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【完結】 アポカリュプシス  作者: 綾雅「可愛い継子」ほか、11月は2冊!
第3章 七つの大罪

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09.嫉妬する蛇

「怒り狂う狼、傲慢な孔雀(くじゃく)、熊は怠け……強欲な狐と(はえ)、淫らな(さそり)――答えは?」


 謎掛けに似たロビンの言葉の裏を一瞬で悟った。


 挙げられた動物は6つ、彼が7つの大罪について語ったのは僅か1日前で……残るはひとつだけ。


「嫉妬する蛇……」


 ぱんぱんと肩の高さで手を打ち鳴らしたロビンが笑う。禍々しい表情で満足そうに息をついた。


「辿り着いたじゃないか……それが答えだ」


 駆け寄る複数の足音がロビンの声を遮る。


「またやらかしたのかっ! 貴様は…っ」


 怒りに震える所長へ、舞台俳優のようにロビンは大きく一礼した。右足を軽く引いて手を胸部に当てた礼は、中世の騎士が王に謁見する際の仕草に似ている。


「これはこれは…所長自ら足を運んでくださるとは……。なにぶんにも仮住まいの身、お構いできぬ失礼をお許しいただきたい」


 慇懃無礼を絵に描いたような、人を食った態度で応じたロビンは満面の笑みを作って顔を上げた。


 数名の看守とロビンの間には、鉄格子と死体があるのみ。


「俺の部下を何人殺せば気が済むっ!」

「全員殺しても足りないが……まぁ、暇つぶしだ」


 所長の怒鳴り声は興味の対象外だったのか、ひどく冷淡で残酷な言葉を吐き出してロビンは笑顔を消した。


 途端に整った顔はぞくりと寒気のする迫力を帯びる。


「……っ」


 息を呑んだ彼らと対照的に、コウキは冷静だった。本気のロビンを見たことがある……そのときに比べれば、今のロビンは自制している方だろう。


 さっきの看守を殺した時同様、殺そうと思えば彼らをいつでも殺せる自信が滲み出ている。


「ふん、唯一の楽しみを邪魔した罰を受けてもらおうか、まずは……」



「ロビンっ!」


 遮ったコウキの声に、途端に笑顔を浮かべたロビンが振り返る。三つ編みが揺れて背に落ち着いた。


「優しいな、コウキ。彼らを助けるつもりか?」


「……答え合わせの途中だ」


 自分の都合を優先したようなコウキの言葉に、看守達は目を瞠る。


 しかしロビンはくすくすと笑い出した。


「悪者になって、彼らを助ける。オレの気を逸らそうと必死なおまえに免じて……これ以上無粋な真似をしなければ、羊たちに手を出さない」


 ロビンの確約など何の保証もない。


 彼がその気になれば、先ほどの看守のようにこの男達も死体になるだろう。だが……自ら言い出した言葉をロビンは守ろうとしてきた。


 少なくとも、コウキに対しては――今の寄るべはそれのみだ。



 この複雑で厄介な男の扱い方を記した書物があったなら、コウキはすぐに飛びついただろう。


「……指輪のデザインの共通点は爪だった。そしてお前は7つの大罪を持ち出して俺に説明した。つまり、傲慢さが犯行理由だということか?」


 ロビンの興味が移らないように必死だった。ひきつけようとするコウキの努力を見透かしながら、ロビンは穏やかな顔で首を縦に振る。


「そうだ、傲慢が理由だ。だが……それは犯人の側ではなく」


「被害者の傲慢か……妻や恋人、婚約者がありながら浮気した」


「誘った蛇は罪深い、だが誘われたイヴは……罰を受けた。誰よりも重く、無実のアダムすら道連れにして」


 看守達が死体を片付ける横で、コウキは一瞬状況を忘れた。


 彼らを守ろうとした意識も、事件を解決しようという気持ちすら、完全に白紙になる。そして脳裏に過ぎるのは――事件の状況を間近でみるような、不思議な感覚だった。


 何もかもが……(つまび)らかにされていく。

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