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第七話 認められる理由

 サイリアは先ほどの和やかな顔を険しくすると隣に居た侍女頭のジステリアに視線を移した。それに気づいたジステリアは真剣な表情でソフィアに問いかける。

「あなたは今まで男性とお付き合いしたことはありますか?」

 ジステリアの質問にソフィアは恥ずかしそうに答える。

「まだどなたともお付き合いしたことはございません」

 それはまだ恋を知らない女性のようにみえる。その姿を見てジステリアはさらにこう言った。

「側室の方に求められるのは国母となることなので、もし処女でないのなら即刻お帰りになって頂きます」

 その大胆な発言にソフィアは少し眉をしかめるがすぐに表情を戻し、先ほどよりも恥ずかしいそうに小声で、だがはっきりと答える。

「まだどなたともそのような関係を持ったことはありませんわ」

 今までの側室候補も同じ言葉を言ったのだろう。ジステリアは手馴れた様子でソフィアの側に侍女を二人立たせた。その意味をソフィアはすぐに理解する。

「わたくしに辱めを受けろとおっしゃるのですか?」

 少し怒り気味に、そして毅然とした態度でソフィアは問いかける。今までの側室候補と違う態度にソフィアの両脇にやってきた侍女は戸惑っている様子だ。

「これは側室候補様全員に受けていただいております。例外はありません」

ジステリアはソフィアの両脇に控えていた侍女に指示を出す。だがソフィアの毅然とした態度に侍女達は手が出せない。

「どなたの許可があってこのようなことをするのですか?」

 ソフィアはジステリアを目で射抜く。その視線を感じたジステリアは今までのように毅然とした態度がとれなくなる。

「指示はされていませんが、国母になるような方が処女ではないことなど許されるはずがありません」

「では、あなたの独断でこのようなことをしたのですか?」

「ええ、そうです」

「では、わたくしは拒否します。あなたは確かに審査官かもしれませんが、これをするほどの権限は与えられていないはずです。違いますか?」

 ソフィアの質問にジステリアは言葉に詰まる。実のところジステリアに与えられた任務は側室候補達の礼儀作法の審査を見届けることであり、直接審査する任務は与えられていない。だが恐れ多くも国王を自分の息子のように思っているジステリアは、国王に幸せな結婚をしてもらいたいと思いこのような行動に出てしまったのだ。その思いを友人であるサイリアも理解しているため、強く止めることはできなかった。

「確かに私の言葉に強制力はありません。ですがこれをしなければ今回の審査の評価が下がるとは思いませんか?」

「そうかもしれません。でもあなたにはダッカルゼ伯爵家の娘のわたくしに命令することなど出来ないはずです。それでもこのような行動を強制するのでしたらこちらにも考えがあります。我が伯爵家は領地こそ王都から遠い北端に位置しますが、歴史ある名家です。当主である父が陛下にこの事を報告したらどうなるとお思いですか?」

あくまでも令嬢としての品位を損なわず、かつ穏便に済ませるためにソフィアはジステリアを口で言い負かすことにした。

ジステリアはソフィアの言葉を聞き、少し怯む。これなら言い負かせることができると踏んだソフィアは、さらに追い討ちをかけるように言う。

「貴族の令嬢に辱めを受けさせたあなたを陛下は何のお咎め無しにするとお思いですか? このような辱めを受けたのはわたくし以外に何人いらっしゃるのかしら? もしあなたが悔い改めるのでしたらわたくしは今回のことを問う気はありません」

「脅迫するのですか?」

「脅迫と思われることをしたのでしょう? わたくしの慈悲はここまでですわ。さあ、侍女を下がらせなさい」

ジステリアは初めこそ悔しそうな顔をしていたが、2人の侍女を下がらせるとその表情を和らげた。

「もう試験は終わりかしら?」

勝ち誇ったように優雅に微笑むソフィアを見ていたら、ジステリアは自分が負けた理由が頷けた。サイリアからソフィアがいかに素晴らしい女性かを聞いていたジステリアは、ソフィアがこの部屋に入ってきた時からすでにその瞳に囚われていたのだ。度胸もあり、礼儀作法も申し分なく、そして美しい。この女性ならあの人に囚われ続ける国王を救い出せるかもしれないと考えたジステリアは満足そうに微笑んだ。

「試験はもう終わりです。次の控え室でお待ちください」

「そう、ではこれで失礼しますわ。結果的には脅してしまうことになりましたが、私は決してあなたのことが嫌いなわけではありませんから」

 その言葉を聞いてジステリアは苦笑する。敵を作らないソフィアの姿勢に彼女の処世術を見た気がする。もしかするとこの女性こそ側室に相応しいのではないかと思った。

側室候補への試験が終わった頃には、結局百人居た側室候補者達はたったの八人まで減っていた。その中にクリステル嬢がいるのはさすがだとソフィアは思う。でもこの女性があの辱めを受けたとは思えない。どうやってジステリアの行動を押さえ込んだのだろうと不思議に思う。

その時あの噂を思い出した。

『クリステル嬢が今回の側室決定の審査官かもしれない』

 その噂の真偽は分からないが、クリステル嬢の動向は特に気にしておくべきだと感じた。だがクリステル嬢だけを気にすれば良い訳じゃない。他の側室候補も立派なライバルであることは変わらない。

ソフィアはまずライバルとなる自分以外の七人の女性について調べるように自宅に手紙を送る。その返事を待っている間も可能な限り情報収集をしよう。そのためには他の候補達と会話をする必要がある。側室が決定するまで後宮で過ごすことになるのだからその機会もそう遠くなく訪れるだろう。その時のためにソフィアはじっくりと計画を練るのだった。


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