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【完結】 アポカリュプシス  作者: 綾雅「可愛い継子」ほか、11月は2冊!
第3章 七つの大罪

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04.幸せの証

 昨夜は暗かった――それは言葉遊びのように聞こえる。しかし、きちんと意味は持たせられていた。


 一瞬で悟れたのは、それだけコウキの能力が高い証拠だろう。


 夜空は「昨夜も」暗かったのではなく、「昨夜は」暗かったのだ。


 事件が起きる日付に規則性は見つからない。満月の夜を選んでいる訳ではなく、逆を言えば新月を選んでいる節もなかった。


 だが昨夜は新月……薄暗く周囲が見づらい夜に行われた犯行の意味を知るのに、ロビンの言葉は一言一句聞き漏らす訳にいかない。


 他の犯行日を調べると2回は曇りだが、残りは月が出ていた。三日月であったり満月であったり、そこに一定の明るさは確保されているものの、新月は一度もない。


 今回が初めてだった。


「……明るさと指輪」


 与えられたヒントを手がかりに、己の左手の指を見つめる。彼が触れたのは薬指で、通常この指に嵌めるのはエンゲージかマリッジのどちらか。


 両方とも幸せの象徴とも言えるリングだろう。


 一瞬脳裏を過ぎったのは、両親が大切にしていた結婚指輪(マリッジリング)だった。遺品として海沿いの別宅に保管している指輪は、コウキにとって幸せだった頃の思い出を甦らせるアイテムなのだ。


 奪われた左手の持ち主にも、幸せな記憶があった筈。取り戻す為に何が出来るか……取り戻す?


 考えた自分の一言が妙に引っ掛かった。


 13人中4人だけ首の向きが違い、全員が左手を奪われた。


 ならば、彼らの違いは何だ? 


 ロビンが指輪を指摘するなら……。


 慌てて電話を手にすると、捜査本部へかける。ほどなくして応対した捜査員に手身近に用件を伝え、コウキは自らも調べる為に資料を部屋中に並べ始めた。





 ある程度の確信は得られた。


 それが正しい答えか、間違った誘導の結果か。コウキは資料を前に唇を噛み締める。


 捜査員に調べさせたのは、左手の薬指に嵌っていた指輪の種類と形状だった。案の定、彼と彼女らが嵌めていた指輪は婚約指輪で、首の向きが違う4人だけは結婚指輪――これは何を意味している?


 取り戻す……閃くように脳裏を単語が過ぎった。


 なぜ引っ掛かるのか。自分の中に残るロビンの言葉を探り、再会してからの言葉を反芻した。


『おまえは覚えているか? 可愛そうなベス。哀れな子羊を見捨てた神の与えた、むごい試練――』


 あれはどういう意味だろう。


『彼女は純粋だった。純粋だからこそ、僅かな傷も穢れも赦せなくて壊れてしまう……ならば純粋こそが罪だ』


 耳から離れない言葉が繰り返され、コウキは額を押さえて溜め息を吐いた。


「……あいつは俺に何をさせたいんだ……」


 零れた本音を恥じるように、きつく唇を引き結んだ。

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