誕生日にはプレゼントを
今日で二十代とはさようならだ。
その印に、わたしにはしたいことがあった。
「お母さん、わたし三十歳になった」
「そうね、誕生日おめでとう」
二十歳で結婚して、わたしを産んだ母。
今のわたしの歳に、母には八歳のわたしがいた。──そう思うと、三十歳の母の方がよほど大人に思える。
「ありがとう」
わたしの毎日は充実している。
仕事は大変だけど、好きなものを昼に食べ、休日には友達と買い物や映画、食事を楽しむ。時には平日にだって。
わたしは、わたしの自由な時間を大いに楽しんでいる。
母は?
母は、そんな時間を目一杯楽しんだ?
「ありがとう、お母さん。わたしを……わたしに誕生日をくれて」
なにを渡そうか、本当に悩んだ。なにを選んだらきちんと感謝を伝えられるのか。感謝を伝えるプレゼントなんて、初めて選んだ。
でも、これでよかったみたい。
「これ……」
真ん丸になった母の目には、きらきら光るものがたまっている。
「うん。お母さんの結婚式からわたしの成人式までの写真。……親孝行もできずにごめんね」
「なに言ってるの」
結婚しろとは言わないけど、心配してくれてるだろうと思う。見守れなくなる日がくると、わたしの将来を案じて。
「あなたは、生きてくれているだけで親孝行よ」
うすい本を手に、このころはわたしに手がかかったとか、この時期はこういうことがうれしかったと母は言った。
その口から出る話は、わたしのことばかりだ。
これからは、きちんと自分の時間も過ごしてね、お母さん。
今日で二十代とはさようなら。
初めまして、三十代のわたし。