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第三十話

ご無沙汰しております。久しぶりの投稿です。

これから定期的に投稿していきますのでよろしくお願いいたします。


 あれから、どれくらい経っただろう。


 実際はどれほど経過したか分からないけれど、体感一時間以上経過しているような錯覚に陥っていた。屋上の床にへたり込んだまま体が硬直して動かない。金縛りに陥ったかのように身動きが取れず、僅かに体が震えた。


 どうしてこんなことになったの? 私はただ、春也の力になりたかっただけなのに。


 私の中で後悔の波は収まらず、津波となって私をおおった。屋上に誰もいないのが功を奏した。こんなみっともない姿、誰にも見られたくなかったから。

 沈み始めていく太陽の光を浴びながら、グラウンドで部活を続けている生徒たちの声が響く。でも私の頭の中には入ってこない。

 春也と大喧嘩した衝動しょうどうで、今になって涙が押し寄せる。あの時とは桁違いの涙。グスッと鼻水をすすり、両手に拳を作ると力強く握った。自然と握る力が強くなる。


 あそこまで怒った春也を初めて見た。どうしよう、本気で怒らせちゃった。怒らせるつもりなかったのに……どうしてああなっちゃたんだろう。嫌いだなんて言うつもりなかった。自分の気持ちを伝えたかっただけなのに。

 また私のせいで……。


 私は涙を片手で拭い、ふらつきながらゆっくりと立ち上がった。

 二回目の屋上でも同じような口喧嘩になってしまうなんて。同じなようで同じじゃない。

 あの時よりも、口論が激しかった。ため息を吐くと、先ほどの出来事が脳内で再生され始めた。




 今でも思い出す。春也の怒鳴り声と冷たい視線が突き刺さる。

「ウゼェんだよ、そういうの! 俺がいつ、助けて欲しいと言ったか!? 行ってねぇだろ! 俺のこと何も知らないクセして知ったような口聞くんじゃねぇよ!」




「もう、駄目なのかもしれない、仲直りは……」


 声が震えた。私の中で鼓動がどくりと大きな音を立てる。同時に嫌な汗がじわりと流れていく。


「いや、あの時もなんとかなったんだ。今回も何とかなるかも……」


 私はよろめきながらも一歩ずつ歩み始める。一歩一歩の足取りが重い。数歩歩いたところで立ち止まった。


「でも、仲直りできるわけじゃないし……仲直りできなかったら、どうしよう」


 考えを吹き飛ばすように、首を横に振った。


「駄目、全然駄目。考えがまとまらない。どうしても悪い方向に考えちゃう。春也の事も気になるけど、今は私がやるべきことをやらなくちゃ」


 今日の夕飯の当番は私だ、何を作ろう。つたない思考をめぐらせ、ネガティブ思考をそらすことが精一杯。

 私は一人、屋上を後にするしかなかった。



      *



 日付が変わり、次の日になった。二月十七日の今日はバレンタインから数えて三日も経過しているからか、バレンタインの話題は減っている。ようやく落ち着いてきたみたい。

 二年生校舎の一階にある二年二組の下駄箱前で私は足を止める。朝の七時四十五分に学校へ到着した瞬間、体がぶるっと身震いした。冬真っ只中の二月中旬だからか、寒さは衰えず肌寒さを感じずにはいられない。

 私は何度目かのため息を吐いた。何回ため息ついたかなんて殆ど覚えていない。


「…………はぁ」


 あれから何度も考えたけど結局どうすればいいのか思いつかなかった。やっぱり私の行動は間違っていたの? 春也にとって私ってどういう存在? ただの同級生? いつも口喧嘩ばかりする女の子? いろんなことが頭に浮んで昨日は眠れなかった。


「早めに登校すれば春也に会えるかもって思ったけど……」


 ひとまず二年二組の下駄箱を見回してみる。

 春也の下駄箱を確認してみるけど、上履きのままだった。登校していないのは明らかだ。


「まだ、か……」


 いつも早朝に登校しているから、この時間に来れば会えるかもって考えていたけど……昨日から上手くいかないな。もしかしたら、引っ越しの準備とかあるのかも。春也が登校したら言い過ぎたこと謝ろう。


「マ~ナ!」と、花梨の声が背後から聞こえたと思ったら、後ろから抱きつかれる。


「おっはよ~~~!!」


 耳元で大音量の挨拶。私は思わず大声を出した。


「わっ! びっくりした!」


 振り向くと、花梨が屈託のない笑顔で出迎えてくれる。花梨の笑顔を見ていると、荒れ狂っていた心が癒されていく。


「えへへ、驚くかな~と思って。びっくりした?」

「そりゃあ、びっくりしたよ。おはよう、花梨」


 私が挨拶した瞬間、花梨は不思議そうな表情で首を傾げる。どうしたんだろう。


「ん~? 今日のマナ、テンション低いよね? マナが挨拶する時、いつもより若干声のトーンが低くなってたよ」


 一瞬ぎくりとしたけど、「なんでもないよ」と笑顔をみせた。


「い、いつも通りだよ?」


 私の言葉に、花梨がジト目で私をガン見してくる。ううっ、どうしよう。この様子だと、花梨のことだから感づいている。花梨には隠し通すのは無理そう。


「もしかしなくても、春也君と何か……あったでしょ?」

「……何でも、ないよ」


 思わず視線を逸らしてしまう。けど花梨には意味なかったみたいで、両手で頬を覆われたかと思ったら強制的に視線を戻されてしまった。その時、ムッと膨れ上がったな表情で睨む花梨とバチッと目が合う。


「マナの嘘つき!」


 花梨にそう叫ばれ、私は思わずビクッと反応してしまった。


「マナが落ち込む時って大体春也君絡みだもん! どうせまた喧嘩したんでしょ!」

「……ど、どうしてそう思うの?」

「だってマナが視線を逸らす時は春也君と喧嘩している時ばっかりだし! 昨日まで元気だった親友が次の日になって落ち込んでいたら、何かあったって思うじゃない! 何があったの! 何があったか話しなさい! 悩みなら花梨が聞くから!」


 私はハッと気が付く。何を一人で抱え込もうとしていたんだろう。恐れる必要なんてないじゃないか。


「花梨、ありがとう……」


 昨日の放課後なにがあったのか、「実はね……」と話を切り出して花梨に説明した。私が説明している間、花梨は「うん、うん」と頷きながら、腕を組んで話を聞いてくれた。でもなんで腕組んでいるだろう……。


「ということなの……」


 私が事の顛末を話し終えると、花梨からキッと睨まれてしまった。怖い! 何、何!?


「今回のは春也君が悪い! 流石に言い過ぎだよ!」

「か、花梨?」

「でも大っ嫌いは言っちゃ駄目でしょ! 何のために今まで努力したのか分からなくなったよ! これじゃあ、全部水の泡じゃない!」


 花梨全力の説教に対して、私は蹲りながら「う……すみません」と謝ることしか出来なかった。この状態の花梨に言い訳は一切通用しない。率直に謝るしか方法がないのよね……。


「言い過ぎたと思ったらすぐに謝る! 仲直りの鉄則だよ!」


 それが出来たら苦労しないんだよ、花梨。何回やっても駄目だったのよ。

 何回話しかけても避けられるから困っているのに。どうしたらいいんだろう。


「朝から大声出して何事ですか……」


 聴き慣れた声が聞こえてきたので、私と花梨が同時に振り返ると呆れ顔で立っている梨子の姿があった。外靴を履いているから、私と同様、たった今登校してきたばかりみたい。


「下駄箱をなんだと思っているんですか、あなた方は……」


 梨子の言葉などをお構いなしに、駆け寄っていく花梨。


「聞いて、聞いて、梨子! マナがまた春也君と喧嘩したんだって!」


 梨子はその言葉を耳にして、私に目を向ける。


「えっ、喧嘩? 麻奈、あの後何かあったんですか?」


 私は気まずくなってしまい、「う、うん……」と小さく頷いた。

 梨子は私をじっと見て、ため息を吐く。


「仕方がありませんね。ここだと他の生徒の邪魔になりますから、歩きながら話しませんか?」

「賛成! ほら、マナ! 早く履き替えて、履き替えて!」

「分かったからちょっと待って!」


 私は花梨に急かされ、二年三組の下駄箱に向かう。外靴を脱いだら上履きと入れ替えた。上履きに履き替えると、履き替え終わった梨子と、最初から上履きを履いている花梨の元に駆け付けた。


「お待たせ」

「はぁ、花梨。貴方っていう人は……麻奈を急かしてどうするんですか……」

「あはは……私は気にしてないから、行こうか。歩きながら話すから」


 私は二人と共に歩き始めた。



      *



 私は今、二年生校舎の三階廊下にいる。あと少しで二年三組の教室前に到着しそうな距離。廊下はそれほど人はいなくて、まばらだった。


 移動している間、梨子と花梨に昨日のことを話したの。二人とも、親身になって聞いてくれた。


 梨子が「なるほど」と言いながら何度も頷いている。


「そんなことがあったんですか」

「うん、また言い過ぎちゃって……」


 私の話に、梨子は首を傾げた。


「それにしても、そこまで怒鳴りつけるなんて春也君にしては珍しいですね。そこまで怒鳴ったところを見たことがないからかもしれないですが……」

「やっぱり春也君、引っ越し以外で何かあったんだよ!」


 謎に両腕を上下にぶんぶん振っている花梨。


 確かに、それはありそうな気がする。春也のあそこまで怒鳴った姿初めて見たけど、思いつめたような表情してた。きっと何かあるんだ。


「引っ越し以外で、ですか」


 ふむ、と考え込む梨子。


 ――あれ?

 私は思わず振り返り、首を傾げてしまった。


「麻奈、どうかしましたか?」

「今、誰かに見られていたような」


 確かに感じた。誰かに見られているような、そんな視線を。


「ここには生徒が周りにちらほらいるからね~。マナの気のせいじゃないかな~」

「花梨の言う通りです。ここには生徒が何人もいらっしゃいますし、いちいち視線を気にしていたらキリがないのでは?」

「そうだよ、今はマナが春也君と仲直りできるかどうかが大事だよ!」


 二人の言う通りだ。誰かの視線を感じたところでここは学校だし、誰が見ていたなんて気にしていても仕方がないよね。それに生徒の誰かと視線が合うなんていくらでもあるだろうし……今は春也と仲直りできるか考えないと。


「そうだね、二人ともありがとう」


 私は気のせいだと決めつけ、(わず)かな不安を胸の奥底に押し込めた。

さて麻奈は春也と仲直りできるのか、乞うご期待!

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― 新着の感想 ―
そうだよね。 さすがに怒鳴るのはね……大嫌いと反射的に言っちゃう人もいますよこれは。 思春期男子だからかねぇ。 分からんけど仲直りしてほしいぜ。
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