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罪人の双六  作者: 葉玖 ルト
――TRUE END――
26/30

一話 呪われた子

 ――罪人島


 ……頭が痛い。

 ……それは酷く心臓に伸し掛かる。


 ……吐き気がする。

 ……それは身体を捻り潰した。


「――っ、ん……」


 真っ暗な視界のはずだった。


「――眩しっ」


 しかしそこは、窓から仄かに太陽の光を漏らす、青銅造りの教会だった。


 わからない。自分がどうしてここにいるのかも、今まで何をしていたのかも、サッパリだ。


 ふと後ろを振り返る。

 視界の先にはステンドグラスが映った。悪魔の前に苦しむ人間の姿。

 一体、どうしたってこんな悪趣味な絵を作れるのだろうか?

 少し視線を下に傾ける。

 ……謎の、緑色の棺だ。


「……なんだ、これ」


 そっと、手に触れた。

 しっかりとした造りで、開けるのも重たそうだ。

 意を決し、その蓋を持ち上げる。

 重量感が腕に伸し掛かるが、今はそんなことを気にしてはいられない。

 目の前の「真実」を確かめるのが先だ。


 ――ギイイイ。


「うっ――」


 目眩がした。

 なんで、こんな、場所に。


「俺が――」


 目を閉じ、苦痛に顔を歪ませていた。

 ああ、自分は、死んだのか。

 嫌でも気付かされた。


 して、なんでこんなに狂喜に歪んだ顔をしているのだろうか?

 まるで、何か恐ろしいことをされたような、絶望的な表情だ。 


「あっ、痛っ」


 突然の頭痛が襲った。上から、誰かに手の平でぐしゃり、と押されてしまいそうな感覚。

 一体、ここはどこで、俺は何をしていたのだろうか。


「……俺は」


 思い出す。


「――熱い」


 真っ赤に燃え盛る炎が、少しずつ近づいてくる。


「痛い」


 アイスピックで鋭く尖らせた氷の破片で、肩に傷をつけられていく。


「……やめ、て」


 真っ暗な地下室で、俺は……。


「ぐうっ」


 頭を抑える。思い出してはいけないような気がして、記憶の蘇りを拒否した。

 けれど意思に反して、嫌な思い出は沸騰したお湯が吹き出す小さな泡のように、一気に――流れ込んでくる――。




 ――神様。どうしてぼくは、こんなに悪いひとに捕まるんですか。


 子供の時に、そんなことを言った記憶がある。


「やめろ、テメェら! こっちに来るな、じゃねえとこのガキを殺すからな!」

「いやああ、ダメ、やああっ! ――ちゃんを返してえ!」

「うっせえ! 身代金、ほら、一億。さっさと寄越せ!」


 マンションの一角。

 ママが泣いている、悪い人が自分を捕らえている。

 なんでだろう。


 こんなにママが泣いて、ぼくは犯人に捕まっているというのに……。

 なんで涙が出ないのだろう。なんで悲しくないのだろう。


「……犯人さん」

「あ、ああ?」

「どうして、ママはこんなに悲しんでいるの」

「ざっけんな、このガキ……気持悪い。ママが泣くのは当然だろ」

「……どうして?」

「――っなんなんだよ、このガキはよお!」


 虚ろな目で、虚無に喋る俺に対して犯人は罵った。

 

 その後、警察の手により無事、確保された。


「――ちゃん、よかった。あぁ、よかった」

「なんで、泣いてるの」

「バカ、悲しいに決まってるじゃない!

 ――ちゃんがいなくなったら、ママは、ママは」


 理解不能。

 頭が考えるのを拒否した。


 ――その数日後。


「……ママの、お使い」


 お使い。ただ単純に、物を買って家へ帰るだけの作業。

 小さなポシェットをぶら下げて、普通に、ただ普通に目的地に歩いていた。


 横断歩道に差し掛かり、青のランプが光る信号。

 右を見て、左を見て……。

 律儀に交通ルールを守って渡る。

 それの何がいけないのか? 

 否、悪いわけがない。 


 ――息を呑んだ。

 車が、こっちに近づいて来る。

 青信号のはずなのに。ビックリした俺は転がるように駆けた。

 猛スピードで駆け抜ける車はやがて、激しく電柱にぶつかる。

 轟音は天地を揺らすほど、激しい衝撃となった。


「……ぼく、大丈夫かい!」


 それを目撃していた一人の男性が、さぞ怖かっただろうと背を撫でてくれた。


「……お使い」

「――え?」


 機械的にそう答え、再び目的地へと歩き出した。


「――あの子は、まるで人間じゃないみたいだ」


 結局、ソレは居眠り運転だった。

 家に帰ると、ママの耳にも入っていたらしく、大声で喚かれた。




 ――数日後。



「待て、落ち着け!」

「このガキを返してほしけりゃ、今すぐ大金を用意しやがれ」


 何やら電話の先で、揉めている男の人。

 車の後部座席。四肢を縛られ、身動きが取れない。

 どうやら誘拐されたようだ。


「……おじさん」

「ちっ、ちょっと待ってろ、ガキが何かを言いたいようだぜ」


 その犯人は携帯の電源をつけたままこちらの話を聞いてくれる態勢へと移った。


「なんだ、ガキ」


 運転席から首を捻り、こちらへと顔を見せる。


「――おじさん」

「だから、なんだよ」

「――どうしてぼくは、こんなに悪いひとに捕まるんですか」

「は……っ?」


 神は俺をどうしたいのだろうと、大人に成るにつれて天へと文句を告げた。



「ね、ね? 引っ越しましょう。それがいいわ」


 俺の為に引っ越そうと提案する母。

 しかし何度、何度、引っ越しても結果は同じだった。

 自分が脅威に晒され続ける運命は、変わらなかった。


 ――ジリリリリ……。

 学校の非常用ベルが鳴り響く。

 調理室から火事だとの報告があり、全員で火災訓練通りに動いていく。

 しかし、学校の中で一人だけ動きが鈍い子がいた。その子は、火事に巻き込まれて亡くなった。




「うわっ」


 とある日、駅のホームに立っていた。

 しかし後ろから何者かがぶつかって来て――ホームの先へと落ちていった。


「……!」


 電車がこっちに走ってくる。

 ヘッドライトを光らせ、車輪から火花を散し、急ブレーキを掛けようと試みていた。

 避けるのは不可能な、気がした。

 思わず身を伏せた。


 ――頭は丁度、車体の空間で助かっている。

 電車は頭だけを飲み込んだまま、停止した。


「大丈夫ですか!」


 車掌に手を引かれ、どうにか生存できたようだ。


「あ、あの?」


 そうだ、本屋に行くのを忘れていた。


 今だから思うに、端から見れば不思議な人だっただろう。

 誰もが自分の様子に釘付けだった。


「ねね、あの子、死にそうだったんだよね?」

「それなのに無言で立ち去るって、少し気味が悪いわね」




 ――数日後


「泥棒……?」


 空き巣に、入られた。

 幸い現金は取られなかったが、金目の物は盗まれるという始末。



 ――数日後


 近所で台風が起きた。

 被害は然程のものではなかったが、皆に恐怖を与える出来事となった。


 ――その数日後


 ――――更に数日後


 ――――――また、数日後


「ねえ――くん」

「なに、母さん」

「ごめんね、ごめんね」


 その日、突然と母が泣きじゃくり訴えてきた。

 一体、何の用事だろうか?


「この町から、出てって――」


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