第三十一話
麻奈、春也と仲直り奮闘回です。そして今日から毎日18時投稿です。
喋りながら歩いたせいか、時刻は八時五分になっていた。二年三組の教室に入ると、春也の席には人だかりが集まっていて、春也の姿が一切見えない。昨日の今日だからか学校中に春也の転校が広まったみたいで、明らかに昨日の人だかりより多いような気がした。今も教室に人が集まっていて、春也がどれほど学校に影響があったのかが分かる。
そう思ったのは私だけじゃなかったみたいで。
「すごい人だかりですね……昨日より明らかに多くないですか?」
「うん、私も思う。とりあえず遠回りして自分の席に行くしかないかな」
「そうですね、あれだけの人だかりでは遠回りするしかないですね」
私と梨子はそれぞれ遠回りしながら自分の席に着く。
花梨と別れてから、梨子と一緒に教室に来たのはいいけど……春也の周りには大勢の人だかり。姿は見えないけれど、昨日の今日だからきっとまだ怒っているはず。仲直りするためも『言い過ぎてごめんなさい』って言わなきゃ。アドバイスしてくれた二人の為にも。
遡ること、十分前。
廊下で前のめりに立つ花梨。
「マナ、いい!? よく聞いてね。今の春也君は険悪ムードだから、なんで言ってしまったのかきちんと素直に胸の内を全部話してごめんなさいって言うこと!」
梨子が眼鏡をくいっとあげる。
「一度駄目だったら、何日か間を置いてから再度話しかけることも視野に入れておいた方が良さそうです。今回の春也君は今までにない雰囲気ですから、細心の注意が必要かと」
二人の姿を思い浮かべながら、決意する。よし、頑張ってみよう。春也と仲直りするんだ。
私は力強く頷き、前を見据えた。私の視線の先には春也の席。いつもなら春也の姿が見えるはずだけど、集まった生徒達に囲まれ、姿は見えず。
頑張れ、私! 昨日のことを謝って仲直りするんだ!
私は椅子から立ち上がり、春也の席に向かう。人だかりを描き分けながら春也の席の横に立った。
「あ、あの……春也」
精一杯声を出して話しかけてみるけど反応がない。ここで怯むな、仲直りするんでしょ、私!
「春也、昨日は……」
その瞬間、春也がキッと私を睨みつけた。私は思わずビクッと震えあがってしまった。
「俺に話しかけんじゃねぇよ」
ぽつりと一言呟いたまま、春也は視線を逸らした。一瞬だけ目が合ったけど、明らかに怒っていたような気がした。
やっぱり怒っているよね……どうしよう。怖い。
私は思わず後ずさりしそうになる。
いや、怖がってどうするの。ここで怖気づいても仕方がないじゃない。謝らないと……!
「あ、あの……謝り、たくて……」
頑張って声を振り絞ったけど、これ以上声が出なかった。
私の言葉に対し、春也が舌打ちしながら「ウゼェ……」と言った。
「春也君、ちょっといいですか?」
という声が聞こえてきたので辺りを見回すと、いつの間にか梨子が私の隣に立っていた。
「おせっかいかもしれないですが、もう一度麻奈と話し合ってもらえませんか? 麻奈は春也君を困らせたくて言った訳じゃないんです……」
困ったような梨子の顔が目に入った。私の為に……梨子、ありがとう。
「あ、あの春也……お願いします!」
再び春也と目が合った時、今まで感じたことのない恐怖が襲い掛かる。
「俺とそいつは赤の他人だ。話し合う気はない」
春也は歯噛みしながら握り拳を作った。
「ていうか、迷惑だからさ、自分の席に戻ってくれね?」
春也が言った瞬間、周りにいる生徒達が嘲笑うかのようにクスクスと馬鹿にした笑いをこぼした。明らかに私と梨子を見下した目で見ているのが分かってしまった。
心配になって梨子を見ると、梨子が横に首を振って「今は無理」と合図を送ってくれる。それに対し、私は頷いて了承するしかなかった。
*
なんやかんやで朝のホームルームが終わった。私は思わず深いため息を吐く。
気力が無くなり、机に突っ伏す。周りは早くも一限目の授業の準備を始めているというのに、私はなかなか準備する気になれなかった。それほどまでに春也のことが私の中で重くのしかかっている。
今までの態度と違うから簡単に仲直りできそうにないと思っていたけど、まさかあそこまで否定されるなんて……。
私の視線の先には、斜め前の春也の席。いつもよく見る後ろ姿なのにどこか違って見える。
もう、無理なのかな……今までの関係にはもう、戻れないのかな……。
その時、誰かが近づく足音と同時に、「麻奈」と名前を呼ぶ声。体を起こして見上げると、見慣れた梨子の姿があった。
「麻奈……大丈夫ですか? 随分顔色が悪いようですけど……」
私は「梨子……」と呟くと、首を横に振った。
「大丈夫じゃないかも。今回ばかりは関係修復不可能かもしれない」
「麻奈が諦めてどうするんです? 春也君に『ごめんなさい』と言うんじゃなかったんですか? こんな中途半端なところで諦めちゃ駄目ですよ」
梨子の言葉が身に染みる。確かにそうだ。ごめんなさいを言うと決めたんだからきちんと仲直りしなきゃ。
「そうだね……やれるだけやってみるよ」
私は笑顔を作って見せた。私の笑顔に、梨子は不安そうな表情で私を見つめていた。
*
放課後になり、時刻は十五時三十分。教室に残っている同級生達は、友人と談笑したり、帰宅の準備をしたりしている。梨子は部活のマネージャーの仕事があるから早々に教室から出て行ってしまった。
帰る準備をしなくちゃいけないのに、なかなか思うように進まない。春也にもう一回話しかけられたらいいなと思っていたけど、気が付いたら姿が見えなくて教室にはもう既にいなかった。
昼休みのことを思い出し、ため息を吐く。
給食を食べ終わってしばらくしてからもう一度挑戦したけど……見事に惨敗だった。
それは昼休みでの出来事。
私は給食を食べ終わり、慌てて食器が乗ったトレーを片づけた。これも春也に話しかけるため。肝心の春也は既に食べ終わり、食器も片づけて自分の席に座っていた。
ごめんなさいが言えるまで諦めない。頑張れ、私!
私は「よし!」と決意し、勇気を振り絞って春也の席まで近寄った。
「あ、あの……春也」
ここまで言いかけて、春也の雰囲気に圧倒されて言葉が続かなかった。分かっているのに。
私の声掛けに反応はしてくれたけど、私をチラ見しただけ。何も喋ってはくれない。突然、椅子から立ち上がったと思ったら、椅子を直して、スタスタと歩く。
「あっ、春也……!」
春也はそのまま教室を出て行ってしまう。私はがっくり肩を落とした。
明らかに無視されたような気がする。私と関わりたくないのかも。梨子の言う通り、日を改めてから声をかけた方がいいのかもしれない。今日は諦めて帰ろう。
私は椅子から立ち上がる。机の上に置いた鞄を手に持つと、椅子を机に入れた。
それに今日は私が当番だから急いで帰らないと、遅れたりしたらお腹を空かせた秋夜が『姉ちゃん、ご飯まだなの?』って愚痴こぼしながら急かすだろうから。
教室から出た時。ほんの一瞬だったけど、違和感を感じた。この間も感じた、誰かに見られているような感覚。
あれ? やっぱり誰かに見られてる? でも……。
周囲を見回してみるけど、誰が視線を送っているかなんて分からない。
視線の相手も、春也との仲直りも、どちらも気になるけど……今は帰って夕飯を作らないと。
私は下駄箱に向かうため、前へと進んだ。
まだまだ続くよ。お楽しみに!




