【短編版】聖女ブラックローズと聖女ホーリーホワイト
甘党探偵月影ましろ〜恋にRPGに犬探しにダンジョンに聖女だって?〜より。
「ましろさん、検査は終わりまして?」
建物内のロビーで小説を読みながら待っていた来夢が、廊下を歩いてきたましろに声を掛ける。
ましろはダンジョンを形成したクトゥルフの物語騒動をアーバンに報告し、アーバンが黎明館をリニューアルしてオープンしたマーブル社に報告しつつ、ラプスが今回回収した末端の粒子を提供したことにより、ほぼ毎日強制的な魔力検査を受けさせられていた。
「うん。今日で一週間通い続けて、やっと終わったみたい。普通通りに過ごして問題ないってさ。噛まれた傷口も殆ど治ったしね」
ましろは絆創膏の上から人差し指を摩る。
「もう!今度は油断しないこと、約束出来ます?」
「うう……。クトゥルフにはもうこりごりだから、今度から油断せずに行こうと思います……」
「よろしい。指切りげんまんでもします?」
「いや、いいよ……」
マーブル社を後にし、ましろと来夢は歩いてアーバン・レジェンドへと向かう。途中で行きつけのスーパーに寄り道し、夕飯の食材を買い込んだ。
にんじん、玉ねぎ、ジャガイモ。
「今日の夕飯はカレーですわよ。ルーは買い置きがまだ残っていますわ」
「カレーかぁ……。味がわからないからボクのは甘口にしてね」
「全くもう、世話が焼けますわね」
近道をしに、2人で狭い裏路地を通る。
「貴方の分だけ別に作る手間があるんですのよ」
「あはは……。こればかりはどうしようもないねぇ」
「……ねぇ、アナタ」
「中辛はお店用、激辛は林檎さんとアーバンさん用……」
「あ、そうだ!隠し味に林檎の蜂蜜も入れて甘くしてね。うーん、隠し味にチョコを入れるのもどうかなぁ。この前テレビでやってたのを見たんだけど」
「ちょっと!無視するなっ!!」
「「?」」
素通りしていた物陰に佇む人の姿。ファー付きの黒のジャケットに短パンとロングブーツの女性が姿を現した。
「……貴女は?」
「私はブラックローズ。異世界で聖女だった者です」
「来夢、隠し味にチョコレート、よろしくねー」
「そのくらい自分でやりやがれ!ですわ」
「聞け!いや、私の話を聞いて!お願いします!」
素通りしたましろと来夢の背に声を掛ける黒衣の女性は必死だった。ましろと来夢は足を止めて、振り返って女性を見る。女性は改めて咳払いをした。
「……コホン。こちらでの名前は黒原野薔薇といいます。アナタ、『昴のワンダフルチャンネル』に出ていた探偵、月影ましろですね?」
「……ラプスの記憶の回収が及んでいない?何者ですか、貴女は」
「だからブラックローズ!黒原野薔薇って言ってるじゃない!!」
「異世界って、物語の領域展開以外で本当にあるんですの?」
「ある!私が生き証人よ!!」
「そのブラックローズさんが、どうしてこんなところに?」
「こちらの世界に転移した時、とある教団に拾われたのですが、私の力を儀式で抽出した後に捨てやがったのです。さっきまで教団の末端の奴と話しをしていたけど、逃げられてしまったところ、アナタたちが通りがかったの。ねぇ、お願い!依頼していいかしら?奪われた私の力を取り戻して!!」
藁に縋る思いで、ブラックローズはましろの腕にしがみつく。胸が腕に当たっていた。
「ちょっと!!依頼はともかく、離れてくださいまし!!」
来夢がブラックローズをましろの腕から引き剥がす。ましろは何を思っているのかわからない笑みを浮かべ、腕を組んだ。がさりと買い物袋が音を立てる。
「ねぇ、その教団ってもしかして……」
「クトゥルフ教団の奴らよ」
「うーん。ストレートにそのまんまだね……」
「そんな組織が、御伽街に存在するんですの!?」
「ええ。奴らは街外れの廃墟ビルの地下を占拠して根城にしてるわ」
灯台下暗しとはこのことか。
「ブラックローズさん、そんなに情報を喋っていいの?」
「ええ。私を騙して力を奪ったあんな奴ら、もう知るもんですか!」
「騙して?」
「儀式が成功すれば教団のトップに並ぶ存在になれて自由の身になるって」
「そんな美味しい話に乗るなんて、なんてチョロい……」
「何か言った?」
「いいえ、何も」
『とりあえず、ここでの話もなんだから、アーバン・レジェンドに来てもらえば?』
「ーーラプス、彼女が異世界から来たって話、信用するのかい?」
先程まで無言で着いてきていたにもかかわらず、包み隠さず話しに入ってきたラプスを、ましろは驚いた表情で見る。
『彼女に記憶の回収が及んでないのは、何か不思議な要素を携えているからだと僕は思う』
「ふぅん。人間2人より物分かりが良いじゃないこの猫」
『僕は猫でも、ちなみに犬でもないよ!』
ブラックローズに抱えられそうになったラプスは、ましろの背後に隠れた。
「はぁ……。お店に出すカレーの量が減りますわよ」
「仕方ないよ。ここで会ったのも何かの縁だし、彼女を連れて行くしかなさそうだね」
◇◇◇
「とりあえず、クトゥルフ教団を探す手間が省けたのは良いことだけど……」
アーバン・レジェンドの食堂。客人用の椅子に座って中辛カレーにがっつくブラックローズを見て、ましろはろくなご飯を食べてなかったのかな?と疑問を浮かべる。
「んん……!美味しいわねコレ!誰が作ったの!?」
「僕だけど……。もしかして異世界にはカレーが存在しない?」
「ええ!初めて食べるわ!」
「簡単に出来るから、レシピ教えておこうか?」
「ありがとう!感謝するわ!」
カレーのレシピを紙とペンで書き始めた鵜久森に、お礼を言うブラックローズ。
綺羅々はゲームをしながらブラックローズに質問してみる。
「ねーねー、異世界で聖女さまってどういうことしてたの?やっぱ人を癒したり?」
「いいえ。私は街に結界を張る仕事をしていたの」
「それが抽出されてしまったという力ですの?」
「そう。奴らは私の力を反転させて、千の仔を孕みし森の黒山羊を召喚する儀式を成功させたのよ」
コップに入った水を飲み干し、ブラックローズはカレーを食べ終えた。
「教団はこの世界に来て右も左もわからない私に色々教えてくれたわ。時給も5000円で悪くなかったし。……捨てられるまではね」
「力を抽出したから用済みってことですか?」
林檎が首を傾げながら聞くと、ブラックローズは頭を抱える。
「それだけじゃないわ。白野聖……ホーリーホワイト!!私の代わりを見つけたって……ああ、この世界でも私の邪魔をしてくるアイツ……!!」
「その、代わりのホーリーホワイトさんとお知り合いみたいですね」
「ええ!!異世界で私から聖女の地位をぶん取った女よ!!ああ、思い出すだけで忌々しい!!」
「ブラックローズさんがあまり聖女らしい名前や性格じゃない方が問題あるような……」
「何ですって?」
ブラックローズにギロリと睨まれ、ましろは肩を竦める。
「……私が今の性格になったのは異世界での激務のせいです。結界を張る他に国からの書類などの整理、交渉などに追われてましたので。あと、名は親が付けたものだからどうしようもありませんでした。この名前のせいで、聖女の力があるにもかかわらず、何度偽物扱いを受けたことか……」
「そうだよね……!わかるよその気持ち!」
「うぐ……」
名前で苦労するブラックローズに同意する鵜久森を、綺羅々は憐れみの目で見た。
「やれやれ。どうやらその奪われた力を取り戻すには、街外れのビル地下の根城に忍び込まなきゃいけないってことでいい?」
壁にもたれかかったまま、ましろが腕を組んでブラックローズに聞くと、ブラックローズは頭を左右に振った。
「忍び込むのはほぼ不可能です。見張りも充実していて、結界が張れる聖女もいるわ」
「今までバレてなかったのは結界のおかげってこと?」
「ええ。結界には触れた者の記憶を少々の間、忘れさせる効果があります」
「それを反転させてあのダンジョンを出現させたとは……。つくづく千の仔を孕みし森の黒山羊とやらを敵に回さなくてよかったですわね」
やれやれと来夢が手を振る。ブラックローズは考えるように口元に手を当てた。
「……ただ、弱点もあるわ。結界を張るには多少の時間がかかるってこと」
『戦闘での実用性にはあまり向いてないね。折角魔法少女っぽい名前なのに、あまり勧誘したいとは思わないや』
「フン。物語狩りなんてあまり儲からない仕事、こっちから願い下げだわ」
『そうでもないよ。月に5、6回ちゃんと成長したのを狩ればそれなりに稼げるさ。もっとも、アーバン・レジェンドの報酬はましろの方針でお菓子になってるけどね』
時給5000円の過去の仕事と比べられ、ラプスは不満を漏らす。
「あ、そうだ。依頼料は幾らくらいになりますか?」
「え?お金取るの?」
「はい。探偵業はカフェバイトじゃないから別料金ってことで」
「……1万でどう?」
「聖女の力が1万円で取引されるなんて……」
猫琉羅斗の件で些か金銭感覚が狂っているましろ相手に、ブラックローズは髪をぐしゃぐしゃと掻き乱す。
「ーーああ、もう!いいわよそっちの言い値で!!但し、払える範囲にしてちょうだい」
「依頼成立、だね」
聖女の力を取り戻す。成功すれば思わぬ臨時収入が手に入る。臨時収入は好きなお菓子に変わる。ましろは心の中でほくそ笑んだ。
◆◆◆
「え?ブラックローズさん、泊まるの?」
「……教団を追い出されたばかりで、家がないのよ。カプセルホテルやネットカフェに泊まるのは飽きたし。……一晩くらい、いいでしょ」
「……仕方ないですね」
ましろはアーバン・レジェンドの空き部屋にブラックローズを案内する。
「……ありがとう」
月明かりが差し込んだ部屋。毛布を渡す時に、ブラックローズがお礼を言う。ましろは掌で額を覆い、暫く考え込んだ末に告げる。
「……はぁ。依頼料、1万円でいいですよ」
「本当!?」
「ブラックローズさんがなんだか可哀想になってきちゃいました。だから、まけてあげます」
「感謝するわ!本当にありがとう!」
ブラックローズは握手した手を離さずぶんぶんと振る。ましろはなんだか捨てられた子犬みたいな人だな、と思いながら振られていた。
「それで、明日の予定はどうします?」
「教団のアジトへ直行でいい?」
「朝からですか?まぁいいですけど……」
「私の代わりに聖女の座に居座るホーリーホワイトを叩きのめしてちょうだい」
「……依頼は力を取り戻すって話だけですよ」
「ちっ!」
「聖女が舌打ちなんてしないでください」
ましろはやれやれと困った顔をしてブラックローズの手を振り解く。
「それじゃあまた明日。おやすみなさい、ブラックローズさん」
「ええ。明日を楽しみにしているわ」
◇◇◇
翌朝。寮のインターホンが鳴り響く。
「はい! 今行きます!」
ガチャリと林檎が開けたドアの外に立っていたのは、長い銀髪をポニーテールにした、白い制服、黒いタイツ、ローファーを履いた同い年くらいの女の子だった。
「おはようございます。突然ですが、こちらに黒原野薔薇さんがお世話になっているという情報を耳にしてやってきました、白野聖と申します」
「貴女が、ブラックローズさんの言っていたホーリーホワイトさんですか?」
「はぁ……。こちらの世界では、その呼び名は相応しくないのでやめてくださいと言ってるのに」
ホーリーホワイトはため息を吐いて気を緩める。
「ーーげっ!?ホーリーホワイト、アンタなんでここに!?」
「おはようございます、野薔薇さん」
廊下を後退るブラックローズを目にし、ホーリーホワイトは笑顔で挨拶をした。
「教団の方からこちらの寮でお世話になっているとの情報もとい通報がありまして」
「うーん。そっちに行く手間が省けたのはいいけれど……。要件はなんだい?」
ましろに問われ、ホーリーホワイトは困ったような表情を浮かべる。
「それは……。少しお茶をしながらお話し出来れば良いなと」
◇◇◇
食堂に客人用の椅子がふたつ。ブラックローズの隣にホーリーホワイトが平然とした顔で腰掛ける。
「ちょっと!なんでアンタが当たり前のように私の隣に座るワケ!?」
「いいじゃありませんか。滅多にいない聖女同士なんですから」
「並んで座られるとどう見てもホーリーホワイトさんの方が聖女に見えますわ」
「悪かったわね!聖女らしくなくて!」
「まあまあ落ち着いて。ーーそれで、ホーリーホワイトさん、話しって何かな?」
淹れたばかりのミルクティーを差し出し、ましろが再び問い掛ける。
「ーー今回、私はクトゥルフ教団の使いでやって来ました。貴方たちアーバン・レジェンドの存在は、我々も認識しています」
「へぇ……。それで?」
「……アーバン・レジェンドの存在と言うよりは、マーブル社と言った方が良いのでしょうか」
「やっぱり、クトゥルフ教団が動くのを組織は容認済みかー」
お茶菓子用に出したクッキーをつまみながら、ましろはガックリと肩を落とした。
「ラプスの回収した粒子を提供した時も、魔力検査に行った時も、あまり驚かれなかったし」
「ちょっと待って!それってどういう……」
「組織が互いに認識し合い、それぞれの行動を容認しているということです」
驚く鵜久森を遮り、ホーリーホワイトは冷静に告げた。
「クトゥルフ教団は崇高なるクトゥルフの存在を世に知らしめることを。マーブル社は成長した物語の粒子を回収し、研究することを目的としているので、ひとまずは敵対関係ではありません」
「マーブル社は研究第一優先の為、積極的に教団を倒すような真似はしないと。そう言いたいのでしょう?」
「ええ」
来夢の問い掛けに、ホーリーホワイトは頷く。
「ええー!?それじゃあ教団とマーブル社が裏で手を組んでるってこと!?」
「実際には違うけど、そう捉えてもおかしくはないですよ。苦労するのはクトゥルフの対処に向かうボクらってことで」
頭を抱える綺羅々に、ましろは何処か他人事のように話す。
「ですから、乗り込まれてひと騒動起こされる前にこうして話し合いに来ました。ブラックローズから抽出した、聖女の力をお求めなのでしょう」
ホーリーホワイトが鞄に付けていたキラキラと輝く小瓶を手に取る。中身は虹色に光っていた。
「それ……! 私の聖女の力!!」
「悪い癖ですよ、野薔薇さん。話しは最後まで聞かないと」
小瓶に手を伸ばすブラックローズの手をホーリーホワイトは軽々と避ける。
「この小瓶には私の力で封印が施されています。それを解かなければ割れません。ーー議会を開いて可決したりで持ち出すの、結構大変だったんですからね」
「アンタたちが勝手に私から取ったのが悪いんでしょうが!!」
「野薔薇さんがワガママで仕方なかったと聞いたのですが」
「私は私の力をあんな触手うねうねした怪物を召喚する為に使いたくないって言っただけじゃない!!」
「別に私も触手うねうねが好きなわけではありませんが、教団が私をこの世界で拾ってくれた恩は返さなければなりませんし……。話しを戻しても良いですか?」
ホーリーホワイトは改めて小瓶をテーブルの上に置く。
「ーー個人的な事情で申し訳ないのですが、この小瓶の封印をかけて、私と勝負していただきたいのです」
「個人的な事情?」
「ええ。そちらの方、双剣を使うのでしょう?私と戦ってください」
「……え!? 僕!?」
ホーリーホワイトの視線を受けて、鵜久森が驚き、ガタンと椅子を押しのけ立ち上がる。ブラックローズが呆れた表情で額に手を当てていた。
「そういえば、戦闘狂だったわこの子。向こうの世界でも前線に出たがる変わった聖女だって騒がれていたのよ」
「せ、戦闘狂って何を使うんだい?」
ましろが恐る恐る聞くと、ホーリーホワイトは窓の外に視線を送る。
「それはーー、裏の森でお披露目すると致しましょう」
◇◇◇
晴れ渡る空の下、鵜久森とホーリーホワイトが向き合って立っている。ましろたちは少し離れた場所から応援する形になった。
「……まあ、ここなら他の誰かに見られる可能性は低いけど……」
鵜久森は物語の顕現領域以外では滅多に出さないスペルカードを顕にし、双剣を呼び出す。
(女の子と戦うことになるなんて……。気が引けるなぁ……)
「ーーっていうかましろくん!普通こういう時に戦うのって君じゃないかなぁ!?」
「ふふふ。ボクもそう思いますけど、ボクは後方支援型の能力なんで」
「インフィニティ・オンラインの時に剣使ってたよね!?」
「あれはアルパイン・グリーンのステータスがあってのことですよ。剣を普段使いしてないボクじゃ、たぶん彼女の相手にも及びません」
思いきり観客側に立っているましろを、鵜久森は少し恨みがかった視線で見つめる。
「ではこちらも。武器のお披露目と参りましょう」
ホーリーホワイトは胸元に利き手を当てると、体内から光と共に日本刀を引き出した。
「これは彼方の世界で異国の方が、私に預けて下さった刀」
「すご……。あれブラックローズも出来るの?」
「出来るけど、力を消費するのであまりやりたくはありません。それになんだか気恥ずかしいし」
「そういう問題ですの?」
ホーリーホワイトは鞘を腰に装着し、刀を抜いて構える。鈍く光る刀身がホーリーホワイト自身を映し出した。
「手加減は無しで、よろしくお願いします」
(ええー!? 女の子だから手加減する気満々だったんだけど!?)
鵜久森が心の中で悲鳴を上げる。
「ではーー」
先手はホーリーホワイト。身を屈めると瞬時に鵜久森の懐に入り込んだ。
◇◇◇
先手を取られ、僕は瞬時に利き手の剣を振るい相手の剣撃を防いだ。あぶないあぶない。相手は本気だ。
「む。やりますね」
襲撃が上手く決まらず、相手は不服げに眉を顰めた。
僕より身軽な相手は次々と刃を繰り出してくる。けどーーどれも剣撃が軽い。受け止めさえすれば押し切れるものばかりだ。
相手は異世界で魔物相手に戦ってきたんだろうけど、僕だって物語相手に剣を磨いてきたんだ。最初は手加減しようと思ったけれど、相手の瞳は少しでも隙を突こうと真剣だった。
僕だってプライドはある。ここで、女の子に負けてなんかいられない。
「守りばかりですね。攻めを見てみたいです」
「言ったな……!後悔しても知らないよ!」
軽い刃を押し除けてお互いに距離を置く。僕が真っ向から両手を振り下ろし切りかかる。相手は正面から受け止めた。
「っ……!」
僕の刃を受け止めた相手の体勢が膝を中心に崩れる。押し除ける力が足りず、相手は身を引くことで刃を避けた。
「はあっ!」
間髪入れずに畳み掛ける。相手は刃を避けるのに必死になった。僕の刃が掠めて銀色の髪が数本宙に舞う。
「ふっ、ざまぁないわね!」
「それ、外野が言うセリフですの?」
ブラックローズさんと来夢ちゃんが外野で会話をしている内に、形勢は逆転して僕が優勢になっていた。相手に焦りが見える。女の子相手に本気を出しすぎたかな。どうしよう。引くに引けない。
「っ!ホーリージャッジメント!」
「うわあっ!?」
攻めを止める頃合いを見計らっていたら、相手の片手から眩い光が放たれた。剣技の最中に魔法ってそんなのアリ?!
「ーーホーリーホワイトさん、それはちょっと反則じゃないかなぁ。鵜久森さんは魔法が使えないんだけど」
ましろくん、ナイスツッコミ。
「っ……。すみません。貴方を甘く見過ぎていました」
息を切らして相手ーーホーリーホワイトちゃんは刀を鞘にしまい、頭を下げた。
確かに、僕には迫力があるとか威厳があるとかそういう風には見られないけど、だからって甘く見られると傷つくって言うか……。
「危なかったわね。人間だから無傷で済んだけど、魔物だったら今ので滅んでたわ」
「そんなにすごいんだ、今の技……」
ブラックローズさんの解説に綺羅々ちゃんが驚きを隠せない。
え。そんな技を僕に向けて使ったの?僕もびっくりだよ。
「ーー約束だよ。小瓶の封印を解いてもらおうか」
ましろくんも外野から見ていただけなのにちゃっかりしている。
「……はい」
ホーリーホワイトちゃんはしゅんとしつつも掌の小瓶に魔力らしいものを通す。淡い光が集まり、パッと弾けて消えた。
蓋を開けると、虹色の光が溢れ、光の玉となりブラックローズさんの胸元に吸い込まれる。
「ああ、私の!聖女の力が戻ってきたわ!」
ブラックローズさんは力が戻ってきた喜びで数回飛び跳ねた後、気合いを入れて結界をその場に張っていた。
「試しに切り付けてみなさい」
言われるがまま、僕は結界に向けて双剣を振り下ろした。刃が通らず、ブラックローズさんの手間で弾かれる。
「ふっ。コレが聖女の力よ」
『結構優秀なバリアだね。どうだい、アーバン・レジェンドに入らないかい?』
「昨日も言ったけどお断りよ。次は元の世界に戻る方法を探します」
ブラックローズさんが物語退治に居れば、綺羅々ちゃんの安全とかで色々楽出来ることもありそうなんだけどなぁ。本人が嫌なら仕方ないや。
「おや。それは当面、無理だと思いますよ」
ホーリーホワイトちゃんがブラックローズさんに声をかけ、ブラックローズさんから笑顔が消えた。
「なんでよ?」
「私も、いつか帰る為に色々と試したのです。しかし、帰るゲートは見つからず……。今に至るわけです」
「ちっ……!」
ブラックローズさんの視線の先にはましろくん。ましろくんは手を振って断っている。
「ああ、先に言っておきますが、流石に異世界のゲートを探せっていう依頼はムリですからね!最初から断っておきます。あっ、今回の依頼は鵜久森さんが解決してくれたので、報酬は鵜久森さんに渡してください」
「え?!僕に?」
幾らになるんだろうとワクワクしながら手を出すと、ブラックローズさんが一万円札を手渡してきた。
「聖女の力、イコール一万円……」
「月影ましろがまけてくれたのよ。思わぬ収入なんだから、いいでしょ」
ばつが悪そうにブラックローズさんはぷいっとそっぽを向く。
「……一緒に帰りませんか、野薔薇さん」
「嫌よ。私を裏切った教団なんかに、誰が帰るもんですか!」
そうですか、とホーリーホワイトちゃんはブラックローズさんを一瞥し、僕たちに背を向ける。銀髪のポニーテールがふわりと靡いた。
「また……、近いうちに召喚の儀が始まると思います。その時はよろしくお願いしますね」
今回、彼女が僕に挑んできたのも小手調べも兼ねてのことだろう。ああ、僕も魔法剣とか、ましろくんに手伝って貰わずに自分で出来たらカッコいいのになぁ。
「おつかれ!カッコよかったよ、うぐ!」
「ほんと!?」
綺羅々ちゃんから癒しの一言が貰えて、僕は天にも昇るような気持ちになった。僕にとっての聖女は綺羅々ちゃんだよ。
ここのところあまり良い見せ場がなかったから嬉しいなぁ。
僕は双剣を十字に振って風を切り、鞘に収めた。
よーし!これからもパーティのアタッカーとして頑張るぞ!




