みんなアインシュタイン!
道にネジが一つ落ちていた。
黒光りした、大きなネジだった。
僕は大きく溜め息をついて、そのネジをポケットに入れて歩き出した。
しばらく歩いていると、
「おい! どうしてくれんだよ、ああん! 大事な車に傷がついちまったじゃねえか!」
サングラスをかけた若い男の人が、僕と同じ学校の制服を着た人に怒鳴り散らしていた。
「こりゃああ、修理費を出してもらうしかないなあ! 分かってるよな!」
サングラスは威勢よく言葉を続けている。一方、学生服は萎縮してただただ怯えているようだった。
多分そうだろう。
周りに怒っている人や興奮している人はいない。
僕はさっき拾ったネジをポケットから取り出し、そして、サングラスに向けて投げ込んだ。
ネジはサングラスに向けて一直線に飛んでいく。サングラスの頭上に来たところで、ネジはピタッと止まり、くるくると回りながらゆっくり頭の中へと消えていった。
「まったく……って、まあ、こんなに怒ることでもないか。ボウズ、悪かったな」
そう言ってサングラスは車に乗り込み、その場から去っていった。
僕は人の頭についている「ネジ」が見える。
それが外れると、自分の感じ入ること、思っていることが滝のように溢れてしまう。
だから、僕は拾った「ネジ」がサングラスのものだと思って投げ込んだ。
しばらくすれば元に戻るけれど、すぐに落ち着かせるためにはあれが一番である。
ただ、周りに同じような人がいると、どのネジが誰のものかはわかりにくいのだが。
例えば、放課後の学校にだって、ネジはいくらでも落ちる。
談笑している三人グループの女子。あの三人の頭からはすでにネジが抜けようとしている。
きっとあれが飛び出すと、とてつもない笑い声が響くはずだ。
僕は廊下でその声を聞きながら、トイレの前を通った。
入り口前にネジが数個落ちている。
男子トイレを覗くと、数人が歓声をあげていた。
人と人の隙間から見えたのは雑誌だった。
きっと、流行りの女の子で盛り上がっているのだろう。
靴箱で上履きから革靴に履き替えていると、
「あれ? 同じ時間に帰るなんて珍しいね」
女の子に笑顔で話しかけられた。明るくていつも元気な、隣のクラスの女の子だ。
この出来事のほうが珍しいなと、下を向いて靴のかかとを直す。
「今朝はありがとう」
ん? 僕は振り返る。
「あのサングラス、メチャクチャ怖かったから助かったよ~」
どうして僕が助けたんだと分かるんだ?
「ねえ、どうして君の頭のネジ、外れそうなの?」
笑う彼女の頭からは、ネジが外れそうになっていた。
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