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第五話 選ばれるのは一人

アルフベーセル・ヴェルハウン・ドルフェ。

それがドルフェ王国の現国王の名だ。

彼は独裁的な政治を行い財政困難に陥らせた前国王である父ドルフバルン王を廃除し、わずか十四歳で政権を勝ち取り国王になる。それから数々の政策を打ち出し傾いていた財政を立て直した手腕は、貴族ならびに国民から絶大な支持を得ている。現在二十八歳で、すでに在位十四年になる。

そしてアルフベーセルが愛妻家な事はかなり有名な話だ。いくら貴族達が第二妃や側室を迎えるように言っても王妃マチェンダ以外の妃を持とうとはしない。しかし政変を起こす時にお世話になった貴族達から結婚して十年も経つのに、子を産まない王妃に見限りをつけるように言われ続けていたこともあり、今回側室を迎えることになったのだ。本当は第二妃を迎えるように言われていたのだが、正式な妃となれば政治的価値を与えることになる。それでは子供を生まなかったマチェンダがないがしろにされると考えたアルフベーセルは、政治的価値の無い側室ならと了承したのである。

「正直側室なんて迎えたくない」

舞踏会場に向かっているアルフベーセルは側に控えている側近のイングヴァルと護衛の近衛騎士団長のレオポルドに愚痴をこぼす。

「十年も子供を作らなかったお前が悪いんだろう。俺は何度も忠告したぞ。それをまともに聞かなかったからこうなってしまったんだ。これはすべてお前の責任。今更側室を迎えないとか言い出すなよ」

 イングヴァルはそう言ってアルフベーセルを責める。イングヴァルはアルフベーセルの幼馴染であり従兄弟でもある。だからこんな無礼な会話が可能なのだ。普通の臣下だとこんな会話は出来ない。

「だが、側室を迎えたらマチェンダが悲しむ」

「王妃は今回のことを了承した」

「それは本心からじゃない」

「確かにそうかもしれん。だがお前には子供を作る義務がある。今まで子供が生まれなかったのは何もお前だけのせいじゃない。王妃にも非はあるんだよ。王妃が子供を産めないのなら他の女性に産んでもらうしかない」

「…………」

 黙るアルフベーセルの代わりに反論したのは今まで静観していたレオポルドだ。

「マチェンダ様に本当に非があるのでしょうか? マチェンダ様は子供が出来るようにといろいろと努力をされていました。それなのにその努力をむげにしたのは他ならぬ陛下です。マチェンダ様が悪いのではありません」

 まさかこの話にレオポルドが口をはさんでくるとは思っていなかったイングヴァルは少し驚くが、ここで反論しなかったらマチェンダに非がないと思われてしまう。

「だが現に王妃は子供を産まなかった。本当に非が無いと言いきれるのか?」

 畳み掛けるイングヴァルの言葉にレオポルドは反論できない。だがここで黙ってしまうことはマチェンダの非を認めることになる。

しばらく二人は口論をした。だが決着はつかない。それを止めたのは今まで傍観していたアルフベーセルだ。

「すべての責任は俺にある。マチェンダのせいじゃない」

 アルフベーセルの言葉を聞いてレオポルドは満足そうな顔をし、イングヴァルは不満そうな顔をする。

「じゃあその罪を償うために側室を迎えろ。子供が出来れば王妃への非難は和らぐだろう。それで側室は何人迎えるんだ? 多いほど子供が出来る可能性は高まるぞ」

イグヴァルは興味津々に聞く。イングヴァルとしてはせめて三人ほどは迎えてほしいと考えている。

「……一人だ」

「一人しか迎える気が無いのか? もしその側室が子供を産まなかったら、また側室を募集することになるんだぞ。そんな面倒なことをしていたらお前が年寄りになって子供が出来なくなってしまうじゃないか。せめて三人は迎えろ」

「嫌だ。一人だけしか迎えん。何と言われようと一人だ。でなければ側室など迎えないからな」

アルフベーセルはそう言うとこのことについての提言を一切ははねのける。十年も側室を迎えることを拒否してきたアルフベーセルにとって、一人でも側室を迎えることを了承したことが異例なのだ。これ以上責めて側室を迎えないと言い出したら元も子もない。イングヴァルは仕方がなくそれを了承するしかなかった。

アルフベーセルは舞踏会場に着くとこの話を終わらせる。

「側室は一人しか迎えない。女の醜い争いに巻き込まれるのも嫌だし、マチェンダがかわいそうだ。いいな?」

 アルフベーセルはそう念を押すと舞踏会場に入るために背筋をぴんと張る。それと同時に国王の威厳が出てくる。まだ若い部類に入るアルフベーセルは貴族たちになめられないように自然とその威厳を身につけた。その様子を見てイングヴァルはアルフベーセルを頼もしく思う。だから十年も子供がなくても黙認してきたのだ。だがそれも今回で限界が来てしまったようだが……。

「国王陛下のおなりです。みな静粛に!」

今までざわついていた会場が一斉に静まりかえる。響くのはこの会場に現れた国王の足音だけである。

アルフベーセルは会場が見渡せる高台でスピーチを行う。その声には威厳があり、ここに集まった大勢の貴族達を前にして堂々としている。その姿を見たここに集まった貴族達はこの国の未来はきっと明るいだろうと誰もが思う。それと同時に側室候補である令嬢達はこの立派なアルフベーセルに嫁げるかもしれないことをとても嬉しく思っているようだ。

「今日はお集まり頂きありがとうございます。このように素晴らしい大勢のご令嬢達に出会えたことを喜ばしく思います。ですが今回側室として迎えるのは一人だけです」

 その言葉を聞いて会場に集まった貴族達はざわめきだす。貴族達は少なくとも十人ぐらいは側室を迎えると思っていたのだ。それなのにたった一人しか側室を迎えないとアルフベーセルは言う。そう考えると自分の娘がそのたった一人になれるかどうかとても不安になってきたようだ。

「側室になられる方はこれから評価させてもらい決定したいと思います。ですがそれは明日からのこと。今日だけは羽を休めてください」

 そしてアルフベーセルはそれだけを言うと舞踏会場を退出していく。

「国王陛下が側室を迎えることを快く思っていないのは目に見えているな」

誰かがそう言う。それを聞いた者は納得せずにはいられない。

 ソフィアはアルフベーセルの態度に少し驚いていた。確かにアルフベーセルは王妃マチェンダ以外の妻を持つことを拒否しているとは聞いていたが、今回側室を迎える事を了承したのだからもう少し態度が軟化したと思っていたというのにこの態度か?

 ソフィアはあのアルフベーセルに気に入られる自信がなくなってきた。下手すると会わずに身分だけで側室が決定してしまうかもしれない。一目でも会うことが出来れば、この瞳の力を使って落とすことができると思うのだが、それも会う機会が設けられたらの話だ。

「不安かい?」

 ソフィアの様子を見たヨハネスがそう聞いてくる

「そうですね。国王陛下が側室を良く思っていらっしゃらないようですので少し不安です。きっと王妃様を大切にしていらっしゃるのですね」

その言葉を聞いたヨハネスは忌々しそうに言葉をつむいだ。

「前国王は独裁政治を敷き、女に現を抜かし国を衰退させた。それを止めたのは他ならぬ現国王陛下だ。国王陛下は前国王と同じ過ちを犯さないために妃を一人と定め続けた。しかし王妃との間に子供は生まれない。これではこの先世継ぎを定めるために内乱が起こるかもしれないと考えた国王は仕方なく側室という形で妻を持つことを了承した。国王陛下にとって子供を生んでさえくれれば側室が誰だって良いとお考えだ……というのが建前だ」

「建前ですか? 真実は違うのですか?」

ヨハネスはあまりこの話をするのが嫌らしい。しばらく沈黙した後、重い口を開く。

「国王陛下が前国王の二の舞を避けるためとかマチェンダ王妃を愛しているからとかで側室を娶らないのでは無いよ。実は陛下の心の中にはある女性が住んでいる。陛下は今もその女性を思い続けて入るんだ。だからマチェンダ王妃以外の女と関係を持ちたくないとお考えだ」

「……その女性とは誰ですか?」

 ソフィアの疑問はもっともなことだ。だがその女性をヨハネスは言うことは出来ない。それは貴族の間ではタブーとされてきたからだ。

「国王陛下の想い人を今は言えない。でもソフィアだったら国王陛下の心に住んでいる女性を越えることができるかもしれないよ。がんばりなさい」

 ソフィアとしてはこの瞳の力で悩殺してしまえば側室になるのは簡単だと思っていた。だけど相手は一途に一人の女性を求める男。果たして瞳の力が役に立つかどうかは謎だ。しかも側室の枠は一人だという。本当に側室になることができるのだろうか? とソフィアはさらに不安になる。

「ずいぶん不安にさせてしまったかな?」

 ヨハネスはソフィアを気遣う。

「正直言えば不安ですね。側室候補の方は一体何人いらっしゃるのですか?」

「そうだなあ、私が聞いた限りではちょうど百人だと聞いている。実はもっといたのだが、第一次審査で落とされたらしいよ」

 だからこの会場に集まった令嬢達は美人ぞろいなのか。誰一人として容姿が優れていない者はいない。だが容姿が優れているだけでは国王陛下の心を捕らえることは出来ないようだ。そうなるとソフィアの容姿も武器にはならない。でもそれはどの令嬢も同じこと。ソフィアは他の令嬢達と同じ土俵で戦うしかないのだ。


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