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罪人の双六  作者: 葉玖 ルト
五章 下された命令
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十九話 共に堕ちろ

 ――ズドンっ。

 勝負はやつの銃撃で始まった。

 一撃を剣で防ぎ、瞬時に真横へと飛ぶ。完全にやつの背後を取れそうな位置まで移動し、背中を目掛けて突っ込んだ。

 やつはその刃を素早く避ける。だが、自分の位置は丁度、やつの銃口に位置していない。このまま振り返り剣を回せば、奴の頬ぐらいは斬れるだろう。

 ……今だ。


 ――――ッ。


「はぐッ……」

「甘いぞ、坊主。そんなんで、よく生きてこられたな? ああ、彼女に護ってもらっていたのか」

「は、はっ……くッ」


 ダメージをもらった肩を抑えながら、やつを睨め付けた。

 ……どうやら、二丁、もっていたのか。


「かはっ」


 肩から血液が流れ出る。

 身体が、重い。


「……やめだ、やめだ」

「――っ」

「これじゃあただの弱い者イジメ、そうだろう?」


 屈辱だ。バカに、された。

 なんで……何も、出来ないんだよ。

 こんな、こんな、こんな時に限って――。

 くそッ、自分にそう嫌気が差した。


 でも、ここで諦めるわけにはいかない。


「くッ!」

「あーらら、諦めの悪いガキだなあ」


 一歩、二歩、三歩……。

 もはや闇雲としか言えない剣戟を必死に繰り返す。

 しかしやつにはかすりともしない。

 ガタイの割に軽い身のこなし。こちらが対立しているのが、バカらしく思えてくる。


 ガンっ。途端、剣が特定の位置から動かなくなった。

 銃と激しい火花を散し、そこで受け止められている。

 思い切り力を入れても、動かない。おかしいな、接近戦ならこちらの方が……有利なはずなのに。


「かはっ!」


 身体が遠くに吹っ飛ばされた。

 やつは足を使って、腹部を蹴り飛ばしてきたのだ。


「あぐぅっ!」


 青銅の床に叩き付けられ、抵抗する間もなく突っ伏した。

 相棒の音が虚しく響き、青銅の床にスリップする。


「諦めな」

「……はっ、は、は――」

「貴様にゃ無理だ。やつの命令と言えど、帰って泣き寝入りするしかねえ。やつには俺から伝えておくよ、あんなに可哀想な命令はやめてやれってな」


 視界が……薄くなっていく。

 もう、立つことも苦しい。


 ――なんで、自分は何もできないのだろう? 

 もっと、自分に力があれば。

 そう、嫉妬の……力、を。……こいつを殺す、力に変えて。


 できる、はずだ。

 自分ならできる。

 シオンを護る矛と成り得る。


 ――殺さ、ないと。


「……なんだ?」

「うっ、ああ、あああッ!」

「――面白い」

 

 身体の内側から、何かが迫り上がって来る。まるで身体の中に黒いマグマが溜まっていて、今にも噴出してしまいそうだ。

 相棒を再び手にし、興奮するその身体を自ら、押さえ付けた。

 態勢を整え、やつを睨む。けれどもやつは、その嘲笑するような表情を崩さない。


「はあ、はぁ」

「あぁ、アロケル。あんたは確かにやべーやつを送りこんできたよ。

 彼女のためなら暴走だって厭わない、やべえやつをな」


 肩の痛みが、引いていく。確かに血は、流れ出ているはずなのに。

 打ち付けられた痛みが嘘のように消え去っていく。まるで戦闘前に戻ったように。

 身体が、軽い。

 これなら、どんな敵でも穿てそうだ。


「あああぁ――ッ!」

「ちッ」


 やつはにこやかな表情を崩した。

 焦るあまり、めちゃくちゃに銃を乱射し、青銅の教会の到るところに銃弾が転がっていく。

 身体が軽いお陰で、自分に飛んで来た銃弾は全て防いだ。

 ……これが、自分の力。

 エリアスも認めた、感情を爆発させた時の――力。


「……っ!」


 やつは勢いよく教会の窓を体当たりでぶち破り、自分から遠のいていく。

 そんなこと、させるはずがない。


「あ、はは。余裕ねえかも」


 そうやつが愚痴を零した瞬間、剣に何かを切り裂いた手応えを感じた。


「あっぐ――ッ!」


 二丁の銃を構えながら、やつはよろめいた。

 膝を負傷したらしい。ズボンは剣のせいでぱっくりと斬れ、血がゆっくりと流れ出ている。


「は、はあ、くそ。アロケル、あんたの見立てに間違いはなかった……。

 当初の予定通り、俺が面倒を見てもいいんだろう?

 ――あはは」


 猪突猛進の自分に対し、やつは何度か銃弾を撃ち込んだ。

 どこを狙っているんだ、大きく的外れ、あちらこちらの木の幹に撃ち込む。

 周りの木々が銃撃乱射のせいで重心が支えられなくなり、倒れ込んできた。


 これくらいなら。

 倒れ込んでくる木の乱舞をかわすことに専念する。

 ――それが仇となったのか。


「……ぐああッ!」


 銃声と共に、膝に銃弾が撃ち込まれた。

 痛い、苦しい、こんな……はずじゃ。

 ……こんなに強い力を手に入れても、暴走していないはずのやつに、勝てないのか。

 つくづく、自分というやつは……。


 ――ガンッ。

 銃のグリップで頭を殴られ、意識が朦朧とする。

 ……なるほど、道理で、今まで誰も勝てなかったわけだ。

 ――こいつは、強い。さい、恐……理解、した。




「終わりだ坊主」

「――っ!」


 銃を構えるやつを相手に、伏せそうになる身体で飛び上がり剣を振るった。

 やつの銃が宙を舞い、どこか遠くの木の影に消えてしまった。


「ぐ――ッ!」


 銃が、俺の銃が、腕が!

 そんな悲嘆の声が聞こえてきた。

 どうやら、最後の一撃はやつにとって大打撃だったようだ。


「――死ぬ。この俺が、負ける……?」


 手負いの状態で、やつは片手で銃を撃ちながら少しずつ退いて行く。

 あんなに余裕そうな表情が、今では死ぬことすら喜ぶように、顔を歪めていた。

 ……笑って、いたのだ。

 口角を上げ、涙を流し、狂ったように息吐くような声で笑っていた。

 なにが、そんなにおかしいんだ。


 もはや動けそうにない身体に鞭を打ち、ジリジリと詰め寄った。

 剣を両手で構え、傷む足を引きずり、やつを、やつを――。


「だ、めだ」

「……」

「もう、終わりに、しよ」

「――っ」

「あはは、罪を犯した俺達に、地獄の制裁を!」


 ぼたぼた、片手を失ったやつの腕から、滝のように溢れる血液。

 その痛みを諸共せず、やつはまだ健在の片手で、銃弾を撃ち込んだ。

 自分に、ではない。

 ……自分の後ろにある、亀裂に、だ。


「あは、あはははは――」

「っあああ!」

「さようならだ、この世とも、俺を追い詰めた勇者とも、罪の意識からも!

 何もかも、さようならだあ……!」


 亀裂は銃弾の衝撃により、ぼろぼろと崩れ落ちていく。

 重い身体が、重力に負けて更に重くなっていく。

 下へ、下へと引っ張られる。


「今日は、祭りだあ――っ!」

「――ああぁッ!!」


 自分たちは、奈落の底へと消えていく。

 崖下へと、消えて、いく……。


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