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罪人の双六  作者: 葉玖 ルト
六章 罪人の双六
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エピローグ 延々と続く物語

「あー、重かった」

「……アロケル」


 地下。

 亡くなりつつある旭氷と、既に息を引き取った男を回収したアロケルは、お気に入りの椅子にどっかりと座る。


 壁に描かれた双六ボード。

 男の駒は真っ赤に染まり上げ、ボードの上に存在しない。

 旭氷の青い人型の駒が、半分ほど赤色に浸食されていた。

 ぷらん、とぶら下がり、今に落っこちてしまいそうだ。


「さすがに、あの子のことを考えろ」

「はあ? 個人の問題で、個人の情で、ルールを無視して助ける?

 それこそバカだろう」


 エリアスはアロケルに反論できる口を持っていない。

 だが今回ばかりは、許せなかった。

 それは今も尚、生きている人間として。


「ふざ、けるな」

「ああ?」

「ふざけるな、私だって、情くらいはあるッ!」

「……ちっ」


 怒りを露にするエリアスに対し、アロケルは舌打ちをすると双六の駒を手に取った。

 一つ、投げてキャッチすると、黙らないエリアスの口元に突っ込んだ。


「んぐっ……!」

「少しは冷静になれ、ばーか」


 駒を口から取り出すと、少しは冷静になれたようだ。アロケルに向けてお辞儀をすると、またいつもの冷静さを取り戻す。


「確かになあ、あんたの言う通りだよ」

「……アロケル」

「だが、情に流されすぎて贔屓だけはしたくねえんだよ」

「ひ、いき」

「それこそ真面目に頑張ったやつらがバカを見る。褒められるように、俺達にベタベタ媚を売った罪人だけが生きられる世界――。

 そんな世界で、律儀にルールを守って戦いたいと思うか。思わねえだろう」

「――すまない」


 アロケルの島に対する思想は、誰よりも堅く誰よりも強かった。

 そして誰よりも罪人を恨み、誰よりも復讐を望むのだ……。


「見ろ」

「……っ」

「やつが、息絶えた」


 やがて青い駒は完全に赤へと染まり、ボード上からその存在を消した。


「なあ、こう考えようや」

「……」

「もう辛い双六ゲームから退出できた、と」

「……くっ」

「歩かなくていいんだ。苦しまなくていいんだ。必要以上に人を恨まなくていいんだ。

 ……妬まなくていい」


 アロケルは諭すように語った。

 もう、何をしなくてもいいんだと。

 何の心配もいらないのだと。


「なあ……」

「なんだ、アロケル」

「延々と、ボードの上を歩き続けなきゃなんねえ存在ってのも、結構体力がいるんだぜ」

「――」

「辛くても、休むというマスがない。苦しくても、リセット……スタートへ戻るがない。

 どんなに怒りに震えても、ゲームから降りるという選択肢すら与えられない」


 ああ、そうだな。

 アロケルの囁かな呟きに、エリアスは小さく頷いた。


「――ふふっ」

「アロケル」

「だれか、俺を引きずり降ろしてくれねえかな。恨みの塊を。

 マスの上で参加者を喰らう、悪魔を」

「――いつか、現れるといいな」



 アロケルは深い、深い、ため息を吐いた。

 何度、味わっても飽くなき戦い。

 それと同時に、マスの上から降りてしまいたい気持ちも強いのだと、アロケルは囁いた。


「罪人が生まれ、この島に辿りついて、罪人に殺され、罪人が消え、また罪人が生まれる。

 この負の連鎖を止めてくれ」

「……アロケル」

「お前は俺の傍に」

「この命が尽きるまで、寄り添おう」


 ――ああ、神に愛されず、人生に狂わされた者達が、今宵も狂い狂わされ罪を犯すんだろうなあ。


 誰にも止められない負の連鎖を……。

 いつか、誰かの手で。


 ――あんたの手で、終わらせてくれることを願っているよ。








 ――また一人の若者が、こうして罪を重ねてやってくる。


「……これ、は」


 ――とある青銅の教会。

 その祭壇に捧げてある、謎の棺。


「――っ」


 ごくり、唾を飲む音が静寂を切り裂く。

 ドキドキと心臓が止まらない。

 一体、この中に、何が――。


 そっと蓋を開けた。中には……。


「はっ、こつ」


 綺麗に保たれた、白骨化した誰か。


 そこには、一つの古びた手紙があった。


 ところどころシミがついていて、少し乱暴に扱っただけでも今に破けてしまいそうだ。


 恐る恐る、慎重に……シミのついた古い手紙を開く。


『これを拝見した罪人様へ』


 古すぎるため、字がぼやけていて、読み辛い。

 しかし彼は、まるで食いつくように魅入った。

 内容から目を離さず、一言一句を読み取った。


『私は決してあなた方、罪人達を許すことはないでしょう。

 誰よりも、誰よりも、どんな理由であれ、どんな形であれ、罪を犯すあなたを、許さない。


 けれど、私の願いを一つだけ聞き入れてくれるなら、私はあなたに頼みましょう。


 この怨念の具現、人に制裁を加える死の悪魔。

 あなたの力で呪われた怨念を浄化してみせなさい。

 人には闇があるから人なのだと、その刃で証明してみせなさい。

 呪われた体質に幾度となく導かれても、その力で闇さえも受け入れてみせて。


 私はずっと、待っている。

 あなたが私を殺す日まで、ずっと、ずっと――』


 誰が書き連ねたのだろうか。

 来て日の浅い彼には、理解不能だった。

 

 さて、今日も飯のために罪を重ねるか。

 彼は手紙を元に戻し、棺の蓋を閉める。

 その手の刃を持って、罪を狩りに、罪を犯しに戦場へと繰り出した。


 ――終わらない負の連鎖が、今宵も始まった。

 

 ――さあ、罪人よ、殺し合え。







 ――――――全ての罪が、消えゆくその時まで






    

      

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