それでも信玄公の弟か
信州、川中島に着いた吉伸達は・・・・
時越え武将 第36話 「それでも信玄公の弟か」始まります。
標高520メートルの山の荒屋になっている井上城を改修、
そこに今、吉伸率いる110人がおり、
子供達は我先にと前方に乗り出して川中島を眺めている。
「先生、武田の旗がありません」
ここから見える川中島の奥、浅田西條に上杉の旗が見えるだけだった。
未来から来た少年は横にいた教師の加納雅彦に尋ねた。
「あの山が尼厳山と言ってその向こう側に海津城がある。
そこに集結しているから見えないよ」
雅彦は左前方にある山を指しながら答える。
その隣の虎政は感心しながら懐かしく想い頷いていた。
いくら眺めていても 状況が変わることなく3時間過ぎた頃、
数人の客がやってきた。
「此処の主に会いたい、 それがし武田家家中松尾民部と申す。お目通りを願う 」
閉ざされた城門の外より声が響く少年達は、
各々叫んでいた。
「皆の者、 整列せよ、そしてチャックな」
吉伸は生徒ら含めすべての者に声掛け、生徒は先生に言われていたのだろうか、
素直に整列した。
吉伸は並んだ所確認すると、家老の河田伊豆守元親に呼びに行かせた。
元親は門を開けると目前の男に話しかけた。
「主がお待ちです。 付いて来てください」
一礼して踵を返すとゆっくりと歩き出した。
「拙者、木下家家臣河田伊豆守と申す」
元親は歩きながら話し出す。
「まぁ、いきなり知らぬ者が居たら驚くでしょうなぁ、しかも、戦中となれば尚の事、
見た事無い旗ならさらに警戒される事でしょう。 敵か味方か不気味ですもんねぇ 」
信是らは回りを見ながら元親の話を聴いていた。
しかし信是らの一番後ろに歩いてた男は違う事考えていた。
まず一つ、先導する彼の名乗り、彼は木下家と言ってい事、
二つ、立ち並ぶ白旗と桐の家紋旗、
男は熊若の持ち帰りし話と照らし合わせていた。
「着きましたぞ、少々お待ちを」
「殿、お連れしました」
元親は彼らを廊下で待たせ、入室し一礼して吉伸に報告した。
吉伸は頷くと、
「入ってもらえ」
「はい」
元親は廊下に出ると待たせていた信是ら呼ぶ。
彼らは敷居を跨ぐと順に胡座を掻き平伏する。
そんな彼らに吉伸は催促する。
「遠い、話ができんもっと近くに」
「さぁ、こっちに来いゃ」
吉伸の左横に座っていた和美が、立ち上がり五歩歩いて畳を叩く。
信是らはお互い見渡し、そこに移動しようとするのを確認すると、元の席に座った。
信是らは叩かれた場所まで頭上げず動き、そのまま平伏している。
「それがしは松尾民部少輔・・」
「よい」
信是の挨拶を吉伸は止めさせた。
「その方らの挨拶はよい、民部、信玄公が何か言ってきたか?」
信是は冷や汗を流しながら横を見る。
其れを見た吉伸は、
「やれやれ、信是何ちゅう様だ。それでも信玄公の弟か」
其れを聴いた信是の隣の男が、刀に手を掛けながら平伏している。
「仁兵衛止めぇ」
吉伸は仁兵衛の手を刀から離させると、その隣に声掛けた。
「小幡又兵衛、海津副城代の名代ご苦労」
「はっ」
一呼吸おいて話し出した。
「御屋形様のお言葉伝えまする「この軍は如何なる御家中や、敵か味方か」
聴いて参れのこと、教えていただけましょうか?」
「なるほどな、委細解った」
吉伸はこの若者、小幡又兵衛昌盛を好ましく見て、隣の男に聴いた。
「一徳斎、そなたどう読む」
呼ばれた一徳斎は部屋を見渡し、
「はっ、されば、敵でもなく、味方でもなく、今はこちらと戦う気は無しと読みました。
如何ですかな、木下近江守吉伸様」
「見事じゃ、さすがは真田じゃ、余の名まで知って居ったか、
今宵は宴じゃ一徳斎も民部も又兵衛も仁兵衛もどうじゃ
遅くはならん送っていくで」
「されど御屋形様に」
「報告はいるな」
信是の言葉に一徳斎は頷くと、
「民部殿、左京殿頼めるか」
「必ずや」
暫くして 二人は出て行って、残った二人、一徳斎と昌盛は新たに設けられた席に移動していた。
次回 時越え武将 「思い出したようだのう」 お楽しみに