一話
*
「おはよー。」
朝。
私はいつも通り学校に行き、いつも通り挨拶をした。
あぁ、神様。
この退屈な日常はどうやったら非日常になるのですか?
「おーい、三神。」
三神。それは私の苗字。
三神とか言うくせして、神にかかわったことなんて今まで一度もないし、神を信じてもいない。
だって、この世界には神なんて存在していない。これは私が15年間生きてきて確信をもって言えるただ一つのことだ。
神なんて。
「三神、三神出雲!」
「うっるさい!」
そう、私は苗字だけじゃない。名前である出雲でさえ、神に関係しているのだ。
「うるさいってなんだよ。お前進路は決めたのかよ。」
さっきからしつこく声をかけてきていたのは、碓氷春樹。
「あー、進路ねぇ。」
何を隠そう幼馴染だ。
小さい頃から一緒にいて、いじめられてた春樹は私が守ってた。
それなのに。
「お前な、そろそろまじめに考えろよ。もう9月だぞ。」
「あ……あの!」
「ん?何か用?」
「えと、春樹君!
昼休み、花壇のところに来てくれないかな?」
「あー、うん、いいぜ。」
「あ、ありがとう!」
なんだこれ。
何でこいつはかわいい女の子にモテやがる。
私のモテキはきっと生まれた瞬間だ。そこで使い果たしてしまった。
「告白?」
厭味ったらしく聞く。
「多分な。」
苦笑いしながら春樹は答える。
「付き合うの?」
「別に。」
そう、コイツは誰に告白されても決して付き合わない。
理由は私でもわからない。
「付き合っちゃえばいいのに。」
私は何気なくその一言を漏らした。
が、
「は?」
春樹は予想外の反応を示した。
「だってさ、あの子、3組の子でしょ?
可愛いし、人気あるんじゃないの?」
私は心ではやばいと思いながらもへらへらといった。
「……出雲、それ本気で言ってる?」
「え?」
私は一瞬戸惑ったが、
「まぁね。」
とごまかした。
「あっそ。」
春樹はそれだけ言うと自分の席に戻ってしまった。
何に対してあんなにもイラついていたのか、私にはまったく理解できなかった。
「それは、あんたが悪いわね。」
午前中の授業にまったく集中できなかった私は、昼休み、こうして友達の高坂咲良と弁当を食べていた。
無愛想な私にとって唯一といっていいほどの友達。
「えー、私なんかした?」
今朝の春樹との一軒を相談していた。
「あんたほんと鈍感すぎ。
大体ね、春樹君見てたらすぐにわかるって。」
「何が?」
はぁー、と大きなため息を咲良につかれた。
私が口をとがらせていると、
きゃぁぁぁと外の方から女子の悲鳴が聞こえた。
「何々?」
咲良は興味深々そうに窓の外を見た。
「あちゃー。」
そして手を額に当てた。
「何してんの?」
「あんたがもたもたしてるからよ、
自業自得。」
咲良が指をさした先には、花壇。
そしてそのそばにいる春樹。
そのそばにいる朝の女の子、とその友達。
「春樹、またふったの?」
「その逆。」
逆ってことは、
「OKしたんだ。」
何か私の胸に大きな塊がのしかかったみたいだ。
「ま、あんたたちは運命なんだから、安心しなさい。」
「何が?」
運命。
そんなのこの世にはない、あってたまるか。
その日は、一言も春樹と会話をせず、
いつもなら一緒の帰り道も、
春樹はあの子とかえっていた。
隣に誰もいない。
春樹がいない。
そんな私の前を、一匹の黒猫が通った。
後ろには、春樹とあの子が夕焼けの中、私には見せない笑顔で笑って歩いてた。