蒸し暑さ
春の心地よい陽気から一転して、気温と湿度が異常に上がり始めた。
蒸し暑さのせいで、室内で座っているだけで汗がじんわりとにじみ出てくる。
――これはヤバい。
手軽で手間なく涼をとる手段を考えた結果、ボクは物置部屋へと向かった。
荷物が雑然と詰まったその奥から、白い扇風機を引っ張り出した。
去年の片付けの時、袋をかぶせ忘れていたせいで扇風機にはうっすらと灰色のホコリが積もっていた。
このままでは使えない。
去年の自分を恨みつつ、リビングの床に新聞紙を広げる。
扇風機を慎重に運び、そこへと置いた。
ボクは、まずプラスチックのクリップをはずし、金属の前カバーを取りはずす。
それを、隣に立つアライグマに渡す。
受け取った前カバーを抱きかかえるようにして、アライグマはお風呂場へと走った。
水を張った大きめの風呂桶に前カバーを沈めて、ジャブジャブと洗い始める。
ボクは、中心のスピンナーを反時計回りに回してはずし、プラスチックの羽を取りはずす。
それを、戻ってきたアライグマに渡す。
受け取った羽を頭上に掲げながら、アライグマはお風呂場へと走った。
風呂桶から前カバーを取り出して、今度は羽を沈めて洗い始める。
ボクは、プラスチックの締め付けナットをゆるめて、金属の後カバーを取りはずす。
それを、手足を濡らしたままのアライグマに渡す。
受け取った後カバーを頭にかぶるようにして、アライグマはお風呂場へと走った。
洗い終えた羽を前カバーに重ねて、最後に後カバーを洗い始める。
ボクが残った本体を乾拭きしていると、洗い終えた前後のカバーと羽を運んできた。
アライグマはすっかり水とホコリまみれになっていた。
そんなことを気にも留めず、喜々とした誇らしげな表情でボクに差し出してくる。『水拭きでよかったんだよ』
とは、クチが裂けても言えない。
差し出されたものを受け取り、アライグマの頭をワシャワシャとなでつけた。
水気をタオルでふき取って、外した時と逆の手順で組み立ててゆく。
まもなく、新品同様のきれいな扇風機が完成した。
さっそくアライグマに扇風機のプラグを手渡した。
アライグマは、意味が分からず小首をかしげて洗う仕草をして見せる。
ボクがカベのコンセントを指さすと、すぐに理解し、コンセントにプラグを差し込んだ。
そして、もどって来る。
「さて――スイッチ、オンッ!」
ボクの言葉に合わせてアライグマが『弱』のスイッチを押した。
低いモーター音をあげて羽がまわり始めた。
扇風機から送られてくる風の涼しさに、
「おぉ――」
と、ボクは思わず感嘆の声を漏らす。
それに気をよくしたのか、アライグマはスイッチを『強』に切り替えた。
羽が勢いよくまわり始め、扇風機は中空に浮き始める。
そして、コンセントを引きちぎり、窓ガラスを割って外へ飛び出した。
白い扇風機は空へと消えた。
ボクとアライグマは割れた窓から顔を出す。
焼けつくような太陽と、雲一つない青空を仰ぎながら、ボクは夏の近さを感じていた。




