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番外編:婚約時代② ふたりでいる理由——重ねた時間の中で

公園で作ってきたお弁当を食べ終えてから、人目がないことを確認して、バルスの袖をそっと引く。


腕の中に入れてほしい、という合図。


バルスはすぐに気づいて、ふっと笑い、私の体を引き寄せてくれる。


背中から抱きしめられて、そのまま力を抜いて体を預けた。


あの日以来、私は前よりもずっとバルスに甘えるようになった。


ミレーヌさんたちには、ずいぶん甘やかされているわねと冷やかされる。


原因は、完全に私だ。


ここ最近、彼と会うたびに、こうして腕の中で甘えきって、そのまま眠ってしまう。


気づけば、自分の足で家に帰った記憶がない日もある。


きっと、困らせている。


分かっているのに、結局、誘惑に負ける。


今日も、気づけば腕の中に収まっていた。


婚姻式まで、あと2週間。


買い物のついでに、久しぶりに公園でお昼を食べていた。


しばらくして、バルスが口を開く。


「家族そろって婚姻式に出ると、姉貴から手紙が来た」


「本当ですか? じゃあ、お子さんたちにも会えるんですね。楽しみです」


まだ見ぬ義理の姪と甥に、思いを巡らせる。


5歳と3歳。


きっと、可愛いだろうな。


「それと……すまないな。本当は家族と師団長夫婦だけで、という話だったのに。騎士団の連中も何人か出ると言い出してな」


少し困ったように、息をつく。


「もう、謝らなくていいですよ。私は大丈夫です。それより、バルスが嫌なんですよね?」


「あぁ。どうせ、あとで茶化される」


本当に嫌そうな顔に、思わずくすっと笑ってしまう。


そのまま腕の中で体の向きを変えて、正面から抱きつく。


その瞬間、胸の奥がふっとほどけた。


ここ最近、同じ夢ばかり見ていた。


――また、離れる夢。


理由もなく、不安だけが残る夢。


私はバルスの胸に頬を寄せながら、左手の薬指に光る指輪を見つめる。


前の指輪はネックレスにして、今も身に着けている。


その指輪に、バルスの手が重なった。


「……もう、一緒に住むか」


ぽつりと落ちた言葉に、思わず顔を上げる。


そのまま軽く口づけられて、強く抱きしめられた。


「格好つけて、結婚式の後にするなんて言うんじゃなかった」


苦笑まじりのため息。


その言葉に、胸の奥がじんわりとあたたかくなる。


「うん……早く、一緒に住みたいです」


「そうか。じゃあ――」


「でも、ここまで待てたから。あと2週間くらいは、我慢します」


「我慢などしなくていいと言っているだろう?」


「幸せな我慢ですから。それに……もう、この場所は私のものですし」


言った瞬間、恥ずかしくなって、彼の胸に顔を埋める。


バルスは小さく笑って、


「当たり前だ。ミドリはオレのものだ」


と、髪を撫でてくれた。


その手の心地よさと安心感に包まれて、意識が少しずつ遠のいていく。


――大丈夫。


もう、離れない。


そんな確信だけを残して、私はそのまま眠りに落ちた。


♢♢♢♢♢♢


「こんなところで寝るな。風邪をひく」


何度か声をかけても、返ってくるのは曖昧な返事だけだった。


起こすのを諦めて、持ってきていたショールで包み直し、腕の中に抱き上げる。


先ほどの会話を思い出して、思わず苦笑する。


我慢が限界に来ているのは、むしろ自分の方だ。


格好つけるんじゃなかったと、この短い期間で何度思ったことか。


あと2週間。


それだけ耐えれば、ミドリは伴侶になる。


そう思うと、自然と口元が緩む。


これからは、帰ればミドリがいる。


それ以上の幸福を、バルスは知らなかった。


腕の中で安心しきって眠るミドリを見下ろして、小さく息をつく。


最近は、こうして眠ることが増えた。


正直、何の我慢比べなのか分からない。


それでも――


この重みを、手放す気はなかった。

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