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【T-4】 戻れない

 クレームがきた。

 彼女が突然死んでしまったと。


 困った。

 正直に言ってしまえば、ルールに違反する。

 彼女は、彼を生かす道をつかもうと、同じところに戻りすぎた。

「戻ると、あなたの余命はわずかになってしまいます」

 わざわざ変声器を外して姿を現したというのに、

「構いません!」

 と、彼女は聞かなかった。

「これで……戻るのは最後になりますよ? 覚悟はありますか」

 何度も何度も同じ場所に戻って行った彼女だ。二度と戻れないという忠告は効いたのだろう。一瞬、彼女は声を飲みこんだ。それでも──。

「わかりました。これで最後でもいいんです。お願いします」

 違う未来を選びたいからタイムマシンの使用を望んだのだろうに、それで未来の時間がなくなるなんて、本末転倒ではないのか。

 しかし、私はそれを言わなかった。

「かしこまりました」

 私は再び奥へ戻ると、変声器をつける。

「ソレデハ、目ヲツブッテ戻リタイトキノコトヲ思イ出シテ下サイ」

 そうして、彼女は戻って行った。



 彼の余命も長くはない。

 二人とも戻り過ぎた。


「そうでしたか。突然死はどうしようもありません」

 変声器を外し、彼の前に出る。

 彼の目は見開かれたが、私の姿に驚いたわけではない。怒り、彼を表す言葉はそれが相当だろう。

 なんでだ、納得できない──それを繰り返す。

「何度戻っても、彼女は生きていたはずだ!」

 なのに、突然死など納得できないと。──言いたいことはわかる。

 彼には言えないが、同じところにまた戻ったところで、彼女の余命は尽きている。なんとか、ごまかして逃げ切らなくては。

「突然死です。何度も平気だったと言っても、また戻ったとき以前のように平気なままという保証はありません」

 意味がわからないと彼はののしる。

「タイムマシンを使ったのは、あなただけだと思いますか? 何人が、いえ、何十人、何百人、何千人……はたまたそれ以上の人たちが使ったとして……使う度にわずかでも変化が起きたら。何度も平気だった、それこそが偶然だったのかもしれません」

 あたかも見てきたかのように私は堂々と言う。はったりが効いたのか、彼は黙った。

「それに、です。あなたは何度も、そう、何度も何度も戻りました。このタイムマシンを使って。タイムマシンは一度の使用に余命を一年頂きます。あなたは、何年の余命を使いましたか? あなたの余命は、あとどのくらいあると思いますか?」

 彼の顔がハッとし、青ざめていく。

 ギャンブルと同じ感覚だったのだろう。もっと、もっといい結果を、望む結果をと夢中になって、大事なことを見失ってしまう。

「あなたの人生です。戻ることを無理に止めることは致しません。ですが、どうか有意義な余生を過ごして下さい」

 私は奥へと下がろうとした。そのとき、

「まだ、使うことはできますか?」

 彼はバカなことを言ってきた。

「はい。ただ、最後の一回になりますよ?」

 医師でもないのに、私は余命宣告をする。彼にとっては重い一言だったはずだ。


 彼は、彼女と同じような行動をした。

 声を飲みこんで、真剣な眼差しで私を見た。

「どうしても、彼女のいる……彼女といる時間に戻りたいんです」

 彼女がいなくては自分の時間など意味がない──震える声を押し殺し、彼は言った。

「かしこまりました」

 私は再び奥へ戻り、変声器をつける。

「ソレデハ、目ヲツブッテ戻リタイトキノコトヲ思イ出シテ下サイ」

 そうして、彼は過去へと戻った。


 彼は、あと一年と生きないだろう。

 彼自身、私の言葉でそれを悟ったはずだ。


 私はひとつ、訂正しなければならない。

 彼はバカなことを言ったと言ったが、彼はそこまでバカではなかったのかもしれない。


 彼は、きちんと彼女が生きている時間に戻って行った。


 今ごろ、プロポーズの指輪を持って、彼女に会いに行くのだろう。そして、彼女にプロポーズをするのだろう。

 決して、結婚するときはこないとわかっているまま。

 そうして、こう言う。

 新婚旅行の計画をしよう──と。


 新婚旅行の前に、彼の寿命は終わるのかもしれない。

 同じような時期に、彼女の寿命も終わるのかもしれない。


 けれど、ふたりは最後に一番幸せな時間を共に過ごす。

 最高の思い出を作る。



 彼にとっては、時間の再生だけかもしれない。

 それでも、最後の時間を使いたいと願った幸せなときだったと私は信じることにする。



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