転移者に地球の価値基準で商品査定をしてもらったら、無価値に等しい商品が大化けしました!
「海斗さーん」
「おっ、ウルリカじゃないか」
街中で声をかけてきたウルリカは、この一帯では名の知れた商人だ。
海斗は転移して間もない頃から彼女と付き合いがあり、探索で拾ってきたアイテムを買い取ってもらっている。
「ずっと気になってたんだけどさ、うちの商品って地球ではどのくらい売れると思う?」
「えっ……」
海斗はこちらの世界に転移して二年目だが、未だに帰れる見込みがない。
それなのにウルリカはどうしてそんなことを気にしているのか?
「行ける行けないはどうでもいいんだけどさ、純粋に興味があるんだよね!」
「そういうことか」
「ねっ、だからちょっと付き合って!」
「自慢の商品の数々を無価値と判断することになるかもしれないぞ?」
「むしろ査定は遠慮せずに言ってほしいな」
「分かった」
忌憚のない査定はウルリカを傷つけるかもしれない。
そんな懸念から海斗は彼女の商品を査定することをためらった。
だが、彼女は査定に配慮を求めていなかった。
むしろビシバシ言ってくれという彼女に、海斗は快く付き合うことにした。
「じゃーん!先日入荷した伝説の聖剣!これはどうよ!」
「無価値だ」
「えーっ!」
「俺の住んでた国の法律基準で話すが、銃刀法といって6cm以上の刀剣類は所持が禁止されている」
「そもそも販売できないの!」
「そうだ」
「魔物にどうやって対処してるの?」
「魔物なんかいないぞ」
「えっ……」
魔物のいない世界を知らないウルリカは困惑の表情を浮かべる。
「でも人間同士の争いはあるよね?」
「ああ、それはもちろんある」
「そういった国には売れないの?」
「無理だな」
「えーっ……」
「銃以外ろくに使われないからな」
「銃かぁ……」
この世界にも銃は存在するものの、流通はあまり多くない。
需要そのものが少ないため、改良を試みる者もほとんどいない。
したがって、この世界の銃が売れないことは確認するまでもなかった。
「じゃあ武器は全部ダメ?」
「そうだな」
「防具は?」
「日常生活に着る服なら売れるはずだ」
「なら、これはどうかな?」
ウルリカが取り出したのは光のドレスだ。
戦闘用防具でもあるが、日常生活で着用している者もたまにいる。
「日常生活で着る人はいないと思うが、これはそれなりに売れるはずだ」
「おおっ!」
キラキラと輝く光のドレスはあまりにも目立ち、私服として着るようなものではない。
しかし、写真映えする服装として需要が見込める。
「どのくらいになりそう?」
「23,000ゴールドだ」
「やっす……」
「本来の機能が役立たないんだ。仕方ないだろう」
「それもそっか」
光のドレスの流通取引価格は88,000ゴールドだ。
23,000ゴールドでは、誰も売りたくはないだろう。
「う~ん、この食べ物はどうかな?」
彼女が取り出したのは新鮮なイチゴだ。
庶民にはなかなか手の出ない高級食材だが、品種改良を重ねている地球の品質には到底敵わない。
「食料不足の国でなら売れるが、俺の国じゃ無理だな」
「海斗の国はイチゴを食べないの?」
「食べるには食べるが、品質が違いすぎる」
「えーっ、このイチゴ結構おいしいよ」
「この世界の基準ならな」
「ええっ、海斗の国って美食家だらけなの!?」
「その認識はあながち間違ってないかもしれない」
ウルリカは海斗の出身国である日本を美食家の国と評した。
日本人は地球の国々と比較しても、ひときわ味にうるさい。
そのため海斗はウルリカの言葉に思わず頷いてしまった。
「それじゃ、耐熱機能に優れたこの炎のピアスはどうよ!」
「指輪やイヤリングなら売れそうだが……」
「耐熱性能は同じだよ?」
「ピアスは耳たぶに穴を開ける必要があるだろ?」
「それがどうかしたの?」
「嫌がる人が多いんだよ」
「そんな問題もあるの!?」
「ああ、機能性目当てとなれば、なおさらピアスは受け入れられにくい!」
耐熱機能が本領を発揮するのは火を取り扱う業務だ。
しかし、雇用者が従業員にピアスの穴を開けるよう強要することは許されない。
そういった観点から考えても、炎のピアスはあまり売れないだろう。
「へえ、ちなみに指輪やイヤリングならどのくらい?」
「指輪なら5,200ゴールド、イヤリングなら4,500ゴールドの価値はあると思う」
これらのアクセサリーは火気への耐性が付くだけで、夏の暑さには効力を発揮しない。
そうした機能性を踏まえた上で付けられたのがこの価格だった。
「う~ん……」
炎の指輪とイヤリングは4,800ゴールドが標準取引価格だ。
この世界で売買するのとほとんど変わらない。
あまりにも無難な価格を提示されたウルリカはなんともいえない気持ちだった。
「そうだ!これなんかはどう?」
「なんだそれ?」
「古代ハルベルト帝国の初代皇帝が残した道具なんだけど……」
どうやらウルリカも使い道は分からないらしい。
だが、歴史に名を刻んだ皇帝の遺品として高値で売買されているらしい。
「偉人の遺品に値打ちが付くのは地球でも同じだが、この世界は存在さえ認知されてないんだ。だから歴史的な背景を理由に、付加価値が得られることは考えられない」
「あっ……」
この世界の歴史を知らない地球人に、彼の残したアイテムの価値は理解できない。
そのことに気づいたウルリカは、ささっと初代皇帝の遺品を取り下げた。
「よしっ、じゃあこれならどうよ!」
次にウルリカが取り出したのはエリクサーだ。
体力と魔力を完全回復させる秘薬として、この世界では高値で取引されている。
「地球でも間違いなく注目されるアイテムだと思うんだが、販売許可を得られるまでに数年かかると思う」
「何でエリクサーに販売許可が必要なの!?」
「薬と毒は紙一重だからな。安易に販売許可を出せないのは当然だ」
さらに付け加えるなら、薬剤師の資格も必要になるだろう。
どう考えても気軽に販売できるアイテムではない。
「エリクサーに副作用はないよ?」
「適切に服用していればな……」
ウルリカはエリクサーでオーバードーズをしている冒険者を見たことはない。
だが、それは希少性が高い上に、高価でなかなか手に届かないからだ。
「ウルリカはポーション中毒の冒険者を見たことがないか?」
「あー、見たことあるかも」
「エリクサーをあんな風に乱用すれば、命に関わるだろう」
「えーっ!」
エリクサーはポーションよりもずっと強い効能が期待できる。
だからこそ乱用すれば、ポーションよりもずっと危険だ。
「何かぱぱっと売れそうなものはないの?」
「資源ならすぐ売れるだろうが、加工品となると中々難しいな……」
ウルリカの店にある商品は需要こそ期待できるが、法律的に販売が難しい商品ばかりだ。
ギリギリ適法な商品でも、流通すればすぐに販売規制されるだろう。
そのため、「これだ!」といった商品はなかなか見つからなかった。
そんな折、海斗は捨て値で売られていたとある商品に注目した。
「これなら大ヒット間違いない!」
「えっ、それってG級冒険者にもいらないって言われてるアイテムだよ」
「知ってる」
海斗が手に取ったのは体力と魔力が徐々に回復する大容量のリフレッシュアロマだ。
その回復量は実感が得られないほど効果が薄い。
そのため、この世界では200ゴールドでも割に合わないと評されるアイテムだ。
「リフレッシュアロマなら、過剰に取り込んでも毒にはならない」
効果の弱いリフレッシュアロマは過剰に取り込んでも、人体にそう大きな影響は与えない。
さらに持続効果が長く、安定したリラックス効果を期待できる。
ロングセラー商品となることは間違いないだろう。
「これなら一個7,500ゴールドの値打ちはあるはずだ!」
「えーっ、うっそでしょ!」
長らく売れ残っていたリフレッシュアロマは、近々処分する予定の商品だった。
そんな商品に想定外の高値を付けられたことを、ウルリカはただの与太話とは捉えなかった。
「ありがとう。良い話を聞いたよ」
後日、ウルリカの店にはたくさんの人々が訪れていた。
落ち着く店だとして、口コミが広がったらしい。
けれど、人々は気づいていない。
無価値も同然とされていたリフレッシュアロマが、心安らげる空間を作り上げていたことに……




