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開会の言葉が終わり、太陽の光を浴びた砂地が戦う生徒たちを迎え入れる。周囲の観客席は生徒や教師、各国の主要人物や保護者で埋め尽くされ、熱気と興奮が渦巻いていた。
「さぁ、今年もやってまいりました! 《入学洗礼の儀》‼︎ 今年度の新入生は過去最高の新入生達が揃っていると情報が入りましたが、果たしてどうなのでしょうか! 実況を務めますのは、6年Aクラスのリト・メイナーでございます‼︎ 審判は1年Sクラスのギルバート先生が行います!
それでは早速ですが第1試合――『リアンチームvs2年Sクラス』です‼︎」
中央には向かい合う2つのチーム。2年Sクラスリーダーのクラウス・ハーヴェストが、不敵な笑みを浮かべながら大剣を肩に担ぐ。
「新入生ってのは、少し痛い目を見たほうがいいよな? 長々と魔法の詠唱しているようじゃ相手にならないぜ」
挑発するような言葉に、私は表情一つ変えず答える。
「私達はただ全力で戦うだけです」
一瞬の沈黙。そして――
「試合開始!」
ギルバートの合図とともに、戦いが始まった。
最初に仕掛けたのは二年生だった。
「燃え上がれ、《火炎弾》!」
火属性の魔法使いが、巨大な火の球を放つ。続けざまに別のメンバーが雷の槍を作り上げ、空中へと投げ放った。
「リアン!」
「任せて‼︎」
リアンは即座に水魔法を展開し、青く輝く水流が巻き上がる。火炎弾を包み込むようにして蒸発させ同時に、カイトが風魔法を繰り出し、雷の槍の軌道を逸らした。しかし、その攻撃は囮だった。
「遅いなぁ‼︎」
白煙の中から突進してきたのはクラウスだった。大剣を振りかぶり、リアンを狙う。
リアンは一歩後退し、素早く腰につけていた剣を冷静に抜き、構えた。
「《水流剣舞》‼︎」
水の魔力をまとった剣が、柔らかな波のようにしなりながらクラウスの斬撃を受け流す。
ーーだが、それを見越していたかのように背後から別の剣士が襲いかかった。
「もらったぁぁぁぁ!!!」
その瞬間、強烈な閃光が炸裂する。
「ぐっ……⁉︎」
レンの光魔法が闘技場を照らし、二年生たちの視界を奪った。
「目くらまし、成功!」
リアンがレンに対し微笑むと、すでにハルトが動いていた。
「《砕ける大地》‼︎」
剣を振り下ろすと大地が砕け、衝撃波が広がる。体勢を崩した二年生の剣士が、まともに衝撃を受けて戦闘不能となった。
「これで五対四。一人減っちゃいましたね、クラウス先輩?」
形勢が不利になったことに、クラウスの表情が険しくなる。
「……甘く見てたぜ」
「まだ余裕そうですね。でも、そろそろ決めにいきますよ‼︎」
リアンの合図とともに、リックが一歩前へでる。
「風の精霊よ、我が力となれ」
リックの詠唱に呼応し、風がうねるように集まり始める。
「吹き荒れろ、《暴風の刃》!」
突風が旋風となり、場内を包み込む。砂塵が舞い、二年生の陣形が崩れた。
「ちっ……!」
クラウスが剣を突き立てて耐えるが、他の三人は戦闘不能になる。そこへ追撃が飛ぶ。
「行くよ、レン‼︎」
「うん!」
リアンの水魔法とレオンの光魔法が交差し、一つの閃光の槍となってクラウスに迫る。
「《水閃光の槍》!」
魔力が炸裂し、クラウスの大剣が弾き飛ばされた。
「終わりだぁ‼︎」
ハルトがクラウスの喉元に剣を突きつける。ーー勝敗は決した。
「試合終了! 勝者1年Sクラス、リアンチーム!」
場内は静寂に包まれ、その後、爆発的な歓声が沸き上がる。
「すげぇ……‼︎」
「一年が勝ったぞ‼︎」
「今年の一年は化け物揃いかそれともこのチームだけなのか……」
観客席の声が響く中、私達はお互いに視線を交わした。
「この後が大変だね……。でもまずは一勝おめでとう!!」
レンが拳を突き上げ、ハルトがガッツポーズを作る。リックも小さく喜び、カイトは微笑みを浮かべていた。彼らはその後場内を後にし、控え室へと向かう。控え室にはスクリーンが用意されており、特殊な魔法で闘技場内を映すことができるため観客席から見ていなくとも戦いの様子が見れるのだ。
私達は次の戦いを見たいので早足で控え室に戻った。
王立学園の闘技場に、再び緊張が満ちる。
「さあ、続いての試合はルシアチーム vs 3年Sクラス! すでに2年Sクラスとの戦いで新入生の実力は証明されましたが、果たして上級生にどこまで通用するのでしょうか!」
実況の声が響き渡り、観客席からも期待の声が上がる。リアンたちの鮮烈な勝利に続く形となるこの戦いに、多くの者が注目していたのだ。
ルシアは静かに目を閉じ、深呼吸をした。彼女の役目は、戦いの中で仲間を支え、勝利に導くこと。直接の戦闘は得意ではないが、彼女の聖属性魔法は回復と補助においては絶対的な力を持つ。
対する3年Sクラスは、余裕の表情を浮かべながら闘技場に現れた。彼らは経験を積み、戦い方を熟知し始めていた。
「今年の1年Sクラスはなかなか優秀みたいだな」
三年生のリーダーが微笑む。しかしその表情には慢心ではなく、確かな自信があった。
「――試合、開始‼︎」
開始の合図と同時に、クラリスが前に出る。
「燃え上がれ、《火の竜巻》‼︎」
轟音と共に、巨大な火が巻き上がる。灼熱の火が三年生に襲い掛かるが、すかさず三年生の魔法使いが反応する。
「《水障壁》」
水の障壁が火を打ち消し、蒸気が立ち上る。
「……やはり簡単には崩せませんね」
クラリスが悔しげな顔をした。彼女の攻撃魔法は強力だが、それを防ぎきる三年生の防御もまた洗練されている。
「ジュリアン、フレイヤ‼︎」
ヴィクトールが冷静に指示を出す。ジュリアンは即座に剣を構え、前線へと駆ける。一方フレイヤは風の精霊を召喚し空中へと舞い上がった。
ジュリアンの剣が三年生の剣士と激突する。激しい金属音が響き渡り、互いに攻防を繰り広げる。
「くっ……さすがに手強い!」
ジュリアンは相手の剣圧を受けながらも、素早い動きで切り返す。しかし、相手もまたそれを見越しており、次の一撃を狙っていた。
一方、フレイヤが風の精霊を駆使して三年生の魔法使いを牽制する。
「《風の剣》!」
風で作られた鋭い剣が飛ぶが、三年生の魔法使いは落ち着いて防御魔法を展開し、難なく防ぐ。
「《聖なる加護》!」
ルシアが唱えると、光が仲間たちを包み込み、一時的に能力を向上させる。ジュリアンの動きがより鋭くなり、クラリスの火がさらに強まる。しかし――
「《重力世界》」
三年生の一人が重力魔法を展開し、ルシアたちの動きを鈍らせる。
「しまっ――‼︎」
ジュリアンが足を取られた瞬間、三年生の剣士の攻撃が彼の肩を捉え、強烈な衝撃が走る。
「ジュリアン‼︎」
ルシアがすぐに回復魔法を唱えようとするが、その前に三年生の魔法使いが牽制の魔法を撃ち込む。
「そうはさせない‼︎」
ヴィクトールが即座に割って入り、ルシアを守る。しかし、三年生の追撃は止まらない。
「ルシア、最後の支援を頼む!」
「……え、えぇ!」
ルシアは最後の力を振り絞り、回復と強化を施す。 仲間たちは再び立ち上がり、最後の猛攻を仕掛ける。
ジュリアンとクラリスが前線で攻め立て、フレイヤの風がそれを補助する。ヴィクトールが全体の動きを統率し、ルシアが仲間を守る。――だが、三年生はそれを上回った。
「……終わりだ!」
三年生の剣士がジュリアンを押し切り、同時に魔法がヴィクトールを吹き飛ばす。クラリスとフレイヤも倒れ、最後に残ったのはルシアだけだった。
「まだよ‼︎……」
ルシアが立ち上がろうとする。しかし彼女は攻撃魔法を持たない。戦える術がない以上、勝敗は決まっていた。
「勝者、3年生Sクラス!」
宣言が響いた瞬間、観客席からは大きな歓声と拍手が沸き起こった。
「惜しかったな!」
「ルシアチーム、めちゃくちゃ善戦したぞ‼︎」
「あと少しだった‼︎ 凄かったわ!」
敗北はした。しかしルシアたちの健闘を称える声は止まなかった。 ルシアは静かに目を閉じ、深呼吸をしてから仲間達に歩み寄った。
「……次は、もっと強くなるわ」
その言葉に、仲間たちは無言で頷いた。
「でも惜しかったな……。もう少しだったのに」
ヴィクトールが悔しげに呟く。指揮官として戦局を読んでいた彼にとって、勝利が手の届くところまで迫っていたのを感じ取っていたのだろう。
「ふん、次は絶対に勝つんですからね‼︎」
クラリスが拳を握りしめる。火を操る彼女は、最後の一撃で相手に届かなかったことを悔やんでいた。
「でも、いい戦いだったと思うよ」
フレイヤが穏やかに微笑む。風の精霊使いである彼女は、最後の瞬間まで仲間を支えることに全力を尽くしていた。
「……あぁ。俺も悔しいが、次の戦いの糧になる」
ジュリアンが剣を収めながら肩をすくめる。剣士である彼は三年生の剣士と互角に渡り合っていたが、最後の重力魔法による足止めが決定的な敗因になったことを理解していた。
そして、ルシアは仲間たちを見渡した。彼らの目には敗北の悔しさだけでなく、次の戦いへの意志が宿っている。
「私たちは、もっと強くなりますわ」
静かだが、確かな決意。
「……それにしても、三年生ってあんなに強いのかよ」
ジュリアンがため息混じりに言うと、ヴィクトールが苦笑した。
「まあ、そりゃそうだろう。俺たちはまだ入学してひと月だが、彼らは二年間ここで鍛えられてきたんだからな」
「確かに、そうね」フレイヤが頷く。
「でも、これで私たちが1年Sクラスの実力を、強いのはリアン達だけではないって証明できたのは間違いないわ」
クラリスがそう言うと、観客席からも続々と称賛の声が上がっていた。
「一年、すごかったな!」
「惜しかったけど、あの戦いぶりは見事だった‼︎」
「ルシア・ラルティス、ただの公爵令嬢にしておくのは勿体無いな……」
ルシアは静かに観客席を見上げる。そこにはルシアの両親がいて、二人とも満足そうな顔をしていた。
「さて、そろそろ控え室に戻るか」
ヴィクトールの言葉に、ルシアたちは頷いた。ゆっくりと歩き出す彼らを、観客の拍手が見送る。




