小話03
しとしと、しとしと。
少し物悲しくて、静かな雨音。
私は嫌いじゃない。
傘にあたる雨音はとても強く、強く。
「涼華、帰らねーの?」
誰もいなくなったかのごとく静かな学校。
靴箱の出入り口に傘をもって佇むその手にはきちんと傘は握られているのに。
「あ、武藤君」
振り返った涼華は泣いてるのかと思った。
また、何かあったのかと思った。
自分の知らないところで。
怖いことでもあったのかと。
悲しいことでもあったのか。
「帰らねーの」
もう一度同じ言葉を発してみる。
「んー、帰るよ」
少し、怖かった、涼華は今ここに居るのに。
どこか遠くを見ているようで。
「…涼華…?」
傘を開いて一歩外に出たまま足を止めていた。
「んー…雨の日はさ、忘れちゃいけないんだよねー…
きちんと目で見て残しておかないとね…」
俺は、知らない。
涼華が何を思っているか。
聞いてみたいと思う。
だけど、俺はまだ聞けるような立場じゃない。
俺の知らない涼華を薺と葛葉は知ってる。
あの二人は雨の日は涼華を一人にする。
「いつか…話してもらえるか」
二人で足を進める。
「…話すようなことでもないよ」
俺はまだ、そこまで近づけてないのだろう。
いつか、いつの日にかそれを聞けるようになるのだろうか。
「武藤君、帰ろうか」
ごめんね。と。
なにに対しての謝罪なのか。
「ああ」
雨の日は悲しい。
辛い。
悔しい。
はやく、あめなんかあがってしまえばいい。
そう思うことしか出来ない自分が一番悔しかった。