魚泥棒
紅桜です。
この小説は私が書きました。
ほのぼのとした気持ちになっていただけたら嬉しいです。
「だから知らないって・・・。」
「だってお前以外あり得ねぇじゃん。」
「でも知らないんだって。」
俺たちはなんとも不毛な言い争いを続けている。
その原因は・・・焼き魚、一匹。
こいつーー裕也が席をたった僅かな間に弁当に入っていた焼き魚がなくなったというのだ。
・・・知らん。
確かに俺はその弁当の目の前にいたかもしれない。だが正直本当に知らないのだ。何故か、それは携帯ゲームに夢中になっていたからだ。自慢じゃないが、俺の集中力はすごい。趣味に限っては。
よって、俺は知らない。第一、本当に食べていれば、骨を綺麗に残し、弁当に戻した上で悪びれずにカミングアウトする。
俺は相手を苛立たせる悪戯じゃなくて、呆れさせる悪戯の方が好きだ。
言い争いはまだ続いているが、視界の端にちらりと動く物があった気がして、そちらに目をやると、
くぁーっとなんとも気持ち良さそうに猫があくびをしていた。体を丸め、すやすやと寝始めたその姿に眠気が込み上がってくる。ふぁーとあくびに涙が浮かびかけた目で裕也をみると、同じくあくびをしていた。しばし、目が合い、数回瞬きをすると、2人して苦笑した。
「なんか、もういっか。」
「裕也かそーゆーなら。」
焼き魚がどうなんてのは結局、春の暖かい陽気と猫に誘われた睡眠へと消えていき、俺らはそのまま午後の授業をサボったのだった。