嘘ツキ
「うるさいうるさいうるさい!」
心の中で呪文のように唱えていた言葉は、いつのまにか私の喉を震わせ空気を伝い相手の鼓膜を振るわせた。いや、恐怖心を震え上がらせたのだろう。怯えて固まってしまった掌が汗ばんで見えた。
どうしてこんなにイライラしてるのか私にもわからなければ固まってしまっているこの人にも余計にわからないだろう。
「ごめんね」
いつもすぐに謝る癖が余計にイライラさせる。
「帰るからほっといて」
足早に歩き出すと、本当に後を追ってこないから寧ろ清々しく思えてくる。
時間を潰してイライラを抑えて帰宅すると
「おかえり」
真っ直ぐ帰って来たのであろう彼は透けて見えた
「影が薄いのが見た目にでてるよ」
呟きながら横目で隣の人を何度見ても透けている。向こうが薄っすら見えている。試しに手に触れてみたけど限りなく空気に近い感触だ。加湿器に手を当てている感覚に近い。
「何があったのよ」と問いかけても
「ごめんな」の一言だけ
また、イライラしてくる
的外れな答えに辟易しながら部屋を飛び出した。
「ムカつく」
路地裏を歩きながら缶を蹴飛ばす
心から笑ってて欲しいだけなのにどうしていつも上手くいかないのだろう、最近キスをしたのはいつだろうどうして聴こえなくなったのだろう
「ごめんな、ずっと一緒に入れると思ってたのに」
君がいなくなった世界はとてもつまらなくて悲しくて色が無い、猫1匹いなくなるだけで大の男がここまで落ち込むのかとため息が出る。背中があいたドレスを着たような模様の猫は、当時付き合っていた女性が亡くなってしまい、悲観にくれていた時に出会い、運命を感じていた。必死に探しながら何故だか彼女を思い出していた。
怒りやすい彼女に僕はよく謝っていた。
「そういえばあの猫にも謝ってる気がするな」
不甲斐ない僕に喝を入れてくれるためだったのだろう
「彼女も不甲斐ない飼い主に喝を入れてくれてるのかな」
彼女の行きそうな場所は、あらかた予想がついていた始めて出会った路地裏だ
「やっと探しに来てくれた」
私がどんなに怒っていても探して迎えに来てくれるのは、変わらない人
「やっぱりここに居た、お前はここが好きだな」
心から笑っていて欲しいの、夜が怖くてバランスが崩れて泣きたくても愛しいこの人にはもう声が届かない
「嘘でいいから、幸せになって」
薄くなっていく私の意識の中で声を絞った
「嘘ツキでいて」




