車窓の女
初めての投稿です。
余りにも拙く文章と呼ぶのも厚かましいくらいのものです。
暗いです。
でも、こんな恋もあるんです。多分。
私はタクシーの中にいた。
田舎の夜が車窓を覗き込んでは、後ろへ飛びすさっていく。
海を目指していた。とにかく、海が見たかった。
腹の底でまだ、グラグラと鉛が煮え立った名残があった。飲み込んだ言葉が胸の辺りでジリジリと焦げていた。
自分はいつから、こんなにも言葉を飲み込むようになってしまったのだろう。思うことは口に出せず、かといってするりと飲み下すこともできず喉元でビリビリと暴れながら胸を通って腹の底で鉛の重さと溶岩の熱を持つ。
胸が灼ける様だった。
悔しい。
ただただひたすらに悔しくて、悲しくて、情けなかった。
─海が見たい。
喉の渇きを癒す水を求めるように、足は自然と駅に向かっていた。
─海に会いに行こう。
ふいに、携帯電話が着信を知らせるメロディを奏でた。
着信は友人からだった。唐突に授業を欠席した私をしきりに心配してくれた。
一人で夜の海を目指している。と言った私に、半分説得するような口調で何があったのかと問いかけてくる。
「大したことじゃないの。ただ、疲れちゃったから休みたいだけ。大丈夫。死のうだなんて思ってないよ。心配してくれて、ありがとう。」
彼女は、それでもどこか釈然としない雰囲気を声の端に滲ませながらも、また週明けにと通話を切った。
なんとも言えない疲労感があった。
更に深くシートに体を預けながら、久方ぶりに聞いた声を思い出していた。
─夜の海が見たい。
そう想ったのとほぼ同時に、
─彼の声が聞きたい。
と思っていた。 いや、頭じゃないどこかで私がそう叫んでいた。
自分から切り出した別れ。
もう一度。と言ってくれた貴方に、心にもない言葉を投げつけた。
恨まれていても、憎まれていても、当然だ。 余りにも身勝手な自分に吐き気がするほど嫌悪感を覚えた。
それでも、指は携帯電話のボタンを押していた。なんども押して、そらんじてしまった愛しい数列。
いくらなんでも、番号は変わっているかも。 私だとわかった瞬間に切られてしまうかも。 恨み言を連ねて呪言を投げつけられるかも。 …むしろ、その方がよかったかもしれない。
呼び出し音が鳴った─番号は変わっていない。 心臓がひとつ高く鳴った。
コール音が止んだ─ 出た。
「─…もしもし?」
一気に愛しさが溢れた。涙が出そうだった。
私は海が見たいこと、これからそちらに向かうこと、泊まれる宿の心当たりがあれば教えて欲しいことを彼に告げた。
虫のよい話だ。手前勝手もいいところ。なんて厚顔無恥な女だろう。
彼は電話の相手が私であることに多少、驚いたようだったがひとつ心当たりがあると言ってくれた。駅まで着けたら迎えにいくと。
瞼の端に涙が膨らんでいくのが自分でも分かった。胸が躍るのを止められなかった。 と、同時に自分への嫌悪感と彼への罪悪感から、腹の底では鉛がより一層重く熱くなった。
電車に乗り、中間地点の駅についた。そこからタクシーに乗り換えて彼のいる海を目指した。
悲しかった。
彼が私を責めてくれなかったことが。
彼が私を拒絶してくれなかったことが。
希望を持ってしまう自分の浅ましさが。
両親への嘘が重なっていくことが。
でも、それ以上に、嬉しかった。幸せだった。
彼に、会える。
声が、聞ける。
切ないくらいに彼が恋しかった。
ずっとずっと愛しくて仕方がなかった。
微笑みかけてもらえなくても、抱き締めてもらえなくても、彼の側に居たかった。
喜びと、悲しみと、怒りと、罪悪感と、期待と不安で胸も頭も爆発してしまいそうだった。
早く、早く、彼に会いたくて焦る気持ちを落ち着けるため、また夜を眺めた。 車窓に私の顔が映っていた。
次の瞬間に泣き出すのか、歓声をあげるのかよく解らない顔をした、ただの女がそこにいた。
車窓の女がどんな顔をするのか暫く眺めていると、女は口角を上げて笑った。 嬉しさからか、絶望からか、泣き出しそうな顔で笑った。
─なんて業の深い女だろう。
泣き笑いの女を見つめながらぼんやりと思った。
車窓の女に、心の中でそっと言い聞かせた。
「彼からどんな非難を浴びせられても、全てを甘んじて受け入れるんだよ。私はそれだけのことをしたのだから。」
やがて、周囲の景色は少しずつ街の気配を強めていった。目的地はもう間近だと私は悟る。
心臓は一層爆発しそうに騒ぎ立て、心から彼を求めた。
海が近い。
夜の中で光すら飲み込み、ゆったりと横たわる海。 潮騒を響かせる闇の湿った静けさを感じた。
湿った闇の中で、自分を解放しよう。
飲み込んできた言葉を吐き出そう。
例え、それが空を掻いて闇に飲み込まれても、全てをさらけ出そう。
なるようになれ。
私は、彼を愛している。
車窓の女にそっと、決意表明をした。
理屈じゃなく人を好きになったとき、どんなに自分を説得してもそれは、言い訳にしかならないなぁと感じて書いた作品です。
衝動を押さえ込んでばかりでは、自分で自分を殺していくばかりなんです。それは、すごく、お腹が空くよりも、辛いんです。
そんな自分勝手な一人言を誰かに伝えたくて書きました。
雑な文章で申し訳ありませんでした。