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友情

作者: 霜惣吹翠
掲載日:2025/10/10

 この時期になるとよく太鼓が夜を鳴らす。それをうるさいなうるさいなと、やや思うと同時に切なく、申し訳なくもなる。というのは昔の私の友人が大層、祭り男であったからだ。

 彼の名はSとでもしておこう。彼とは記憶もはっきりしない、幼稚園の頃から付き合いがあった。近所に住んでいて、趣味があったかなかったは、その頃は覚えていないが、よく遊んでいた気もする。

 唯一覚えているのはなんでか、つま先立ちしてどっちが背が高いかなんて遊んでいた。結局、同じくらいであったが、中学になる頃には彼のほうが高くなってしまって、私はよりつま先立ちして、それこそ足の中指の爪が巻き爪になるほど背伸びしなければ勝てない、いや、しても勝てないが、ともあれ、巻き爪に悩まされていたのは彼のほうであった。

 私がSのことを思い出すとやはり申し訳なく思う。それは半ば、私の付き合いの悪さのせいで、長年の友情が簡単に消え失せたからだ。しかし連なって抱くのは不満であり、また怒りである。私は正直、彼のことが好きではなかったのだろう。それも彼の性格ではなく、私の性格が悪いせいだからこそ、私は自分自身に怒りを抱くのだ。


 Sは昔から祭りが好きだった。大方それは彼の父親の影響であろう。彼の父親はその為に子供の部活を休みにしようとするほどである。昭和の、あるいは田舎の、父親といった性格である。彼もそこに似たのか、いや憧れ、そういった人種が輝く舞台ではよく騒ぎたがるものである。

 小学生の頃からそうであった。彼の祭りへの熱意は凄まじいもので、彼の周りにいるクラスメイトもまた似ていた。私はそれに気圧され、最初はある程度好きであった祭りが、遠慮がちになって、最終的に嫌いになった。私は最近になって、車の造形やその技術などに好感があって、傍から見る分には暴れまわる大人、子供は嫌いではないが、やはりその縁に入らねばならないという、あるいは入らなければ浮くこと、浮いた方がマシなくらいにそこにある付き合いが面倒であり、嫌いなのだ、そう納得を重ねている。もちろん小学生の内にあるその付き合い、より野心的なものもそうである。

 私は昔からそういう性格だったから、小学生の高学年になる頃はやや浮いていた。太鼓を叩くのも面倒であるし、見ているだけでいいのだ。強いていえば車に乗って町の景色を見たいくらいである。しかしそのために叩かないとならないなら、特にその前一カ月の夜に毎日叩きにいくくらいなら、そこで面倒な近所と関わるくらいなら、我慢できた。

 それは友達がいなくても同じことである。孤独であっても私は我慢できた。孤独のせいで態度の大きいやつにいびられても明日には忘れた。ずる休みした。特に問題はない。その一人に冗長し、その一人に嫌われる恐怖か、面倒くささか、そういったものに耐えるのも楽だった。あんなやつに従うくらいなら――つまりはその一人に歯向かえば自分ものような空気感があった。それが気に入らなかった。

 周りの友達だったものもそのせいでいなくなった気もしなくもないし、全く私に共感しなかったが、Sはやや違った。Sは先ほどの通り、記憶もない頃から友達であったので、私を一人にしなかった。彼は意地っ張りな私とよく遊んでくれたのだ。

 何が言いたいかといえばSは随分と良い性格なのだ。彼はほんとうに周りを大切にする。友達を裏切らない。それでもって時として賢く、私を一時的に見捨て、私をその後で励ます。彼は随分と良い性格なのだ――そこが私は一番嫌だった。


 中学生に入ってすぐである。彼は例のごとく友情の為に私と同じ部活に入った。彼は例のごとく友情の為に私と同じオタクの集団に入った。彼はそういったものに疎かったのにも関わらずだ。中学となると今までの交友が薄まる。同じ小学校の友達は別のクラスに行く。それでたまたまか、必然か、私と同じクラスになって、私と一緒にいるのは良い。それがクラス内だけでなく、部活でもだ。私はややうんざりした。

 時折私は彼が自分の味方であるのかわからなくなる。彼は他の友達と同じところに行かなかった。その癖に私が部活内で喧嘩をすると、彼は決まって大勢のほうへ着いた。彼は保身なのだ。でもそれは別に良いのだ。私の性格が悪いだけだからだ。ただ長年の友達が私をあまり庇わないのは一番傷付くものだ。


 それまではやはり私が悪い。こう打ってみれば余程の頑固であり、我慢弱く、協調性の無い人間だった。そのせいで周りを傷つけていた。だからその点においてSに何も悪いところはない。

 しかしこれがS自身によるものであるなら話は変わる。彼は自分自身を裏切った。私の彼が嫌いなところはそこなのだ。


 Sには昔から発明家になるという夢がある。幼稚園の頃からである。中学でも間違いなくそうであった。しかしなぜか、彼は、彼は非常に頭が良い。にもかかわらず、彼は自分の夢が叶いやすい普通科ではなく工業へ進むと決めたのだ。

 私はこれでも彼と一番長い時間を過ごした友達だった。彼の嘘のついている顔はすぐにわかった。大抵、彼が嘘をつくのは周りを気にしてだ。彼は先ほども言ったが、性格が良い。友情、付き合いを重んじる。たとえ、たとえそれで――自分の夢を切り捨てても。

 私とはその点で致命的なまでに対照的だった。彼は絶対に安全な道しか選ばない。その生き方が悪いとは言わない。私がそれを決める権利などない。彼は自由だ。だが、だが彼は自由ではない。彼自身が周りに囚われ過ぎている。そして彼は賢いからそのことを痛感していた。ましてや全く友情よりも夢を優先していた私とずっといたのだ、彼は間違いなくわかっていた。


 私は祭りが求める男らしさ、すなわち挑戦心が真実ではないと実感している。大人ならばそれで良い。子供までその強さを求めるべきではない。かといって自己保身のために群がることのどこが男気なのか、家族の為だろう。そして子供は家族を傷つけるものだ。Sはその勇気が無かった。自分の為に、夢の為に、周りを傷つける勇気が。それでもってそうまでして残ったところにある真の友情を、愛を、彼は信じれなかった。


 いいや、夢すらも嘘だったのかもしれん。今宵は残響に魘され過ぎた。

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