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記憶喪失  作者: 素敵な三人組
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病院

目を開けると、真白い天井が見えた。眠りすぎた朝のように、頭の中が、ぐるぐる回り、非常に不快感のある目覚めであった。とても、気持ちの悪い匂いがする。病院の匂いである。どうも、ここは、病院の中であるようだった。「分かる?洋一、私の事わかる?」突然、私の耳元で、女性の声がした。声のした方へ、首を曲げてみると、見知らぬ女性がそこに立っていた。「分かりません。」私の言葉を聞くと、彼女は驚いた顔をして、「私が、分からないの?」と言った。彼女の顔を見ても何も思い出せない。それどころか、此処が何処なのかも、わからない。そもそも、自分が、誰なのかも分からない。私は今、がっつり、記憶喪失であった。「すいません。わかりません。というより、何も思い出せません。」「あら、いやだ。どうしましょう。」その時、私の目の前の、ドアが開き、白衣を着た、医者らしき男が、はいってきた。彼は、私を見るなり、「目が覚めたようだね、君は、もう、2週間も寝続けていたのだよ。」といった。すると、隣にいた、見知らぬ女性が、医者風の男に、「記憶が、無いようなのです。」と告げた。「あれだけの事故に、あったんだから、記憶喪失にもなるかもしれないね。まあ、そのうち、治るでしょう。」と、医者は無責任なことを言う。「隣にいるのは、あなたの奥さんですよ。」と医者が言う。そうか、私には、妻がいるのか。「実際、記憶喪失を治すことは、私にはできないね。元気になったら、退院しなさい。」と、医者はそっけない。そして、あっけなく私は退院するのである。彼女に誘導されながら、僕は、「僕の家」に着いた。瓦屋根の和風の家である。立派な家である。「これが、僕の家なのですか?」「そう、あなたが、建てた家よ」「僕は、お金には困ってないのですか?」。その、言葉を聞くと、彼女は、突然立ち止まり、急に泣き出した。「どうかしたのですか?」と尋ねてみた。しかし、彼女は何事も無かったかのように、「いえ、なんでもないのです。」と言った。家の中に入ると、すぐに彼女は私にアルバムを見せてきた。「ほら、ここに、あなたがいるでしょう。」。確かに、そこには、先程、病院のトイレの鏡で見た私がいた。しかし、何故か何も思い出せない。それどころか、何も感じない。知らないひとの写真を見せられたみたいだ。ふと窓を見ると、もう日が暮れている。私の視線の先を見て、「もう、こんな時間になっちゃった。」と彼女が言う。「ちょっと、買い出しに行ってくるね。あなたは、ここで、アルバムを見ていて。」そう言うと、彼女は出ていき、私一人ぼっちになった。

 しばらく、窓の外を眺めていた。窓の外で吹き荒れる風の音を聞きながら、僕は何も考えていなかった。まるで、見知らぬ街で迷子になってしまった子供のような気分であった。

とにかく、ブルーな気分であった。「僕の家」なはずなのに、懐かしい気分がしない。

そういえば、先程の彼女の涙は一体何だったのだろう。私が記憶喪失になったことが、急に悲しくなって泣いたのだろうか。しかし、彼女は僕の言葉に反応して、泣いたような気がする。そんな事を風の音を聞きながら、ぼんやりと、考えていた。その時、突然電話の音が静寂を乱す。「もしもし、そちら飯倉さんのお宅ですか?」と電話の先で言っている。その苗字は「僕の家」の前にあったものだ。おそらく、僕は飯倉洋一という人間なのだろう。「はい、そうです。」と僕が言うと、しばらくの間、電話の相手は沈黙して、突然電話は切れた。一体何なんだろうと思いながら、電話の前で立ち止まっていると、また電話が鳴る。「もしもし、飯倉さんのお宅ですか?」とさっきと同じ声がする。「はいそうです」「飯倉君か?」「はいそうです」「久々だから、一瞬違う人かと思って電話を切ってしまったよ。」「どちら様ですか?」「ぼくの声を聞いてわからないかい?まあ、ぼくもそうだったから仕方ないか。深津だよ、高校の同級生の。」「すいません、実はいま事情があって、よくわからないのです。」「おい、妙によそよそしいじゃないか。どういうことだ。」「実は信じてもらえないかもしれませんが、事故にあい、記憶をなくしてしまったんです。」「本当かい。だからよそよそしい印象をうけるのだね。」「そうかもしれません」「しかし、どちらにせよ。今日君に電話したのは、意味あることだぜ。今度、同窓会をやるんだ。」「なるほど。」「きっと、何か思い出すきっかけになるよ。」そんなことを話して電話は切れた。しばらくすると、彼女も帰ってきた。先程の出来事を話すと、少なからず彼女は動揺したように見えた。妙に青ざめた顔をしている。何故だろう。しかし、あくまでも彼女は「いいじゃない。きっと記憶が戻るはず。いつなの、その同窓会」「明日みたいだよ。」「ずっ、ずいぶん急ね」確かに、急である。「もしかして明日特別な用事でもあるのですか?」「そっ、そう。そうなの、明日は私と一緒に映画を見に行く予定だったの。」「しかし、それなら、別の日でも良いじゃありませんか。それとも、もうすでにチケットを買ってしまったのですか。」「いえ、そんなことはないんだけど。でも、私どうしても明日行きたいの。ねえ、お願いだから明日は同窓会に行かないで、一緒に映画を見に行かない。」何故、彼女は映画に行きたがるのだろう。というより、僕を同窓会に行かせたくないような気がする。解せない。しかし、彼女も少なからず、私が記憶をなくしているという状況に動揺しているのかもしれない。何故か、記憶をなくした僕自身は冷静であった。「それとも、明日は何か特別な日なのですか」「・・・いえ、そんな日でもない。もういいわよ。行って来たらいいじゃない。」何故かイライラしているようだ。僕は、それ以上詮索しなかった。しばらく沈黙の時が流れ、すっと彼女は立ち上がると「料理作るね。」と言って、台所に行ってしまった。居間で私はぼんやりとしていたが、なんだかトイレにいきたくなってきた。「すいません。トイレはどこですか。」「えーと、ごめんなさい。今、手が離せないの自分で探して。」仕方なく私はトイレを探す。探すと言っても、それはすぐに見つかった。真新しいトイレである。トイレットペーパーが無い。「トイレットペーパーが無いんですけど。」と大声で台所の彼女に言った。返事がない。きこえなかったんだろうか?仕方なく居間に戻ると、トイレットペーパーがある。どうやら、先程の買い物で買ってきたのだろう。僕の小トラブルは解決した。用を済ませると、僕は台所に急いで向かい、彼女に話しかけようとした。彼女の顔をみると、とても緊張した顔をして、僕の顔を見てきた。明らかに怯えている。「なっ、何」と彼女はふるえた声で言った。「いや、ちょっと質問したいことがありまして。」と僕が言うと、彼女は顔面蒼白になった。「何なの。」「もしかして、ここは引っ越したばかりの家ですか?トイレが真新しいのですが。」「なっ、何だ。そっ、そうよ。ここは、引っ越したばかりの家なの。言ってなかったっけ。」。僕は、妙に腹が立った。「言ってなかったですよ。そういう事は早く言ってください。僕が、この家に、見覚えがないのも当然じゃないですか。どおりで、懐かしい気分がしないわけだ。」僕が、怒っているのをみると、彼女はくすくすと笑いだした。「ごめんね。言ってなかったかもね。」彼女のほころんだ顔を見て、何故か私もつられて笑ってしまった。

 食卓に、食事がならべられていくのを見ながら、僕は「やっぱり、明日は一緒に映画を見に行くことにするよ。」と言った。すると、彼女はうれしそうに「ありがとう。良かった。とても見に行きたかったの。さあ、食べましょう。」と言いながら食卓に座った。食卓には、カレーライスとサラダが美味しそうに置かれている。さっそく、カレーを口に運ぶと何とも気持ちの悪い匂いがして、思わず吐きそうになった。獣くさい匂いがして、体が拒否反応を起こしている。彼女は下手なのだろうか?しかし、彼女は美味しそうに食べている。彼女の味覚がおかしいのだろうか。それとも、私がおかしいのだろうか?とりあえず、サラダを食べてみた。すると、サラダはとても美味しく、むしゃむしゃ食べた。単に、脂っこいものを体が受け付けないないだけみたいだ。僕は、脂っこいものが苦手なのだろうか?「すいません。カレーの量を少し減らしてもらえますか。どうも、体がまだ、弱ってるみたいで。」「あっ、そうよね。ごめんなさい。気が付かなかった。」。あの拒否反応は、体の状態のせいだとは思えなかった。僕はきけなかった「もしかして、僕はベジタリアンなのではないのでしょうか。」と。少しずつ違和感のようなものが生まれてきていていたが、気のせいだと思うようにしていた。しかし、僕は気づいてしまった。(続く)

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