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【完結】 アポカリュプシス  作者: 綾雅(りょうが)要らない悪役令嬢をよろしく
第4章 サロメの退場

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09.最後の質問

 呼び出されたコウキの口からため息が漏れる。


「つまり、疑惑が晴れない……と?」


 コウキが殺人を犯したと判断せざるを得ない状況だと、渋い顔で告げた男は眉を寄せて唇を噛む。その姿は消去法で導かれた結論を信じておらず、また導かれた結論を認めたくないようだった。


 コウキが鍵を保有している研究室に転がっていた複数のバラバラ死体、貯水タンクに詰め込まれた死体の発見、殺害現場の特定…すべてが自供しているように見える――それがFBI捜査官達の懸念であり、当然の結論だ。


 天才的な頭脳を持つロビンのお気に入りの現実すら、悪い意味に捉えられてしまう。


 あの稀代の殺人鬼とつながっているのでは? 小さな疑問は猜疑心へ膨らみ、正常な判断を狂わせる。


「……できるだけ早く解決できるよう」


「努力します」


 男の苦い言葉を途中でさえぎり、コウキは一礼して踵を返した。


 向かう先は――。




 何もかも予見していたように、彼は優雅に一礼して肩を滑った三つ編みを指先で弾いた。見慣れた仕草にどうやら彼の機嫌がいいようだと判断したコウキは、用意されている椅子に腰掛ける。


 簡易の折り畳み椅子がぎしりと軋んだ音をたてた。


「稀有なる羊、謎は解けたか?」


 もちろん完璧に解けているのだろう? そう告げる声色が癪に障るが、まだ犯人を特定していないコウキに反論はできない。


 きゅっと引き結んだ唇の僅かな動きに状況を読み取って、舞台俳優さながらの大げさな所作で連続殺人鬼は嘆いてみせた。


「その才能を生かす術を、まだ得ていないのか」


 大きな溜め息を吐くと、ロビンはゆっくりと檻の鉄格子に手をかけた。右手で鉄格子の交差をつかむ。中指と人差し指の間に縦の鉄棒が鈍く光り、掴んだ手は少し力を抜いて引っ掛けているだけのように思われた。


 なんとなく仕草を見つめていたコウキへ、静かな口調で話しかける。


「殺された死体の特徴は?」


「切り離されたパーツ状」


「では、現場の状況は?」


「血が飛び散っていない密室。おそらく死後硬直した後の死体を運び込んだと思われる」


 ふむ……生徒の答え合わせをする教師のように、稀代の犯罪者は満足そうに頷いた。


「死体を作った場所もわかっている」


 ロビンの言葉に、改装中のテニスコートを思い出して無言で肯定する。


「犯人のプロファイルを」


「白人男性。もしかしたら1/4以下の混血である可能性も否定できない。自己顕示欲が強く、また意思が強い。死体を切った手口から、大柄な男性だろう」


「……ストップ」


 さえぎったロビンの手が強く鉄格子を掴む。手に食い込むような錯覚を覚えて、コウキは数回瞬いて深呼吸した。彼が外に出てくるような気がして一瞬息を呑んでしまう。


 目を細めて笑ったロビンの口元が三日月を描き、すぐに口元を左手で覆った。


「失礼…」


 なぜか謝罪し、コウキに対して首を傾げた。


「なぜ犯人がわからない? そこまで理解していて、目の前にある答えを見過ごす理由がわからないな」


 眉をひそめたコウキの不快そうな態度を気にせず、ロビンは鉄格子に絡めていた右手を離して踵を返した。こつこつと靴音を響かせて狭い部屋を一周して戻ってくる。


「最後の質問だ、死体を簡単に調達できるのは?」


「死体を? 調達できる…っ!」


 調達――その単語に引っかかった。死体を作らずに調達する手段、職業、人物、立場……さまざまな状況が浮かんでは消える。脳裏を過ぎった情報にめまいがして、コウキは反射的に右手を顔に当てて俯いた。


「ロビン……犯人は…」


 シィ…と唇に人差し指を押し当てたロビンは、続けられる筈だったコウキの言葉を遮る。楽しそうに目を細めて喉の奥を震わせるように、くつくつと笑った。


「最後の質問だと言っただろう? サロメによろしく」


 それきり興味を失ったのか、ベッド脇のハードカバーの本を片手に椅子に腰掛ける。背を向けた仕草から、面会終了を悟ったコウキはゆっくり立ち上がった。


 軽口の応酬に似たやり取りから、犯人のめぼしはある程度ついていた。それが予想外の人物であったとしても、確かに彼は『犯人』であり『サロメ』なのだろう。

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