爽快感
毎日生活していれば、順調な毎日の中にも落ち込む日くらいある。
人生は選択の連続。仕事でも私生活でも失敗はつきものだ。それこそ何十年と生きていれば昔の失敗も笑い話になり、小さな失敗にもめげなくなってくる。
ただ、それでも立ち直れないくらいの失敗をしてしまうこともある。
「はぁ」
無意識ででるため息。
リラックスできる空間だからこそかもしれないが、ため息はあまりつきたくないものだ。
「よお、よく来たな。まぁ、座れや」
誰だ?
四方を真っ白に囲まれた一畳ほどの空間に響いた謎の声。
──ここはトイレだ。誰もいるはずがない。
あるのは、目の前の便器だけ。
「まぁ、まぁ、話なら聞いてやる。ほら、座れや」
その、便器だ。
──今日は相当疲れたらしい。
「なんだ、仕事でなにかあったのか? まぁ、毎日色々とあるわな~」
重い腰を乗せると、便器は意気揚々と話し出す。
「特に、今にも逃げ出したいほど辛いことも山ほどあるわ~。よ~くわかるわ~」
便器に言われると、それはそうだろうと思ってしまう。
便器の宿命、それを背負えといわれたら逃げ出したくもなる。
「ただな~、自分のできることを精一杯やるしかないんだよな~。そう思うわ~。自分にしかできないことなんてないのかもしれんけど、それでもいい。できることをしていきゃ~いいんだわ~」
不思議な話だ。
便器に比べたら自分の現状なんて、なんともないように思えてくる。
「ありがとう。頑張ってみるよ」
立ちあがり、礼を言うと便器は手を振っているようだ。
「また、いつでもきぃ~や~」
爽快感は、格別なトイレだった。




