いざ川中島へ・・・・(二)
吉伸の目に留まったのは腕時計。付けていたのは将軍義輝でなく藤孝でもない、摂津大夫吉興
いったい彼は、何者なのか?
時越え武将 第35話 「いざ川中島へ・・・・(二)」 はじまります。
「ブランド」
吉興はつぶやいた。この時代では無い言葉を発した吉伸に驚き、顔を直視した。
当然吉信は確証を得るため呟いた訳だが、吉興は見事に引っかかった。
博太郎名前の掘られた時計、吉伸は見覚えがあった。
大学合格祝いに吉伸が送った物だからだ。
吉伸は老いた義弟を見て、
「博、老けたな驚いたぞ義父が心配してたぞ、忘れたか太郎だ」
吉伸は言いながら抱きついた。その目には涙がこぼれていた。
いきなり抱きつかれ"ひろ"と呼ばれ過去を思い出す。
ひろと呼ぶのはこの時代に来る前の家族ぐらい、
だから思い出すのにそんなには時間はかからなかった。
「まさか吉兄か」
「よく無事にいたもんやなぁ」
「吉兄は若いな、こっちに来てから何年なん」
「一年、ひろは」
「もう七十年や孫もいる」
「もう隠居やな両親にも家族紹介してやれ、きっと驚く」
「だよなぁ」
吉伸は涙を拭うと、
「皆入ってこい」
扉の外に向かって声掛けた。扉が開かれ男の子数人、入室して横並びになる。
「上様、ご機嫌麗しゅう御座いまする」
代表して長山従五位下筑後守政興が声を発すると一斉に頭を垂れた。
ただ、そこまでは問題ない。、
しかしその後入室した皆が吉興に片膝を尽いて、 頭を下げながら、
「「お久しゅう御座います。博太郎大納言様」」
吉興は必死に涙を堪えながら頷いた。
後ろの家族ですら驚き、夫または父である吉興を眺めていた。
義輝は驚きながらも子細を眺めていると、義妹である清美までも同様にしていた。
「皆の者も息災で何よりである」
吉興はそう答えるだけで会えた事懐かしんでいた。
彼にとっては75年ぶりの再会である。
「近江殿、これは一体どう言う事だ」
義輝は吉伸に聴いた。義輝にとって吉興は管領であり、官位も従五位上摂津大夫であるからだ。
「博 いや摂津殿は我が妻の弟であり、我らの居た時代の正二位権大納言なんですよ、それに彼らは付き人でもあったわけで、でもその官位もここでは無意味ですけど・・」
吉伸は頭を掻きながら答えた。
藤孝や義輝らは驚いていた。
「なればあの時の俊定殿も官位をお持ちなのか」
藤孝は1年前の宴会の時を思い出しながら尋ねた。
「はい、我が父は、正一位関白太政大臣と言う位に就いていました。まぁと言ってもこの時代のように政務を行うわけではありませんが、ただいま帰りました。
上様お初にお目にかかります。
わたくし近江守が妻で、そこの博の姉の和美と申します。
お見知りおきのほどをよろしゅうたのんます」
「おう、余が清美の義兄の足利参議義輝である」
「お帰り」
「お帰りなさいませ」
和美の登場に吃驚した義輝であった。
「さて、和美が着いたみたいなので、移動しましょう」
和美が帰還したことで吉伸の言葉で一行は、二ノ丸まで降りていった。
「では、皆さん出発しますので、両隣の人と手を繋いでください」
吉伸は拡声器で広場にいる計95人に呼びかけた。
もちろん吉伸ら15人も広場に降り手を繋いでいた。
「いざ 川中島へ」
「「「 おぅーーー」」」
吉信の掛け声で沸き立つ周囲
で静かになったところで移動する。瞬く間に川中島にある小高い山頂に着く。
見渡すかぎりの田園風景、その真ん中を曲がりくねった川に滑らかな日差しがさしこんでいる。
川中島に到着した彼らに待ち受ける運命は?
次回 第36話「それでも信玄公の弟か」 お楽しみに