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罪人の双六  作者: 葉玖 ルト
――TRUE END――
27/30

二話 災厄を呼ぶ死神

 ――追い出された。

 町を挙げて、俺を追い出すように仕向けたのだ。

 災厄を呼ぶ……呪われた子供。


 俺がその町にいると、不思議と犯罪者が増える。

 俺がいると、自然災害が起こる。


 神にすら見放されたら、こんな子供は生きていけない。

 ……一人ぼっちになった。


「……」


 誰を恨む気もなかった。

 自分が悪いのだと、諦めていた。

 どうして、こんなに呪われているのだろうか。

 ――きっと。いつか、わかってくれるよね。


 誰か救いの手を、伸ばしてくれるよね。




 ――町に辿り着いた。


 とても平和で、皆がニコニコだった。笑顔の絶えない町に、俺も釣られて笑顔になった。


 しかしその数日後、笑顔の町が恐怖に染め上げられた。


 深夜二時頃。

 太陽がその日の出番を今か今かと待ちわびながら静かに山に隠れている。


 突如、誰かの悲鳴が聞こえた。

 優しい町の住民達は、どうしたのだと家からワラワラ飛び出した。

 俺も宿から飛び出すと、一軒、火の粉を纏い揺れる家があった。

 ごおごお、ぱちぱちと、まるで焚き火でもするかの如く木の燃える音。

 困惑した。

 どうやら放火魔が出現したらしいのだ。 


 黒いサングラスで目を覆い、三角マスクで口元を覆い、キャップ付きの防止で完全に顔がわからないようになっている。


「な、なんで、こんなちんけな町なんかに……」


 住民の一人が声を上げた。

 そうすると、放火魔は楽しそうにもう一軒、もう一軒と数を連ねて燃え広げていく。


「……っあ、ああ」


 恐怖に怯えた俺はバレないように荷物をまとめて町から逃げた。

 俺は悪くない。悪くない。

 そう言い聞かせないと、今に狂っておかしくなってしまいそうだった。




 ――次の町に移動した。


 そこは海に囲まれ自然豊かでとてもいい土地だった。

 ここなら安心できそうだ。

 放火魔が来ても、すぐ近くが海なのでそれを利用して消せる。

 きっと、大丈夫。


 その心配も束の間、数日経ったある日。


 津波が……起きた。


 窓を叩くような激しい雨風、鳴り響くテレビの津波警報。

 そして見る見るうちに……町は波に飲み込まれた。


 その日から、町はボランティアが集まるようになった。

 怖くなって、町からこっそりと抜け出した。

 ……町の入り口周辺、そそくさに出て行こうとする俺は、とある草むらに着目した。

 激しくガサガサと揺れている。その中から、まるで口元を抑えられたような、空気の含んだ声が聞こえた。


 ――恐る恐る、その草むらに近づくと


「……っ!」

「いやああ、助け……そこの、人」


 ボランティア団体を示すコートを着た男に、女の人が襲われている。

 俗に言う、強姦、というやつだった。

 ……何も見ていない。


 「俺は、何も――」


 どんどん、人が不幸になっていく。

 歳を取るにつれて、その度合いも大きくなっていく。

 逃げた。町から、世界から、どこか誰にも見つからない場所でのうのうと暮らせる場所を、探し続けた。

 怖い、怖い、自分が、世界が、全てが。


 ……気付けば、足下は掬われていた。


 海に沈んでいく身体を懸命に動かし、どこか遠くへ逃げた。

 世界の、果てへ。

 どこか、遠くへ。

 誰もいない――場所、へ。



 *



「ん……ここ、は」



 気付けば、謎の地下施設にいた。

 頭が痛い。混濁した意識が戻りつつあると、潮の味を思い出して咽せ込んだ。

 ここはどこだろうか。

 とても薄暗くて、カビ臭くて……でも、どこか落ち着く。

 謎の箱に入れられた俺は、その場を離れようと試みた。

 しかし、何故だか遠くへ行けず、鎖の音が耳元でうるさい。


「……なんだよ、これ」


 気付けば足枷が装着されていた。

 どうやら周辺は歩けるようだ。一度、謎の箱を確かめるために身体を動かす。

 ……吐き気がした。


「――っおぇ」


 緑色の重たそうな、棺。

 自分はずっと……ここで眠っていたのだろうか。


「どこだよ、ここ。帰せよ、誰か、誰かあ!」


 焦って泣き叫んだ。

 その声は天や地に跳ね返り、自分に届けられるばかりだった。

 ……絶望の淵に立たされた俺を待っていたのは。


「先輩、被験者が目覚めたようです」


 木の階段を降り、地下施設に現れた謎の人物。

 まるで何か、危険な物に触れるような防具で現れた。

 顔の表情はガスマスクのせいで、見えない。


「……そうか」


 現れた人物より後に降りてきた、先輩と呼ばれる人物。

 そいつは俺の前に歩み寄り、どんっと肩を押してきた。

 勢い余り、尻もちをついて棺に腰をぶつけた。


「ぐ……」

「では、本日も」

「な、なんなんだよ」


 やつは一本の注射器を取り出した。

 一体、何を、する気だ?


「……――ッ!」


 目の前の野郎が、俺の首筋に注射器を刺した。

 想像を絶する痛みが全身を襲う。あちらこちらにズキズキとした感覚があり、狂ってしまいそうに声を上げた。


「が……ああ、あぁッ!」

「……完了だ。おい、アレを用意しろ」

「了解致しました!」


 意識が朦朧とする。

 額からは酷い汗が吹き出した。

 くる、しい。息をするのも、やっとだ。


「ひ、ひー」


 何の変哲もない、ただの人間。

 ひょろっとしていて、頼りなさそうな男を、下っ端が連れてきた。

 そいつをどさっと放り投げ、やつらは何ごともなかったかのように去っていく。


「……あんたは」


 そう自分が告げると、男は土下座をしながら情けなく叫んだ。


「命だけはー、命だけはああ」

「……は?」

「やだ、ラットなんて嫌なんだあ!」

「……ラット?」

「お前のために、犠牲になるなんて嫌だああ」


 犠牲になる?

 俺がいつ、こいつに酷いことを仕出かしたと言うんだ。

 ……失礼なやつだな。


 ――時は経っているのか、いないのか。

 それすらもわからなくなりそうな地下施設で、二人揃って膝を抱えて座り込む。

 会話なんてない。


 しばらくすると、謎のやつらが再びこの場に戻ってきた。

 銀製のワンプレートを手に、飯を用意したのだ。


「食え」


 やつらはそれだけを言い残し、また地上へと戻っていった。

 何がなんだか、わからない。

 混乱する中、飯を口に付けた。


 味は悪くなかった。

 監禁する相手に出すような飯じゃない。普通に食べられる、いい飯だ。


「……ひく、ううう」

「いつまで泣いてるんですか」

「……こ、このまま食べなかったら死ぬ。でも、食べても何が起こるかわからない」


 そうか、毒という手段もあったか。

 ……軽率だった。


 しかし、食べても何も起こりはしないし、空腹の俺達にとっては悪い話じゃないと思うが。


「毒、入ってませんよ、恐らく」

「そういう、問題じゃ」


 ぐうう。

 男の腹の虫が鳴いた。

 どうやら、もう我慢できないらしい。


「あ、ああ。どうにでもなれ! 頂きます!」


 その後、二人で飯を平らげた。

 少なくとも夢中で完食するほどには、うまかった。

 しばらくしてやつらがワンプレートを回収する。

 

 ――その、翌日。


 男が腹痛を訴えた。

 苦しそうに腹を抑え、今に死んでしまいそうに近くのトイレに嘔吐を繰り返す。


「う、ううっげほ、が……」

「大丈夫、ですか?」


 背筋を摩り、どうにか男が楽にならないかと気を遣ったつもりだった。

 しかし男の口からは、とんでもない言葉が浴びせられた。


「この、悪魔……」

「え?」


 ……弱り果てるように男は項垂れ、そのまま息を引き取った。

 様子から察するに、相当酷い食中毒に当たったようだ。

 俺が、悪魔。一体、どういうことだ?


 しばらくして、また一人きりになった俺の元にやつらが現れた。

 上司は顎で下っ端に扱きを使い、死んだ男は回収されていく。

 それを回収し終えると、再び下っ端が戻ってきた。


「では、本日も」


 スッ。当たり前のように胸元から取り出される注射器。

 ……なんで、こんな、目に。



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