第三十三話
これで鈴蘭回終わりです。いつもより文字数少なめでお送りいたします。
「どうしてそれを!?」
「春也君と麻奈さんの雰囲気がおかしかったので誰だって喧嘩したのだとすぐ気づきますわ。それにお二人の様子がどうしても気になってしまって……遠くでお二人の様子を拝見しておりました」
もしかして、ずっと感じていた視線の正体って鈴蘭だったの……?
度々感じたあの視線。あの視線が鈴蘭のものだとしたら鈴蘭の話に納得がいく。
「それに昨日の放課後、春也君とお会いしまして」
「えっ、春也に会ったの!?」
春也と会えたの!? って思ったけど、よくよく考えたら二人は幼馴染だもんね。そりゃあ会ってくれるか。
「えぇ、あの後どうしても気になってしまいまして。春也君に麻奈さんのお母様のことや秋夜君のことを改めて教えてもらいました」
「お母さんや秋夜のことを?」
「はい、春也君はおっしゃっていました。麻奈さんがお見舞いに行っても、麻奈さんのお母さまが拒絶するのは分かっていたと。秋夜君から家の事情を相談されていたそうなので、そんな予感がしたと。だから方っておけなかったとおっしゃってました」
「それでついて来てくれたのね……」
どうしてついて来てくれるのか気になっていたけど、そんなことがあったなんて……。ありがとう、春也。
「それに最近のお二人の様子がおかしいこともあって、聞いてみたのです。『もしかして麻奈さんと喧嘩したのでは』と指摘したら、『自分の短気な性格と家の事情でなかなか素直になれず仲直りしたくてもできない。だからと言って麻奈のことを本気で嫌いになった訳じゃないから、鈴蘭の気持ちには応えられない』とおっしゃっいました」
「うそ……そんな、そんなはずは」
鈴蘭の言葉がどうしても信じられなかった。
だって、あんなに話しかけても拒絶されるのに、あんなに俺も大っ嫌いと言ったのに。なのに。本気で嫌いになった訳じゃないって、どういうことなの?
訳が分からない感情が私の中をぐるぐる回ってかき乱した。
でも引っかかることはある。自分の短気な性格と家の事情でって言っていたらしいけど、どういうこと? 春也の家の事情? 何かあるってこと?
「これはあくまで憶測なのですが、春也君はわざと嫌われるように振舞っていらっしゃるんだと思います。何故そうするか理由までは不明ですけれど、彼は話しかけるなと言っている時こそ、本音は仲直りしたいと思っていらっしゃる方です。なのでそのまま気にせず話しかけ続けて下さればよろしいかと」
「どうしてそう思うの?」
私の問いかけに、鈴蘭は二コリと微笑んだ。先ほどの表情とは打って変わって、何か吹っ切れたような表情をしている。
「幼馴染ですから。なんとなくそう感じただけですわ。それに……」
「それに?」
「似た境遇を持っていらっしゃるあなたには、私のような監獄の人生ではなく、自由な道を歩んで欲しい。そう思ったんです。貴方にはそれが出来ますから」
私は思わず顔を歪ませた。涙がとめどなく溢れ、鼻水を啜る。鈴蘭から見たら私の顔はくしゃくしゃの顔に見えるだろう。
「どうして……!? どうしてそこまで私を気にかけてくれるの!?」
「放っておけなかったのですよ。母親の理想に沿って完璧な人生を歩むというのがどれほど難しいか身に染みて分かっているからこそ、麻奈さんのことは他人事のようには思えなかったのです」
ふぅ、と一呼吸おいてから、先ほどと変わらない笑顔を見せる鈴蘭。
「実は気が付いていたんです。春也君が誰を好きかを。彼は麻奈さんが好きなのではと気が付いた時から諦めなければいけなかった。でも諦めきれなかった。どうして彼女のことが好きなのだろうと疑問に思うこともありました。だから度々貴方を目撃するようになって、麻奈さんを観察するようになって思ったんです。正々堂々麻奈さんと向き合いたい。そうすればきちんと恋を終わらせることが出来る。そんな気がして勝負を挑ませてもらいました」
「そんな理由があったなんて……」
「まぁ、結果は散々な結果になって振られちゃいましたけれど。でもこれでやっと、新しい恋を始められることが出来そうです。これも麻奈さん、あなたのおかげです。ありがとうございます」
私は手の甲で涙を拭うと、私なりの精一杯の笑顔を見せた。
「ううん、こちらこそありがとう。鈴蘭さんや春也がいなかったら私はお母さんと向き合って本音を知ることもできなかったし、お母さんと笑いあうこともできなかった。鈴蘭さんがそう言ってくれるなら私、もう一度春也と向き合ってみることにする。私の知らない春也があるみたいし、今の私に出来ることをやってみるよ」
「えぇ、その意気ですわ。麻奈さん、頑張って下さい。今の麻奈さんなら、どんなことがあっても大丈夫ですわ。それと春也君に何があったのか、こちらでも調べてみますわ」
「ありがとう!」
鈴蘭の方でも調べてくれるならありがたい。春也のことで何かわかると良いんだけど……。
「お昼休みお呼びだてして申し訳ありません。お昼休みが終わる前に教室へ戻りましょう」
鈴蘭はそう言うなり颯爽と歩き始めた。私の横を通り過ぎた時、私の中で一つの思いが溢れていた。
このままでいいのか、と。
鈴蘭の話を聞いていてずっと考えていた。お母さんの教育方針で友達を作ることができないって、それってとても悲しいことだよね。私でさえ友達がいなかったら学校生活を楽しく過ごすことは出来なかったと思う。
なのに……鈴蘭はずっと一人で過ごしてきたんだよね。今なら分かる。どうして鈴蘭が私と勝負を申し込んだのか。本当の意味を。
私はその思いに応えたい!
私ならいつも通り喋れる。大丈夫、勇気を出して。
「待って! 鈴蘭さん!」
私の言葉が届いたのか、鈴蘭は足を止めて振り返ってくれる。
「麻奈さん? いかがなさいましたか?」
頑張れ私! 今の私はもう一人じゃないんだ。
「あのっ、もし良かったら! 私と、私とお友達になってくれませんか!?」
鈴蘭は「えっ……」と目を見開いてきょとんとしている。
「似たような境遇を持っているからこそ、分かり合える……そんな気がするんです。だから、鈴蘭さんが良ければ私と友達になりませんか?」
最初は意味わかっていなかったぽいけど、だんだん理解してくれたみたいで、私が言い終わるころには鈴蘭が涙目でこちらを見つめていた。
「まさか、お友達になりたいとおっしゃって下さる方が春也君以外にもいらっしゃるなんて。あの、こちらこそ、お友達になって……もらえませんか?」
私の答えは最初から決まっている。
「もちろん!! こちらこそ!!」
三河麻奈、梨子と花梨以外にもう一人、新しいお友達ができました。
まだまだ続きます。最後までお付き合いして貰えると嬉しいです。




