闇の解決人
私たち夫婦には、言えない秘密がある。
「これで手を打ってほしいんです」
それを解決したくて、私は闇の解決人と呼ばれる人物に接触を依頼した。
「話はわかった。実際に受け取るのは解決してからでいい」
騙されて当然くらいに思っていた。だから、先に金銭は渡すだろうと、要求されるだろうと思っていた。
──ものわかりが良すぎる。
なにも渡さないまま、こちらの要望は動くことになった。
不安がないわけではない。でも、このまま解決してくれるなら、それに越したことはない。
依頼から二週間。
再び闇の解決人と落ち合うことになった。日時と場所は、前回同様。
違う点はひとつ。今回は夫にも来てもらうことが条件だった。
夫婦で一緒に向かうのは、周囲の目が気になる。だから、待ち合わせ場所には一足先に夫に行ってもらった。
誰かに聞かれてはいけない話。そんな話を喫茶店やファミレスでできるわけがない。でも、ホテルには行きたくない。そんなわがままなこちらの要求に、相手が指定した場所はパチンコ屋だった。しかも、二階のスロットフロア。
パチンコ屋にはむかし付き合いで行ったことがある。それをきっかけに、はまってしまった過去も。
夫も同じ。──いいえ、夫の方がひどかった。だから、私たち夫婦にはあんな秘密が残ってしまった。
明るい店内に異常な音量の雑音。見慣れていた光景だからこそ、恐怖はない。
入り口を入って右側にある長い階段。二階がスロットフロアだ。徐々に暗くなっていく照明が思い出したくない過去も連れてくる。
二階に上がれば、前回と同じ光景が──広がっていなかった。
そこには悪趣味としか言えないようなオブジェの数々。黒い帽子をかぶり、鞭を持ったマネキンが三体。男性のマネキンは強固な裸体を誇るように、上半身を露わにしている。
そして、一体だけ全裸のマネキンも。そのマネキンは背中は丸まり、やせ細っている。
──これは、まるで指導者と奴隷!
私はフロアを見渡す。そこには、衝撃的な光景が広がっていた。
スタッフと思われる人たちは、鞭こそ持っていないが黒い帽子をかぶっていた。客としてきている人たちは──空気というものは恐ろしい。普通に服を着て遊戯している人は数人しかいない。上半身を着ていない人や下着姿の人が多数を占めていた。それは、男性に限らず女性も。
──そして、あのやせ細ったマネキンのような姿の人も。
動けなくなった私に声がかかる。──闇の解決人だ。
闇の解決人は私のとなりにくるなり、
「これで、すべて終わりです。さぁ、帰りましょうか」
と、上ってきた階段を下って行く。
──夫は、どこにいるのだろう。足を誰かつかまれたように、まったく動けない。
夫婦の秘密が解決したのだとしても、それよりも深く濃い闇を残した。
闇の解決人の要求は金銭ではなかったのかもしれない。