で判断できるほど顕著な何か―――。


 稀代の連続殺人犯『ビューティー・キラー』として世間を震撼させた男の、通常人では気づけない『Password』のようなものがある。それを聞いたなら、彼は『約束の質問』として真摯に答えてくれるのか。


 考えてもたどり着けない答えは、コウキにとって未知の領域だ。


 ひとつ大きな溜め息を吐き、まとめた資料をファイルに挟み込むと、時計の時刻を確認する。『また明日』と告げた男に会うために、コウキは重い足を引きずるようにして踏み出した。






 お茶を用意するよう看守へ告げると、ロビンは三つ編みの穂先を指先でいじり始めた。ちらりと彼が視線を向ける先、届かない場所にかけられた時計の長針が下を指し示す。


『ここは本当に居心地がいい』


 稀有なる羊は退屈を紛らわせてくれる。殺しより高揚する時間を与えてくれるのだ。


 待っていればいい。


 あとすこし……ほら、足音が聞こえる。


 口元に浮かべた笑みを左手で覆い、緩んだ表情を戒めて立ち上がった。


 舞台を彩る主演を迎えるために……。


「ようこそ、稀有なる羊」


 優雅に一礼し、赤い舞台の幕が上がる。

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