あのたわけが・・・
一夜明けた井上城 果たして・・・
第39話 「あのたわけが・・・」始まります
信濃井上城では、夜も明けぬ早朝から朝餉の支度に取りかかり、
さっさと朝食を済ませると、今か今かと、霧で見えぬ川中島一帯を、
下界を見るように眺めていた。
その頃、信玄は、予定より二刻早く8000の兵を引き連れ、
八幡原に魚鱗の陣を組み、謙信が出てくるのを待ち、
そして前線大将の信繁は物見の報告を待っている。
ついにそのときは来た。
霧が晴れてきて視界が少しずつ良くなってくると、
物見が帰ってきて信繁に報告する。彼は近衆に指示を飛ばす。
八幡平に一番貝が鳴ると、それに答えるかのように、上杉側からも貝が鳴る。
「上杉を犀川より押し返せーー」
信繁の怒声が飛ぶ。是により信繁隊二千が毘の旗へ目掛けて突進していく。
上杉の先鋒隊、柿崎和泉守がそれに答え応戦していく。
「我らに義有り、信濃の民に代わり天誅を下せーー」
本陣に熊若が飛び込んできた。
「申し上げます。左馬助様と上杉方の柿崎隊二千と交戦しました。
今頃新発田隊、本庄隊を巻き込んでいるでしょう」
信玄似の男に報告し踵を返し去っていった。
暫くして頃合いを見て近衆に、呟いた。
「二番貝鳴らせ」
貝の音を聴き一斉に動き出す。陣替えである信繁は徐々に本体に近づき敵を誘い込み、
両翼は包み込まんと動き出した。
結果、上杉軍六割方を包み込む形となった。
しかし、ほぼ同数での鶴翼の陣では、押されるのも時間の問題と言えた。
次々と新隊を送り込んで来ては、去っていく上杉軍、
去っていくのを見逃す事のできない者もいる。
先陣の柿崎隊と交戦していた太郎義信も、その者の一人であった。
義信隊は去っていく柿崎隊を追いかけ始めたのである。
しかし、柿崎隊の後方には、信繁隊の交戦から離脱し出した本庄隊、色部隊、山吉隊が続きだしていた。義信隊の危機に気付いた望月隊が、追い付こうとするが届かない。
其れを遠目から見ていた男が一人、信繁である。
「あのたわけが・・」
開始から半刻経とうとしてた。望月隊が追い付いたとき、義信隊は三隊から攻められ壊滅に近い打撃を被っている。
「若を救い出せー」
望月遠江守盛時は望月隊に檄を飛ばした。
信繁は義信救出の為、離脱した上杉軍を追撃している。
後ろには長尾隊が追走さらに、三条隊、加地隊が方向転換し、
長尾隊の後詰めをするようだ。
この様子を真っ青になりながら眺めている、見た目高校生ぐらいの少年が居た。
欄干から手を離すと義輝の前へ行き、ドカと座ると平伏した。
生徒達の中には見るのに飽きたのか部屋に屯して雑談している者も居たが、
よほど動転していたのか、義兄上と呼ばず。
「上様、 申し訳ありませんが、それがし急用を思い出しました。清美を残しておきます。ごゆるりとお過ごしください」
吉信は立ち上がると、
「周やん、清丸を持てい、タイガー付いてこい、和美、叔父上の元へ行くぞ」
その荒けた声に、外を見ている者も振り返った。
「では、義兄上行ってきます」
※シューン
和美は挨拶をすると吉信達はその場から消えた。
「清美、太郎は何処に行った」
「うーーんと あっち」
清美は兄の前行き少し考えて外の方へ腕のばしさらに人差し指を伸ばした。
それを、周囲の者達も聴いていた。 皆気になるのだ。
「何をしに行ったのだ。せっぱ詰まっているように見えたが」
横にいる細川藤孝が口を挟むと、釣られるように畠山摂津大夫は話し出す
「これはあくまで推測ですが、義兄は救出に行ったのではありませんか義姉上」
「まさしく博太郎の言うとおりです」
「其れではあの数人では不可能では」
藤孝が不安そうに聴く。
「救出だけなら可能ですが、義姉上念には念をいれて布団をいつでも引けるようと桶水と手拭いを、救急用具を」
「大丈夫よ」
清美が先ほど別の方向を指す。そこには布団が五、桶水が二、手拭いが五 他
用意されていた。
突如 救援に向かう吉伸 結果はいかに
次回「何者」 お楽しみに




