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【完結】 アポカリュプシス  作者: 綾雅「可愛い継子」ほか、11月は2冊!
第3章 七つの大罪

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03.暗い月

 予言は当たった。


 朝になって発見された死体の写真を前に、コウキは深い溜め息を吐く。あの場でロビンから聞き出すことが不可能だったと理解していても、死ぬと分かっている人間を助けられる手段が目の前にあった事実が心を傷つけるのだ。


 もう少しロビンを問い詰めていたら……そう思う反面、彼の機嫌を損ねて一切の協力を断られた場合も考えてしまう。


 研究対象としては申し分ない存在――コウキ自身も興味を持っている男だ。


 犯行現場は別の場所なのだろう。


 常に血が乾いた死後硬直後の四肢を並べる犯人は、淡々と作業を行ったと思われる。


 芝を踏み荒らした後もなく、慌てて立ち去った車や人影の目撃情報もなかった。


 ふと……写真の一部が気になる。


「これは……」


 手がかりになるか?


 両腕と両足が平行に並んでいる。右脚と右手は同じ東へ、左脚と左手はその逆である西へ向けられていた。もちろん左手首はないから、切断面が西を指しているが……頭の向きが違う。


 今までの現場写真を慌てて引っ張り出した。


 プロファイラーが検証に使う為に用意された写真は、すべて北を上に撮影されている。上下を確認しながら5枚並べたところで、コウキの手が止まった。


 残りを乱雑に放り出し、中から3枚だけ選び出す。


 何故気づかなかったのか? 誰も疑問視しなかったのが不思議だった。


 死体の顔の向きが違うのだ。


 最初に渡された資料の12人中、9人の顔が南を向いている。しかし、ロビンが選び出した3人だけ……僅かに西へずれている。


 これだけきっちり死体を並べる犯人が、ミスをしたとは考えにくかった。


 何らかのメッセージ、あるいは特別な意味があって行われたのだろう。


 じっと見つめる先で、昨夜の被害者の写真を3枚の隣に置いた。やはり、同じように西へずれている顔が違和感をもたらす。


 手にしたペンで、死体の視線の先を書き込めば、すべてが左手首の先へ到達する。手首が残っていたなら、指の付け根に当たる部分だろうか。


 手の形を描き込みながら、コウキは唇を噛み締めた。




「ロビンっ!」 


 勢いよく現れたコウキを待っていたように、独特の笑みを浮べた男は監視に椅子を用意させた。勧められるままに座ったコウキの顔を見つめ、くすくすと笑い出す。


「どうやら……気づいたようだな、コウキ。新しい芸術品は昨日のヒントと同じだっただろう?」


 膝の上で手を組み、穏やかな口調で小首を傾げた。


 ロビンにとって、すでに事件は完全に解けた『過去』の謎なのだ。今更次の死体が発見されたところで、裏にある事件を繋ぐ糸が見えている男には目新しくもない。


「僅かに西を示す、その先は?」


 問いかける口調は、数学の答えを待つ教師のそれに似ていた。ひとつ深呼吸をして、コウキは口を開く。


「指、または指の付け根」


「近いが……昨日のヒントが活かされていない。忘れたのか?『右手では用を成さない』んだぜ」


「……指輪、か」


 にっと口角を持ち上げて「正解だ」と呟いたロビンが手を差し出す。並べた写真に描かれた手首の図と視線の方角に、満足そうな顔で頷いた。


「ここからが重要だ」


 左手の薬指を意味ありげに撫でたロビンは、突然視線を逸らして立ち上がる。仄かに外の光を伝える窓を横目に呟いた。


「さぞかし、昨夜の月は暗かっただろうな」


 意味があるのか。まったく関係ない言葉なのか。


 判断に困ったコウキへ退場を促すと、ロビンはベッドに腰掛けて枕もとの本を手に取った。


 ぱらりと開いて読み進める姿は、他人の視線も思惑も排除している。


 常に一方的に切られる関係をもどかしく感じながらも、コウキは諦めた様子で立ち上がった。


「稀有なる羊……」


 振り返ったコウキへ、天井を指差したロビンが肩を竦める。


「昨夜は暗かった。それが次のヒントだよ」

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