038
今日はダンジョンに潜って2日目。
昨日来た道を引き返し、今度は真ん中に進んだ。その先には休憩部屋なのか、何もない空間が広がっていた。
また引き返した後は一番右に行き、2層目に行く階段があったため上った。
2層目はゴブリンやスライム、ホーンラビットなどを倒していきアイテムを回収していく。途中で宝箱もあり、開けると魔石や武器、ポーションなど見つけていった。
1層目とは違い、道が複雑に入り組んでいてなんだか広く感じる。3層目に入ってもそれは変わらず、16層目に到達するまで変わらなかった。16層目までは5日程かかり、それまでに手に入った素材は数え切れないほどあった。それをひたすら無限倉庫に入れていき、マッピングしながら道を歩いたけど、ほぼ全ての魔物を倒していると思う。……全ての道を通ったからね。どれだけ運がないんだろうか。
16層目は森林のような層になっていて虫が出そうな雰囲気はあったけど、出たのは狼の姿をした魔物だった。
事前の情報通り、進化したスライムやホブゴブリン、
狼の魔物がたくさん出た。
「今度はどっちに進む?」
「僕、右」
「私も右です」
「俺は左」
「僕も左」
「私は……右! それじゃあ、右行こう!」
私達は歩き進め、途中で出てくる魔物も倒していく。
3日程かけて20層目まで到達し、このダンジョンの最奥の場所を目指し、歩いていた。
◇
「ついに、辿り着いた!」
「意外と早くついたけどね」
「そうですね、今日で10日程経った頃でしょうか?」
「でも、この部屋宝箱しかねぇぞ?」
「リアンとレオンが宝箱を開けてみなよ」
リックにそう言われて宝箱を開けた瞬間――
「リン様、レン様!」
「「リアン、レオン‼︎」」
私とレンの足元に魔法陣が現れたと思ったら光り輝き、3人が目の前から消えた……。
私は気を失っていたのか目を開ける。横の体勢になっていたらしく、目の前にはレン顔がありまだ気を失っているのか瞼は閉じられていた。
私はレンをゆすって起こした。
「レン、起きてっ! ねぇ、起きてよレン!」
「……んぅ? ……リン?」
レンは目を擦りながら体勢を起こした。
「レン、私達カイト達と離れちゃった!」
「ここは、どこ?」
「わかんない、周りは暗闇で何も見えないし……」
「じゃあ、照明で照らそう」
「……うん」
私達が魔法を出そうとした瞬間――
「汝ら、我の、願いを聞いてはくれんか……」
か細いが威厳のある声が響き渡った。
「ヒィ! おばけ!」
「そんなわけないじゃん‼︎」
「我は……青龍だ。しかし……」
「「青龍?」」
レンが《照明》を発動させ周りを照らす。
すると、そこにはサファイアを思わせる綺麗な青色の鱗に覆われた体で、青色の瞳をした龍が横たわっていた。翼は閉じられており、山ほどもある体もぐったりとしていた。
「そう、我は青龍。しかし……悪龍になる前のな。我は後10年もすれば、我を失い暴れ出すだろう……。そこで願いがあるのだ、我を浄化してはくれないか?」
「……浄化?」
「……あぁ、我は長きに渡り瘴気を溜め込んできたために悪龍に変化しそうなのだ。元々は、この世界の守護者、古龍の一体だったのだが、世界の掟を破ってしまったんだ。そのため、罰として瘴気を永遠に溜め続けていたんだが、もう身体が持ちそうにない。今この時を逃せば、我は…………」
「どうして、僕たちだったの?」
「それは、条件に当てはまるのが汝らだけだったのだ……」
「「条件?」」
「あぁ、ここに辿り着くための条件は2つ。1つ目は神の御使……聖女か愛し子であること。2つ目は聖魔法が扱え、且つ魔力がある一定以上の水準に達している事だ。これが当てはまらないものはこの部屋には通されないように仕掛けた……」
「でも、私達は浄化をしたことないよ」
「よい、汝らは扱えるであろう」
「でも、僕らがしなきゃいけないことなの?」
「……それは、わからぬ。しかし、確実に言えるのは今この場で浄化されないと、約10年の時を経て我を失った悪龍が地上に飛び出し世界の破滅に導くだろう」
「……はぁ。それ絶対浄化しなきゃいけないじゃん」
「流石に世界を滅亡させたくないね」
「……申し訳ない、迷惑をかける。後もう一つの頼み事を聞いてくれないか?」
「もう一つ?」
「何かあるの?」
「うむ……我の体の背後にある卵を竜人の国に届けてはくれぬか? 時はいつでも良いが、できれば10年以内には行ってほしい。巫女には話しておるから、きっと大丈夫だろう……」
「わかったよ。私達、国を回る予定だから責任を持って届けるよ」
「そうだね、ちょうど行くしね」
「感謝する……。報酬と言ってはなんだが我は浄化しても、生きることはできない……。すでに瘴気により魂がダメになってしまった。天界へ行き修復してくるから、この体を汝らに全て託そう。
汝らならば、悪いことにはせんだろうよ。迷惑料だ、ぜひ受け取ってほしい……」
「いいんですか?」
「あぁ、龍の素材はいい素材だぞ」
「では、ありがたくいただきますね」
「……あぁ、それでいい。では瘴気を浄化する呪文を汝らに送るからよろしく頼むぞ。
久々に人間と言葉を交わせて楽しかったぞ……」
その言葉を最後に青龍は口を閉じてしまった。その代わりに頭に浄化の呪文が浮かび上がってきた。
レンと顔を見合わせ頷いた。私達は青龍の目の前に立ち2人で手を繋ぎながら詠唱を始める。
「「慈悲深き光よ、天より降り注ぎ、苦しみを抱く魂を安らぎへと導き給え。
過去も未来も赦しのうちにあり、迷いも憎しみも今ここに融けゆくもの。この地を聖域とみなし、穢れなき始まりの光を下ろし給え。
我らが声は祈り、我らが祈りは道標。迷える者を安らぎの彼方へ還さん、救済の光よ、今ここに照らし給え――《天浄一閃》」」
詠唱を唱えた瞬間、天上から光が降り注ぎ青龍の身体を光の粒子が包んでいく。瞬間、青龍が発光したかと思ったらすぐに光が収まり、辺りには温かな優しい光が降り注いでいた。
「……感謝する、我は無事に浄化できたようだ。……我の卵をよろしく頼む。体も好きにしてくれ……では、我はもう天へと戻る。達者でな……」
その言葉を最後に青く輝いていた瞳が徐々に輝きを失い、最後には濁った瞳になった。私達は青龍の瞼を閉じてあげ、冷たくなっていく青龍の身体の背後にまわる。
そこには白い鱗に覆われた、40cmくらいの大きさの卵があった。
「これだよね?」
「多分ね」
「私が持つ? レンが持つ?」
「リンが持ちなよ。僕は青龍の亡骸を入れるよ」
「わかった、でもここからどうやって帰る?」
「ルキ達に聞いてみるか」
「そうだね。でも、カイト達に連絡しようよ」
「だね。ルキ出てきて、カイトに繋げられる?」
ルキがレンから出てきて返事をする。
「できるぞ」
「というか、今までどうして出てきてくれなかったの?」
「だって、危険はなかったじゃないか?」
「そうだけどさ、僕らが心配になんないの?」
「我らは基本的に動かないぞ。ただの召喚獣なら動くかもしれんが、聖獣や神龍、神霊など高位の者たちは基本的に世界の秩序を乱さないために手は貸さないことになっているんだ。危険が迫っている時なら出るが、今回は危険がなかったのでな、呼ばれるまでは出ないぞ」
「じゃあ、私たちと同様カイト達もそうなの?」
「そうだろうな。まぁ、今回は呼ばれたらしいが危険はないと伝えたからカイト達は落ち着いているだろう」
「そうなんだ、じゃあカイト達に念話を繋げて?」
「わかった。ーーーーできたぞ」
「あ、あー。カイト達聞こえる?」
「……! お2人ともご無事でしたか⁉︎」
「大丈夫か⁉︎」
「怪我はない⁉︎」
「大丈夫だよー!」
「ちょっとお仕事しただけだから、また合流したら詳しく話すから後でね。今どこにいる?」
「今はダンジョンの外に出たところにいます」
「じゃあ僕らも外に出るから待ってて!」
「わかりました。お待ちしております」
「気をつけて帰ってこいよ!」
「気をつけて、戻ってくるんだよ!」
「「うん! じゃあまたね」」
「さて、どうやって外に出る?」
「外に出るなら、転移術を施した魔石があるはずだぞ。ダンジョンから出るにはそれでしか出られないように時の神が弄っていたからな」
「へぇ、ダンジョンって神様が造るんだね」
「いや、違うぞ。ダンジョンは神が造るものじゃない、ただ、天上の者が造るから間違いではないが……。
――話が逸れたな、いいから丸い形をした魔石を見つけたら手で触れるんだぞ。それで帰れるからな」
「……わかった、ありがとうルキ」
ルキが亜空間に戻り、帰る方法がわかった私達はレンが青龍を回収し、私も卵を無限倉庫に入れた。辺りを見回すと丸い魔石が乗った台を見つけ2人で手をのせた。
次の瞬間、足元に魔法陣が現れ、景色が変わった――




