表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

ひだまり童話館 参加作品

みんなアインシュタイン!

作者: 朝永有

 道にネジが一つ落ちていた。

 黒光りした、大きなネジだった。

 僕は大きく溜め息をついて、そのネジをポケットに入れて歩き出した。


 しばらく歩いていると、

「おい! どうしてくれんだよ、ああん! 大事な車に傷がついちまったじゃねえか!」

 サングラスをかけた若い男の人が、僕と同じ学校の制服を着た人に怒鳴り散らしていた。

「こりゃああ、修理費を出してもらうしかないなあ! 分かってるよな!」

 サングラスは威勢よく言葉を続けている。一方、学生服は萎縮してただただ怯えているようだった。

 多分そうだろう。

 周りに怒っている人や興奮している人はいない。 

 僕はさっき拾ったネジをポケットから取り出し、そして、サングラスに向けて投げ込んだ。

 ネジはサングラスに向けて一直線に飛んでいく。サングラスの頭上に来たところで、ネジはピタッと止まり、くるくると回りながらゆっくり頭の中へと消えていった。

「まったく……って、まあ、こんなに怒ることでもないか。ボウズ、悪かったな」

 そう言ってサングラスは車に乗り込み、その場から去っていった。


 僕は人の頭についている「ネジ」が見える。

 それが外れると、自分の感じ入ること、思っていることが滝のように溢れてしまう。

 だから、僕は拾った「ネジ」がサングラスのものだと思って投げ込んだ。

 しばらくすれば元に戻るけれど、すぐに落ち着かせるためにはあれが一番である。

 ただ、周りに同じような人がいると、どのネジが誰のものかはわかりにくいのだが。


 例えば、放課後の学校にだって、ネジはいくらでも落ちる。

 談笑している三人グループの女子。あの三人の頭からはすでにネジが抜けようとしている。

 きっとあれが飛び出すと、とてつもない笑い声が響くはずだ。


 僕は廊下でその声を聞きながら、トイレの前を通った。

 入り口前にネジが数個落ちている。

 男子トイレを覗くと、数人が歓声をあげていた。

 人と人の隙間から見えたのは雑誌だった。

 きっと、流行りの女の子で盛り上がっているのだろう。


 靴箱で上履きから革靴に履き替えていると、

「あれ? 同じ時間に帰るなんて珍しいね」

 女の子に笑顔で話しかけられた。明るくていつも元気な、隣のクラスの女の子だ。

 この出来事のほうが珍しいなと、下を向いて靴のかかとを直す。

「今朝はありがとう」

 ん? 僕は振り返る。

「あのサングラス、メチャクチャ怖かったから助かったよ~」

 どうして僕が助けたんだと分かるんだ?

「ねえ、どうして君の頭のネジ、外れそうなの?」

 笑う彼女の頭からは、ネジが外れそうになっていた。

読んでいただき、ありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 頭のネジというのが面白いですね。 よく比喩で使いますが、本当に外れたら怖いです。 でもそんなネジをはめ直してあげる主人公は優しいですね。 私には考えもつかない素敵な発想で、楽しませていただ…
[良い点] みんなアインシュタイン! 拝読させていただきました。 ネジが外れる……というのをキーワードに不思議な感じお話ですね(^^♪ 着眼、発想がすごく面白いなと思いました。なんでネジが外れるのか、…
[良い点] おお、これは面白いです! 題名から興味をそそられて、読みだしてすぐに「ネジ!?」w そうかー、ちょっとSFっぽいのに、現実味が深くて それがまたアンバランスですごく良い味だと思いました。…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ