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ヨウガシとトリフ

 今日の依頼は、ネコだった。よくここまで……と半ばあきれるくらい、依頼主は飼いネコの特徴を、こと細かにメモしてきていた。

「これで、私のかわいいトリフちゃんを召喚できる?」

 厚化粧のババアが一匹のネコのために大金をつんでいる。俺にとっては、ありがたいことだが、世の中ちょっと間違っている気もする。

「もちろんですよ! この洋画師ヨウガシに任せてください」

 その上着が、そもそも行方をくらましたネコの毛なんじゃないのか? という言葉を飲み込み、俺はサラサラと筆を動かす。


 洋画師──専用の紙とインクで動物をえがき、召喚させることができる魔力の持ち主をさす言葉だ。主に、俺のように生業なりわいにしている奴のことをさすことが多い。ちなみに、『洋画』と言うのは、海外から取り寄せている画材のことをさしている。


「まぁ! まさにトリフちゃんの生き写しだわ」

 ババアの狂喜は、狂気に近い。

「そうですか、そりゃあよかった」

 俺の依頼料はバカ高い。俺のところに来る客といえば、決まっているからだ。一般的な洋画師に断られた客しか来ない。客からすれば、俺は最後のとりでだ。──俺のところにこんな客が集まるようになったのは、いつのころからだったか。

でよ、『トリフ』!!」

 ニヤリと笑った俺の顔は、いつのころから下衆げすなものになったのだろう。


 ******


「ありがとう。じゃ、約束通りに、謝礼はこれで」

 ババアはそんな言葉を残して、『トリフ』を大事そうに抱えて行った。俺のところに残ったのは、いつしか見慣れてしまった大金。

「まいどあり~」

 覇気はきの抜けた自分の声が、そこはかとなく虚しい。


 ******


 なにを言っても、言い訳にしかならない。でも、こんな事態を引き起こすとは思わなかった。──『トリフ』は、ネコなんかじゃなかった。恐ろしいバケモノだった。至るところで、破壊をするようになっていた。

 それを知ってしまった今、このままでは、俺は──堕ちるところまで、堕ちてしまう。このまま『トリフ』を野放しにするほど、俺は堕ちてしまっていいのだろうか。


 洋画師が召喚した動物は、召喚した洋画師にしか消せない。それは、召喚された動物は、本能で知っている。『トリフ』が俺を見たら、真っ先に俺を殺すだろう。世界を、支配し尽くすために。


「ったく……いやな『世の摂理』だぜ」

 大金をせびって、なにが悪いと思って俺は洋画師を続けてきていた。むさぼってきていたんだ。金を。


 まれていたんだ。いつの間にか。──いいや、自分で招いた結果が、『これ』か。


 手当たり次第に、金をまき散らす。

 初めて大金を手にしたとき、同じことをしていた。それなのに、感情は、あのときとは正反対だ。今は、虚しすぎる。


「ハッ……どうせなら、最後にド派手なことをやってやろうじゃん」

『トリフ』に立ち向かうことで、清算していけるような気がした。


『俺』を取り戻す旅が、幕を開ける。


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